産業保健専門職むけ:POMR(SOAP形式)を用いた産業医の面談記録の書き方

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産業保健の現場でのPOMR形式の面談記録の実践例を紹介します

適切な面談記録を書くことは、産業医・産業看護職・産業心理職などにとって、最も重要な業務のひとつです。産業保健スタッフ間の情報共有をスムーズに行うためにも、わかりやすい面談記録が必要です。産業医の判断の内容やその根拠を記録しておくことは、対応の正当性を説明できる証拠となります。系統立てて情報を記録することで事例への理解がより深まり、対応の質も向上します。

医療の現場では、POMR(Problem Oriented Medical Record:問題志向型医療記録)という記録法が使われています。POMRとは診断から治療までの過程を、一定のルールにそって記載する方法です。事実上の世界標準として、電子カルテシステムなどにも広く採用されています。しかし、産業保健の現場では、適切な記録の書き方についての知見が乏しく、それぞれの現場で試行錯誤が行われています。

この記事では、POMR形式の医療記録について、私が実践している書き方を紹介しています。POMR形式の手法やメリットについて、みなさんの参考になれば幸いです。また興味のある方は、私が面談記録の作成や情報共有に利用しているFileMakerデータベースについての記事もあわせてご覧ください。

POMRではない面談記録の問題点 ①うつ病の例

POMRを用いずに書かれた面談記録は、産業医が何を根拠に、どう判断したのかわかりにくいことがあります。たとえば図1の面談記録をみてください。これはうつ病で休業している社員との産業医面談の様子を記したものです。復職についての話題もあったようです。しかし、産業医が「復職可」と判断したのか「復職不可」と判断したのかは不明です。復職を巡る裁判事例では、面談時の産業医の判断が適切だったかが争点となります。産業医の判断やその根拠が記されていないと、会社の対応の正当性を主張することが難しくなります。

図1: うつ病で休職中の社員との面談記録の例

○月○日
だいぶ良くなった。不眠なし。食欲良好。職場のことが気になっている。
妻から言われたことで落ち込んでいる。買い物の件。疲れてしまった。
Aさんが異動すると聞いた。しかたない。焦り。大丈夫。
朝はきちんと起きられる。図書館。歴史小説など。集中できる。
眠剤が減った。2錠から1錠へ。
復職できるかどうか。人手不足。中間層が少ない。忙しい。仕事を引き受けすぎ。上司は何もしてくれなかった。
来月の復職を考えている。主治医もOKと言っている。
焦りも見られる。無理をしないよう主治医と相談。リワーク。
今後も面談継続。

POMRを用いた面談記録の例: ①うつ病の事例

POMRを用いた面談記録では、復職の可否についての産業医の判断とその根拠が明確に記録されます。図2の例をご覧ください。Assessmentの欄を見ると、産業医は「復職はまだ不可」と判断したことが記録されています。さらに「出社を模した生活が2~3週間程度継続できることが復職の目安だ」と考えていたこともわかります。また、本人に対する説明の内容や、会社に対する申し送りの内容も記録されています。産業医や会社の対応が適切だったかどうかを第三者が検証できるような情報がそろっています。

図2: うつ病で休職中の社員との面談記録の例(POMRを用いた場合)

■経過
・20XX年の2月ごろから体調をくずし、4月に病院を受診、同月より「うつ状態」で休業中。

■Problem List
#1. うつ状態で休業中
#2. 職場が多忙
#3. 復職への焦り

■来談の経緯
休業中の定期的な面談(休業3ヶ月目)

■Subjective
【体調】
だいぶ良くなった。よく寝られるようになった。睡眠薬も1錠減った。気分の落ち込みも今はない。
【1日の過ごし方】
朝8時ごろに起きる。二度寝はなし。朝食を食べて、午前中は家の中で過ごす。近くを散歩することもある。昼食後、図書館に出かけたり、なるべく外に出るようにしている。夕食は20時ごろ。寝るのは24時。
【人混みが多いところは疲れる】
ただ、人混みが多いところに出ると疲れる。先日、妻と買い物に行った時、人が多いためか疲れてしまい、家に帰ると寝込んだ。妻から「こんな状況でまだ仕事は無理ね」と言われ、自分でも心配になり、2~3日、気分が落ち込んだ。
【復職の準備】
主治医のすすめで図書館に行った。まだ3回ほど。午後から出かけることが多い。1~2時間は集中できる。日本史が好きなので、そういった本を読んでいる。
【復職への不安】
同僚から、来月にAさんが異動すると聞いた。職場は人が少なく、Aさんがいなくなるとますます大変になるのでは。早く復職しなければと思うが、忙しい現場に戻って大丈夫かと不安にもなる。
【再発防止について】
忙しい職場だったが、組合員には残業をさせられない、自分がやらなければいけないと思って無理をしすぎた。上司も仕事量のことは把握していたと思うが、お互いに忙しく、顔を合わせることが少なかった。仕事について連絡はしていたが、しんどいとか、体調のことは言えなかった。話せていたら楽だったかもしれない。今後は体調を崩さないように、無理をしないようにしたい。

■Objective
前回の面談時よりも元気そう。服装もさっぱりしている。表情も明るい。ときどき不安そうな表情になる。

■Assessment
【医学面】
・うつ状態にて休業中。治療により症状は改善している。
・復職の準備に向けて外出の練習をしているが、人混みに出ると疲れる、午後からの外出しかできていないなど、体力的・活動度的にはまだ回復途中の印象。
・生活記録表をつけてもらい復職のタイミングを検討する。出社を模した生活が2~3週間継続できたら復職可能。
【就労面】
・休業を当面継続する。
・異動による人員減があったことを心配している。復職の際には、当面の業務の軽減について、職場の状況なども確認しておく必要あり。不安が強いようなら、復職前に上司から職場の状況や復職後の業務調整について説明してもらうようにする。
・復職後にまた無理をして残業が増えないよう注意してフォローする必要あり。
【生活面】
・奥さんと2人暮らし。治療には協力的。

■Plan
#1. うつ状態で休業中
・休業・治療継続。
・生活記録票の記入を指示。
#2. 職場が多忙
・復職時に職場の状況を上司に確認する。
#3. 復職への焦り
・生活記録票の記入にあたってあまり無理をしないよう、主治医と相談しながら進めるよう指示。

●次回予定:
1ヶ月後に面談。

●人事担当者への報告:
休業3ヶ月目の面談でした。体調は回復傾向です。主治医の指示で図書館通いなど、復職の準備を行っていますが、まだ回復途中という印象です。あと1~2ヶ月ほどで復職可能な状態になるかもしれません。生活記録票の記入を指示しました。来月の面談で記載内容を確認します。
復職後は6ヶ月ほどの業務調整が必要です。次回の面談までに、復職について人事・上司・産業医とで相談できる機会を設けてください。

POMRではない面談記録の問題点 ②高血圧の事例

健康診断の事後措置の場面でも、POMRを用いた面談記録は有用です。例えば、POMRを用いていない面談記録(図3)をご覧ください。高血圧の治療状況や今後の対応について、ごく簡単に記載されています。医学的な対応においては、この内容で問題はなさそうです。しかし、就業上の措置についての記載がありません。

図3: 健康診断で高血圧を指摘された社員との面談記録の例

健康診断後の面談。BP 150/88、145/85。治療中。家庭血圧は150程度。
薬を増やすよう主治医と相談を。→ 1ヶ月後に経過観察。

健康診断の事後措置において、産業医は就業上の措置について事業者に指導助言を行うことが求められます。就業制限の要否については業務内容をふまえて判断する必要があります。たとえば、営業車両で毎日のように長距離の運転を行っていたら、どんな対応が必要でしょうか。あるいは、毎晩22時過ぎまで残業が続く忙しい時期だとしたら、こんな血圧で勤務を続けていても大丈夫でしょうか。

POMRを用いた面談記録の例: ②高血圧の事例

POMR形式で面談記録を作成すると、職域で必要な対応についても、必要な情報収集やアセスメントを確実に行えます。図4の面談記録では、先ほどの高血圧の社員との面談の様子が記録されています。Subjectiveの部分を見ると、「業務内容」や「生活習慣」などの情報を確認していることがわかります。Assessmentの部分を見ると、業務面や生活面についても検討した内容が記されています。

図4: 健康診断で高血圧を指摘された社員との面談記録の例(POMRを用いた場合)

■経過
・2年前から高血圧の治療開始。
・今年に入ってから血圧が上昇傾向。

■Problem List
#1. 高血圧の治療中だが血圧が十分下がっていない
#2. 脂肪肝

■来談の経緯
健康診断後の面談

■Subjective
【高血圧】
血圧の治療中。薬を飲んでいる。家で測定して140/80くらいだったが、今年に入ってから150を越えることが増えた。先日の健康診断でも高い値だった。
主治医からは薬を変えようと言われているが、しばらく様子を見たいと伝え、薬はそのまま様子を見ていた。

【仕事】
事務職。朝9時~18時か19時ごろまで。国内出張がときどきある(月1~2度)。残業時間は月20時間程度。3ヶ月後から忙しくなる見込み。

【生活習慣】
通勤時間:45分。徒歩15分+電車30分。
夕食:20~21時ごろ、外食が多い。塩分には注意している。
飲酒:ほぼ毎日、ビール1~2本。タバコ:吸わない。
睡眠:24時ごろ就寝~7時起床。よく寝られる。

■Objective
先月の健康診断では 150/88、145/85
本日の血圧 155/85、150/90

■Assessment
【医学面】高血圧治療中。今年に入ってからコントロール悪化。合併症の予防のためには主治医に相談して薬の調整が必要。
【就労面】現時点で特に就業制限は不要だが、今後、本人の残業時間が増える可能性もあり、血圧が下がらなければ残業制限も要検討。
【生活面】単身赴任中。塩分には気をつけているというが、外食中心の食生活。

■Plan
#1. 高血圧の治療中だが血圧が十分下がっていない
・薬の調整について主治医に相談するようすすめる。
・次回、1ヶ月後に面談して治療経過をフォロー。
・血圧があまり下がっていなければ残業制限なども検討。
#2. 脂肪肝
・経過観察

●次回予定:
1ヶ月後。血圧の自己測定結果を持参。

●人事担当者への報告:
なし

医療現場で使われているPOMR形式の診察記録

POMR形式の面談記録では、面談で得られた情報をProblem List、Subjective、Objective、Assessment、Planというそれぞれの項目に整理します。Problem Listとは、患者さんの抱えている問題点を列挙したものです。Subjectiveとは、自覚的所見のことで、患者さんの訴えたことを記録します。Objectiveとは他覚的所見のことで、面談者の観察結果や検査結果などを記録します。さらに、これらの情報を整理してAssessment(見立て)を作成し、今後、どのように対応を進めるかをPlan(対応計画)に記載します。それぞれの頭文字をとって「SOAP形式」と呼ばれることもあります。

共通のフォーマットを用いて情報を記録するので、スタッフ間の情報共有が容易になり、過去の対応を振り返るときにも役立ちます。いつ、誰が記録を行っても、「Subjective」には患者さんの訴えが記載され、「Objective」には検査所見や診察所見などが記載されます。「Assessment」には、こうした情報を医療スタッフがどう解釈・理解したかが、「Plan」の欄には、どんな対応を行ったかが記載されます。いつ、何が起きて、誰が、どのように判断し、何を行ったかが漏れなく記載されるため、診断や治療の内容が適切だったか振り返ることができるのです。

産業保健分野でのPOMRの様式例

POMR形式の面談記録には、紙カルテ、電子カルテなど、それぞれの医療現場ごとにさまざまな様式や書式が用いられています。Problem List、Subjective、Objective、Assessment、Planといった基本要素は共通ですが、それぞれの現場で利用しやすいよう、工夫された様式や書式が用いられています。電子カルテシステムなどでは、それぞれの別々のテキストボックスに記入欄が分かれていることもあれば、ひとつの記入欄に「Subjective」「Objective」などの見出しを付けて入力するタイプもあります。

ここでは、私が長年使っている職域でのPOMRの様式例をご紹介します。この面談記録の様式は、事業場内の看護職や心理職との情報共有や、対応について意見交換を行うときに役立ってくれました。また、社員の異動によって面談担当者が交代するような場面でも、スムーズに対応を引き継げました。POMRの面談記録とはどのようなものか、ひとつの事例としてご覧いただければと思います。

様式例と記入方法の説明

図5は、私が使っているPOMRの様式例です。面談で得られた情報を、経過、Problem List、来談の経緯、Subjective、Objective、Assessment、Plan、次回予定、人事担当者への報告のそれぞれの項目に整理しています。私は、面談記録をPCで入力しています。記録作成の効率化のために、前回の面談記録をコピー&ペーストしてから必要な個所を加筆修正しています。

(図5)私が使っているPOMR面談記録のテンプレート

■経過(2回目の面談以降は省略可)


■Problem List (2回目の面談以降は省略可)
#1.
#2.
#3.
#4.

■来談の経緯

■Subjective

■Objective

■Assessment
【医学面】

【就労面】

【生活面】

■Plan
#1.

#2.

#3.

#4.

●次回予定:

●人事担当者への報告:

経過の書き方

経過にはこれまでの休業歴や病歴などを整理して記載します。今回の問題点に関連がありそうなものだけで構いません。前回の面談と変化がないときは記載を省略することもあります。

Problem Listの書き方

Problem Listには、この事例で問題となっていることを列挙します。Problem Listには医学的なことだけでなく、職場でのことやプライベートのことも含めて書きます。対応を進めているうちに、いくつかの問題点が1つに統合されたり、1つの問題点が複数に分割されたり、対応が終了したりすることもあります。その場合は、適宜、書き直します。前回の面談と変化がないときは記載を省略することもあります。

Subjectiveの書き方

Subjectiveには、面談の場面で本人から聞き取ったことを記入します。Subjectiveとは医療記録では「自覚的所見」のことです。逐語録のように一言一句をそのまま記録するのではなく、ある程度は要約したり省略したりします。ただし医学用語などに完全に置き換えるのではなく、本人が話した言葉を用います。アセスメントに必要な情報であれば、本人の話し方、考え方、感じ方などを、より詳細に記載します。

Objectiveの書き方

Objectiveには、検査結果などの客観的なデータや面談時の本人の様子などを記入します。Objectiveというのは「他覚的所見」のことです。検査結果や面談時の本人の様子や態度などを記載します。面談時の様子を記録する場合は、他の人にもその様子が具体的に伝わるよう、自分の感想を交えずになるべく客観的に記述します。

Assessmentの書き方

Assesmentには、事例の問題点や課題などを医学面・就労面・生活面の3つの視点から整理します。医学面には、健康状態、症状、診断、治療状況などの検討事項を記します。就労面には、職場での問題点や課題、就労する上で課題となりそうなこと、職場での対応や調整などの検討事項を記します。また、生活面には、主にプライベートに関する問題点や検討事項を記します。これ以外にも「健康面」と「就労面」に分けて記載する方法や、「疾病性」と「事例性」に分けて記載する方法などがあります。

Planの書き方

Planには、問題点についての対応方針を記入します。Problem Listの問題点を記載し、それに対応する行動計画を箇条書きにします。Planを具体的に書くことで、他の産業保健スタッフにも今後の対応を共有できます。

次回の対応の書き方

次回の対応には、主に次回の面談予定などを記入します。例えば「1か月後に面談」「3か月後に面談」「9月にメールで治療経過を確認」などと記載します。

人事担当者への報告の書き方

人事担当者への報告には、今回の面談を受けて人事担当者に報告する事項を記入します。口頭での報告のほかに、文字にして電子メールなどでも報告しておくと、社内の関係者へ同じ情報を転送・展開できるようになります。人事担当者などに申し送る必要がない事例については「なし」と記入します。こうすると産業医が企業に対してどのような助言をしたのか、もしくは、しなかったのかという記録が残ります。

POMRで面談記録を書くことは事例対応のトレーニングになる

POMR形式で記録を作成することで、本人の抱える問題や、その問題を引き起こす要因について、深く掘り下げて考えることができます。また、面談記録を作成するという作業を通じて、情報を論理的に整理するという思考パターンに自分を慣らすことができます。さらに、自分自身の対応やケースの問題点を振り返ることもでき、ケース対応に必要な知識、スキルなどが少しずつ向上していくのです。