こんにちは。産業医の難波です。
この記事では、うつ病などで休職中の方やご家族、職場で復職支援をする方に向けて、「復職の最適なタイミング」の見極め方についてお伝えします。
「そろそろ復帰できそう」と感じていても、実際はまだ……!?
体調が回復してくると「そろそろ復職できるかも」と感じる瞬間があります。前向きな気持ちはとても大切ですが、焦って復職すると再休職になるケースも少なくなりません。
【ある30代男性社員のケース】
うつ病で休職していた30代の男性社員は、気分が安定してきたのをきっかけに、主治医に復職の相談をしました。主治医は「もう少し休んでもいいのでは」と慎重でしたが、本人は「家にいても仕方がない」と「復職可」の診断書を書いてもらい、復職することになりました。
復職後、最初の2週間は順調でしたが、3週目から「朝がつらい」「気分が重い」と出勤できない日が増え、1ヶ月もたたずに再休職となってしまいました。後から話を聞くと、「職場に迷惑をかけたくない」という気持ちから、無理をして復職を早めたことがわかりました。
復職のカギは「生活リズムの安定」
再休職を防ぐために、復職時の状態をよく観察していると、生活リズムの安定度が、大きな違いを生んでいることに気づきます。
再休職しやすい人の傾向
• 就寝・起床時刻がバラバラ
• 外出の頻度が少なく、体力が戻っていない
安定して働けている人の特徴
• 毎朝、決まった時間に起きている
• 出勤時間に合わせて、外出の練習をしている
「生活リズム」や「外出ができる体力」の状態が、復職のタイミングを判断するうえで、非常に重要なポイントになります。
回復は「3つの段階」で進む
メンタル不調からの回復は、一般的に、以下のような3段階を経て進みます。
- 気分や体調が少しずつ落ち着いて「なんとか、日常生活はふつうにできるかな」と思えるようになる段階
- 睡眠リズムが安定してきて、毎朝、きちんと、仕事に間に合う時間に起きられるようになる段階
- 外出してもあまり疲れなくなり、毎日、仕事と同じような時間帯に外出して、活動できる段階
復職に最適なのは「3つ目の段階」になってからです。焦って無理をして復職すると、その後、体調が悪化して再休職してしまうこともあります。
「生活記録表」で回復の見える化を
自分が今、どの段階にいるのかを確認するのに役立つのが「生活記録表」です。記録するのは、「寝ていた時間」と「外出していた時間」の2つだけ。これだけで、生活リズムの安定度や、復職に向けた回復度が「見える化」されていきます。

たとえば…
- 第1段階:症状は落ち着いてきたけど、まだ睡眠時間がバラバラだったり、外出もあまりできていない状態です。まだまだ体調の回復を優先する時期です。
- 第2段階:起きる時間が安定してきて、午後には、近所に外出できるようになってきます。少しずつ、復職に向けて、エンジンがかかってきた段階です。
- 第3段階:朝は決まった時間に起きて、平日には仕事と同じくらいの時間帯に外出できるようになります。

この第3段階の状態が、およそ2週間以上、安定して続けられるようになれば「復職準備OK」のサインになります。各段階の生活記録表の具体例などは「職場復帰サポートブック」に掲載されています。無料でダウンロードできるので、ぜひ参考にしてください。
無理をせず、相談しながらすすめよう
最近では、主治医や産業医から「復職に向けて生活記録表をつけましょう」と勧められることも増えています。
ただ「頑張って外出しなきゃ」と無理をすると、かえって体調を崩してしまうこともあります。重要なのは、自分の今の体力に合わせて、少しずつ整えていくことです。必ず、主治医や産業医と相談しながら、ゆっくりと進めていきましょう。
また、この生活記録表を、復職の診断書とあわせて会社に提出することで、会社側も状態を具体的に把握でき、復職に向けた対応がスムーズになることがあります。
まとめ:自分のペースを“見える化”することが、復職成功のカギ
- 復職のタイミングの判断には「生活リズムの安定」が重要
- 「回復の3段階」を参考に、自分の状態を客観的に把握しよう
- 「生活記録表」で“見える化”し、主治医や産業医とも相談しよう
- 第3段階が2週間続けば、復職の準備が整ったサイン
以下のリンクから、「生活記録表」や「職場復帰サポートブック」がダウンロードできます。復職に向けた準備に、ぜひご活用ください。
焦らなくても大丈夫です。復職はゴールではなく、再スタートのための通過地点です。しっかり整えてから、第一歩を踏み出しましょう。私も、みなさんの回復を心から応援しています。