第6回: 生活記録表を用いた復職可否の判定 〜 こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援〜

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前回までのあらすじ

前回(休業中の従業員との定期的な連絡)は、メンタルヘルス不調で休業中の従業員と、定期的な連絡を行う場面について説明した。職場復帰支援をスムーズに進めるためには、休業中からの対応が重要となる。今回は、職場復帰支援の最大の難関である、復職可否の判定について考えてみたい。

事例:生活記録表を使っているのに復職の判断がうまくいかない

ある電気機器メーカーの健康管理室に勤務する田中保健師は、うつ病で休業中の山田さんのことを考えていた。山田さんが自宅療養をはじめてから3カ月がたつ。定期的な面談の場面で、山田さんはいつも「ずっと休んでいて職場に申し訳ない。早く復職したい」と話している。体調も回復してきたため、そろそろ復職の話が出てくるかもしれない。

しかし、それこそ田中保健師がもっとも心配していることだった。これまでの経験から、メンタルヘルス不調で休業中の従業員は、復職をあせって、少し早めに復職の診断書を出してくることがある。無理をして復職した結果、体調が悪化して再休職してしまった人もいる。今度こそ、復職可否の判断を適切に行いたいといつも思っているが、具体的にどうすればいいのだろうか。

社内の復職支援のマニュアルには、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から、復職可否の判断の基準として「復職の意欲が十分にある」「通勤時間帯に一人で安全に通勤できる」「決まった勤務時間に就労が継続できる」などと書かれている。しかし、具体的にどのように判断すればよいか明確な基準はない。そのためか、まだ復職は早いのではないかと思われる事例についても、主治医の診断書を根拠に復職可と判断してしまうことが多いようだ。

最近、知り合いの産業看護職からメンタルヘルス不調の復職可否の判断に「生活記録表」を使うとよいという話を聞いた。それ以来、休業中の生活の様子を記入してもらうようにしているが、うまく使えている実感がない。生活記録表を使っていても、復職の可否について社内の意見が分かれてしまい、結局は、主治医の診断書の通りに判断してしまうのだ。

はたして、復職の可否を適切に判断するためには、どのような方法を取ればよいのだろうか。

解説:復職判定と生活記録表の活用

復職可否の判断は、職場復帰支援の成否のカギを握る重要なプロセスである。病状が十分に回復していないうちに復職してしまうと、症状の再燃や再休職につながることがある。復職可否の判断は慎重に行う必要がある。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成24年改定)」には、復職可否の判断基準として「職場復帰に対する意欲」「安全な通勤」「所定の勤務時間の就労継続」「疲労の回復」「適切な睡眠リズム」「注意力や集中力の回復」などが挙げられている。

しかし、休業者自身は早く復職したいと考えていることが多く、主治医の「復職可能」の診断書も、そうした本人の意向を反映して少し早めに出てくることがある。そうなると、本人との数回の面接や主治医の診断書だけで回復の状況を判断するのは難しい。

そこで最近では、復職判定に休業中の生活リズムを用いる方法が提唱されている。先月号でも紹介したように、生活リズムは病状の回復にあわせて少しずつ回復していく。生活リズムを評価するためには「生活記録表」と呼ばれる用紙が用いられている(図1)。どのような書式でも構わないが、睡眠リズムを記録しやすいよう24時間の記入欄があるとよい。また、あまり細かく記録する必要はなく、睡眠と外出の様子がわかればよい。生活記録表の様式例は筆者のウェブページからダウンロードできる(https://electricdoc.net/rwsb)。

図1:生活記録表の様式例

生活記録表を使用するポイント

生活記録表を使う際に重要なことがふたつある。ひとつは、復職可否の判断基準を事前に、明確に決めておくことだ。生活記録表を用いる際には、あらかじめ次のような基準を定め、全ての事例で同じ基準を用いるよう、社内の運用を統一しておくとよい。また、新型コロナウイルス対策などで外出制限がかかっている時の職場復帰の目安についてはこの記事を参照のこと。

  1. 出勤に間に合う時刻に起床している
  2. 日中は9時~15時ごろまで図書館などに外出して過ごす
  3. このような生活を月~金曜日まで、少なくとも2週間以上続けている

この基準を用いることで「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にある判断基準の大部分を評価できる。復職可否の基準は、本人を含め、社内の関係者にもあらかじめ伝えておき、関係者全員が同じ基準で評価するようにすると判断がぶれない。

生活記録表を用いる際には「主治医が医学的な見地から復職可と判断した後に、会社は生活リズムなどを見ながら、具体的な復職のタイミングを決める」という説明をすると、復職に向けて関係者の足並みをそろえやすくなる。

もうひとつ、生活記録表を使いはじめるタイミングにも注意が必要だ。体調があまり回復していない時期に生活記録表をつけはじめると、記入すること自体が大きな負担になることがある。生活記録表を使う時期としては、症状がある程度改善して、主治医からも「そろそろ復職に向けて練習をしていきましょう」と言われている頃がよい。

休業中の定期的な連絡の際に、本人の生活リズムや主治医との診察の様子などを確認し、生活記録表を使い始める時期を検討しよう。判断が難しいと感じる場合は、本人に「次回の通院で主治医の先生に確認して、許可がもらえてから記録をつけましょう」と伝え、主治医に確認しよう。

事例:生活記録表を用いた復職の判断基準を産業医・本人と共有

田中保健師は、人事担当者と産業医に相談し、生活記録表を用いた復職可否の判定基準について提案した。「主治医が医学的な見地から復職可の判断をした後で、いつから復職するかについては生活記録表を見ながら会社が決める」という考え方は、人事担当者や産業医にも受け入れやすかったようだ。

さらに、山田さん本人にも復職判定の基準や、復職までの進め方について説明し、主治医と相談しながら生活記録表を記入してもらうようにした。現在、山田さんは、図書館などに通う練習を行っている。順調にいけば、おそらく来月頃には復職できそうだ。

ポイント:生活記録表を用いた判定基準を社内で統一する

メンタルヘルス不調の復職可否の判断には「生活記録表」を用いるやりかたがある。生活記録表を使うと、復職の意欲があること、通勤時間帯に安全に通勤できること、決まった勤務日・時間に就労が継続できること、疲労が翌日までに回復すること、適切な睡眠リズムが整っていること、業務遂行に必要な注意力が回復していることなど、復職判定に必要な要素のほとんどを確認できる。

生活記録表を用いる際には、復職可否の判断基準を事前に決めておき、人事担当者・産業医・産業看護職・職場の管理監督者が、同じ基準を用いて判断することが大切だ。

次の記事へ:不調の原因とストレスの対処法を振り返る

「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧

  1. 体調の変化に気づいたとき、どうすればいい?
  2. 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
  3. まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
  4. 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
  5. 休業中の従業員との定期的な連絡
  6. 生活記録表を用いた復職可否の判定
  7. 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
  8. 職場復帰支援プランの作り方とポイント
  9. いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
  10. まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
  11. 復職3~4カ月目に気をつけること
  12. 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)

上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。

参考資料