前回までのあらすじ
前回(生活記録表を用いた復職可否の判定)は生活記録表を用いた復職可否の判定方法について説明した。今回は、復職後の再発を防ぐために、これまでの働き方を振り返って、ストレスの対処法を考えるためのアプローチについて解説する。
事例:復職に向けていろいろ心配になる山田さん
うつ病で自宅療養をしている山田さんは、現在、主治医の指導のもと、復職に向けた出社練習を行っているところだ。日中、図書館などに通っており、その様子を生活記録表に記入している。
もうひとつ、主治医から別の宿題も出されている。それは、これまでの仕事の進め方を振り返り、復職後に体調を崩さないような対処法を考えてくることだ。これが山田さんにはかなりの難題だった。
振り返ってみると、約1年前に営業部門からマーケティング部門へ異動し、右も左も分からない中で、山田さんは懸命にがんばってきた。仕事は忙しかったが、やりがいもあり、それなりに手応えも感じていた。
ところが、今年に入って新製品の発売で忙しくなったころから、歯車が狂い始めたように思う。寝不足が続いたせいか疲れがなかなか抜けず、仕事の効率も落ちてきた。スケジュール通りに作業をこなせなくなり、どんどん仕事がたまって焦る気持ちが強くなってきた。
もしも、上司や同僚に早めに相談していたら、今のように体調を崩すことはなかったかもしれない。けれど、職場全体が忙しくて余裕がない時期に、自分だけ弱音をはくわけにはいかなかった。自分で何とかするしかない、まわりに迷惑をかけてはいけない、そんな気持ちで仕事をしていたように思う。
山田さんは、実は今でも、当時とあまり考え方が変わっていないと感じている。復職した後で、同じような状況になった時にうまく対処できる自信もない。こんな状態で復職して本当に大丈夫だろうか。不安な気持ちがぬぐえない。
解説:ストレスを感じる時の考え方のクセを振り返る
ストレスを感じている時には、これまではうまく対処できていたような場面でも、つい自分を追いつめるような考え方をしてしまったり、あまり解決につながらない行動を選んだりすることがある。
例えば、仕事が多くて終わらない時に、残業をしてがんばることで、目の前の仕事は何とか片付くものの、疲れと寝不足のせいで翌日の業務効率が落ちてしまうことがある。また、苦手な担当者を避けるようにしていると、その時はやりすごせてホッとしていても、だんだん苦手意識が強くなってしまうこともある。
このように、一時しのぎにはなっても、実際の問題解決につながらない考え方や行動をしていると、ストレスがたまる悪循環に陥りやすい。職場復帰の前に、自分の仕事の進め方を振り返り、自分自身の考え方のクセや行動パターンのクセ、ストレスを感じる時の悪循環を見つけておくと、復職後の体調管理に役立つ。
考え方のクセ、行動パターンのクセ
自分の《考え方のクセ》を見つけるには、ストレスを感じた場面で、「どのようなことを考えていたか」「どんなことを考えて、そんな気持ちになったのか」を思い出してみるとよい。視野が狭くなり、ネガティブな決めつけをしていないだろうか。次のような考え方のクセがないか、振り返ってみよう。
表:考え方のクセの例
1. 根拠のない決めつけ:証拠が少ないままにネガティブな思いつきを信じ込む。
2. 白黒思考:あいまいな状態に耐えられず、白か黒か極端な考え方をしてしまう。
3. べき思考:こうするべきだ、ああすべきでなかったと決めつけ、思い悩む。
4. 極端な一般化:少数の事実をとりあげ、すべての場面にそれを当てはめる。
5. 自己関連付け:悪いことはすべて自分のせいだと考えてしまう。
もうひとつ、悪循環となる《行動パターンのクセ》を見つけるには、ストレスを感じた場面で、どのような行動をとったのか、その結果、ストレスが大きくなったか、それとも小さくなったかを考えてみるとよい。一時的には効果があるように思えても、結局は問題解決につながっていない行動もある。
ストレスの悪循環に陥っている時には「いつもと違う行動パターンを試してみる」のがおすすめだ。例えば、深呼吸や背伸びをしてリラックスする、その場を離れて気分を落ち着ける、同僚や上司に相談する、無理をせずに早めに寝るようにするといった方法などである。自分にあった方法や、やれそうな方法を考えておくとよい。
振り返りの作業は安心・安全が確保された環境で行う
こうした振り返りの作業は、治療のひとつとして、主治医やカウンセラーによって行われることが多い。秘密が守られ、安心して話せる環境でこそ、落ちついて考えることができるようになる。専門的な知識や技術も必要になるため、自信がない担当者は専門家に任せておくのが無難だろう。
職場の担当者や産業保健スタッフがこうした話題に触れる際には「主治医の先生とは、再発を防ぐために、どんなことに気をつけようと話をしているの?」とか「職場のほうで気をつけたいこともあるから、必要なことがあれば教えて」などと、主治医への相談を促すように問いかけるとよい。その際には、本人の失敗の原因を追及したり、批判したり、反省や改善を迫ったりするような言い方をしないよう気をつけよう。
事例:自分のクセを振り返り、産業医などにも伝えてみる
山田さんは、主治医と話をする中で、「自分の仕事は自分の力で進めるべき」「忙しい時に周囲の手を借りるべきではない」という考え方をする傾向があることに気がついた。さらに、周囲の人は自分よりも経験が豊富なのだから、積極的にアドバイスを求めたほうが、チーム全体の仕事の効率や品質が向上するのではないかという考え方にも気がつくことができた。
そうした話を職場の保健師にも伝えてみたところ、復職後の定期的な面談の中で、職場でストレスを感じる場面での対処法についても話をしていくことになった。自分ひとりで対処できるかどうか不安に思っていた山田さんは、主治医の他に、職場の保健師や産業医にも相談できることを知り、心強く感じた。
ポイント:ストレスを感じた時の行動や考え方のクセを振り返る
メンタルヘルス不調の再発を防ぐためには、ストレスを感じた時の対処法を考えておくことが重要だ。そのためには、ストレスを感じた場面のことや、その時にどんなことを考えていたか、どんな行動をとったかを振り返ってもらうとよい。復職の時期が近づいてきたら、再発防止のためにどんなことに気をつければよいか、主治医に相談するように促してみよう。
次の記事へ:職場復帰支援プランの作り方とポイント
「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧
- 体調の変化に気づいたとき、どうすればいい?
- 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
- まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
- 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
- 休業中の従業員との定期的な連絡
- 生活記録表を用いた復職可否の判定
- 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
- 職場復帰支援プランの作り方とポイント
- いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
- まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
- 復職3~4カ月目に気をつけること
- 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)
上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。