前回までのあらすじ
前回(まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方)は、復職1~2カ月目の過ごし方の留意点について解説した。復職後、会社での生活にも慣れてくると、今後の仕事やキャリアについてのあせりや不安も出てくる。今回は、復職3~4カ月目に起きてくることについて考えていく。本人の不安にうまく対応しながら、職場復帰支援プランにそった業務調整を確実に継続したい。
復職4ヶ月目の山田さんの悩み
山田さんが復職してそろそろ4カ月になる。今も毎月1回の通院を続けており、薬も以前と変わらずきちんと服用している。復職したばかりの頃と比べて、体力や集中力はだいぶ改善してきたように思う。気分が沈んだり、疲れを感じたりすることも少なくなってきた。ただし、まだ、新しいことを理解する時には以前よりも時間がかかるような気がするし、以前はてきぱきと処理できていたことも、ひとつずつ時間をかけて作業している。また、病気になる前は、2~3時間くらい仕事に集中できていたが、最近では1時間くらいで集中力が切れてくるようだ。ただ、全体的に見ると、大きな問題なく仕事ができるようになってきた。
復職したばかりの頃は、仕事を終えて帰宅すると疲れてぐったりしていたが、最近は、少し寄り道をして帰ったり、帰宅後にふつうに食事をしてテレビを見たり、好きなことをしたりする余裕もある。きちんと眠れているし、朝起きた時に体がだるいということもない。体調的にはすっかり「ふつう」に過ごせるようになってきた。つまり、だいぶ良くなってきたように思う。
そうなると、復職したばかりの頃に感じていた「仕事の割り当てが自分だけ少なくて申し訳ない」とか「みんなの負担が増えているのではないか」というようなことを、最近また、ときどき考えるようになってきた。体調はあまり悪くないのに、自分だけ定時に退社するというのも少し心苦しい。今後のキャリアにも影響が出るのではないかと思う。
主治医からは「復職後に無理をしてはいけない」と言われている。けれども、みんな忙しそうに働いている中で、自分だけ役割をきちんと果たしていないような気がして、何だか申し訳なく感じることがある。
「もう少し仕事を増やしてほしい」と上司に頼んでみようかと思っているが、自分から頼み込んで仕事を増やしてもらって、そのせいで体調が悪くなってしまっては、かえって職場に迷惑をかけてしまう。仕事を増やしてもらうべきか、それとも、もう少しがまんしておくべきか、最近はそんなことばかり考えてしまう。
解説:復職3〜4ヶ月目の対応の注意点
復職して3~4カ月目が過ぎると、本人も、仕事にだいぶ慣れてきたと感じられるようになる。ただし、集中力、記憶力、判断力、作業スピードなどは、まだ以前ほどには回復していない。以前と同じようなペースで仕事をすると、疲れがたまって体調が悪化することもある。
復職後の病状の悪化を防ぐためには、復職後も産業保健スタッフとの定期的な面談を続けるようにしたい。面談の際には、体調は悪くなっていないか、職場ではどんなふうに過ごしているか、業務量や業務の負担が過重になっていないかを確認しよう。
ただし、面談だけでは実際の状況がわからないこともある。本人は「大丈夫です」「元気です」と話していても、実際には、職場で無理をしていたり、ときどき体調不良で会社を休んでいたりすることもある。数カ月に1度は、職場の上司からも話を聞き、実際の業務内容や、勤怠の状況、本人の様子などを確認すると、復職後の体調を正確に把握できる。
上司から話を聞く際には、職場復帰支援プランにそった業務調整がきちんと行われているかどうかも確認しておきたい。例えば「復職後1~3カ月目は残業なし」「4~6カ月目は残業月10時間以内」というような計画を立てていても、実際には時間外労働が発生しているということもある。
体調が落ちついているように見えても、原則としては、復職プラン通りの調整を行うよう上司に依頼するとよい。体調には波があるため、調子が良いと思って仕事を増やしてしまうと、その後で調子が下降してしまうことがあるからだ。
また、本人との面談では、以前に自分がどんな場面で、どんなふうに体調を崩し始めたかを振り返ってもらうとよい。例えば「周囲に相談できず仕事がたまってしまう」とか「頭痛や肩こりがひどくなる」「口数が少なくなる」といったような、以前と同じような状況が起きていないかを確認する。体調や症状について心配なことがあれば、次回の通院で主治医に相談するように促しておこう。
きちんと通院できているかどうか、服薬は継続しているかどうかも、面談の際には必ず確認したい。「仕事が忙しくて通院できない」というようであれば、通院できるように業務を調整しなくてはいけない。再発を防ぐためには、主治医の指示に従って通院と服薬を続ける必要があるということを、何度も繰り返し伝えよう。
定期的に産業保健スタッフなどとの面談を続け、日頃の体調や仕事の状況を振り返っておくと、体調管理の助けになることが多い。体調の変化や、仕事のやりすぎ、ストレスのためすぎに注意しながらフォローアップを継続しよう。
事例:山田さんと産業医との面談の場面
山田さんは、会社の産業医との面談の時に「体調は悪くないので、少し仕事を増やしてもらおうかどうか迷っている」と相談してみた。山田さんの話をじっくりと聞いた後で、産業医は「順調に回復しているようだが、山田さんのように、仕事を増やしてもらおうかどうしようかと悩んでしまう人も多い」と教えてくれた。また「そのように感じてしまうのは自然なことだが、医学的な観点からも、今は無理をせずに、当初の職場復帰支援プランの通りに徐々に仕事を増やしていくのがよい」と話してくれた。
さらに、産業医からは「自分の責任が果たせていないとか、きちんと自分の仕事をしないと職場に迷惑がかかるというような考えが強すぎると、また以前のようにストレスが増えてくるよ」と指摘され、山田さんは少しハッとした気持ちになった。
今回のポイント:「以前に体調を崩した時の兆候を確認しておく」
復職後の再発を防ぐためには、以前、体調を崩した時に、最初にどのような変化があったのかを振り返っておくとよい。業務上でどんなことがあったか、その時にどんな気持ちの変化があったか、どんな行動をしがちだったか、また、体にどんな症状が出てきたか、というようなことだ。ストレスだと自分では感じていなくても、体調や勤怠の変化として現れることもある。最近、以前と同じような状況が起きていないか、復職後の面談の場で確認しておきたい。
次の記事へ:復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)
「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧
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- 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
- まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
- 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
- 休業中の従業員との定期的な連絡
- 生活記録表を用いた復職可否の判定
- 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
- 職場復帰支援プランの作り方とポイント
- いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
- まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
- 復職3~4カ月目に気をつけること
- 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)
上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。