第4回: 自宅療養中の従業員と連絡が取れない! 〜 こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援〜

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前回までのあらすじ

前回の記事(まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?)では、メンタルヘルス不調で体調を崩した従業員が、会社を休み始める場面での対応を説明した。本人の不安を軽減し、円滑な復職支援を行うためには、休業中にも本人と定期的に連絡を取る必要がある。しかし、いくら呼びかけても本人から返事がなく、連絡がつかなくなってしまった時には、どうすればよいのだろうか。

事例:うつ病で休業している木下さんと連絡がつかない!

ある機械メーカーに勤務している田中保健師は、うつ病で自宅療養している木下さんのことが気がかりだった。木下さんは20代の男性社員だが、3カ月ほど前から会社をときどき休むようになり、ついに2カ月前から出社できなくなった。間もなく「うつ病にて自宅療養が必要」という診断書が会社に届き、現在は自宅療養中だが、本人となかなか連絡が取れずに困っている。

先日も、休業中の面談をする約束になっていたが、時間になっても木下さんは現れなかった。電話をかけてもつながらず、留守番電話を残しても連絡はなく、メールにも返信がない。そんな状況がもう1カ月半も続いている。もしかすると、具合が悪くて寝込んでいるのだろうか。それとも、会社に連絡しようという気力がなかなか出ないのだろうか。木下さんは独身で、ひとり暮らしだ。ちゃんと食事を取れているか、病院をきちんと受診できているか、心配し始めるときりがない。

本人と連絡が取れないのなら実家に連絡してみようかと、木下さんの上司や人事担当者に相談してみた。しかし、上司の話では、木下さんは実家にあまり連絡しておらず、病気で会社を休んでいるとことも、きっと実家には伝えていないだろうという。そんな状況で、本人の意向を確認せずに実家に連絡してしまうと、ややこしい状況になるかもしれない。

人事担当者からは「それなら、主治医の先生に聞いてみたらどうか」という提案もあった。「ちゃんと通院しているかどうかを聞いて、会社からの連絡に返事をするように伝えてもらおう」と話していたが、個人情報の保護という観点から、主治医が木下さんの通院状況を会社に教えてくれるだろうか。

あるいは、自宅に訪問しようという話もあった。ただ、いきなり家に押し掛けていって、本人と会えるだろうか。留守にしていたら、あるいは、チャイムを鳴らしても木下さんが出てくれなかったら……。

もしも、木下さんの自宅を訪問したとき、郵便受けに新聞がいっぱいたまっているところを見つけてしまったら、どうすればいいんだろう。田中保健師、人事担当者、木下さんの上司は、今後の対応に頭を抱えてしまった。

解説:休業中の社員と連絡が取れなくなった時の対応

今回は、メンタルヘルス不調で会社を休んでいる人と連絡がつかなくなってしまった画面について考えてみよう。

まず、休業中に連絡を取ることの可否についてだが、メンタルヘルス不調での休業中には、定期的に連絡を取ることが本人の不安を軽減し、円滑な職場復帰支援に役立つとされている。連絡が途絶えてしまうと、職場と疎遠になってしまい、かえって復職への不安が強まることもある。月に1回を目安に、会社の担当者と面談を行うか、もしくは電話やメールなどで連絡を取るとよい。

しかし、今回のケースのように、本人と連絡が取れなくなった時にはどうすればよいだろうか。

通院している医療機関に問い合わせても、個人情報保護法の規制により、本人の通院や治療の状況を、本人の同意なく会社に伝えることはできない。「会社からの連絡に本人の応答がない」という事実を主治医に伝えることは可能かもしれないが、それ以上の対応を求めることは難しい。

こうした場面で最も困るのが、社内の対応方針がなかなか決められないことだ。そこで、休業開始時に図1のような書面を用いて、本人と、実家や家族などの連絡先の両方を確認しておく方法をおすすめしたい。

図1:自宅療養中の連絡先(記入用紙の例)

本人には、1週間以上連絡が取れない場合には、緊急連絡先に連絡するということをあらかじめ伝えておく。そうすることで、実際に連絡が取れなくなった場面で、あれこれと迷うことなく対応ができる。

ご家族と連絡する際には「本人が病気で休業していること」「最近、連絡がつきにくいのでご家族に連絡したこと」を伝え、「本人の様子が心配なので、ご家族から連絡してほしい」とお願いするとよい。また「ひとりで生活していると病気があまり回復しない可能性もある。今後も連絡が取れないなど、病状があまり回復しないようなら、ご実家で療養するよう主治医と相談してほしい」と伝えておくと、それ以降の対応がスムーズになる。

事例:木下さんの自宅を訪問してみると……

その後、田中保健師は、木下さんの上司と一緒に自宅を訪問し、幸い、木下さんと話をすることができた。木下さんは、体調があまりよくないようで、ほとんど家の中で過ごしており、会社からの連絡に返事をしようと思っていても、なかなか行動できなかったと話していた。そこで、木下さんには「会社からの連絡には必ず返事をするように」と念を押し、また、実家の連絡先を確認して、次に連絡が取れなくなった時や、体調があまり改善していない時には実家にも連絡を取ることを伝えた。

それから2カ月程度は、木下さんと連絡が取れていたが、3カ月が過ぎた頃から、また連絡が取れなくなってしまった。そこで今度は木下さんの実家に連絡し、ご両親から本人に連絡を取ってもらった。そして、家族と主治医とで相談した結果、木下さんは実家に戻って療養することになった。

今回のポイント:自宅療養の際は、緊急連絡先をあらかじめ確認しておく

休業中も本人と定期的に連絡を取り合うことが、スムーズな職場復帰の対応につながる。会社を休み始める時には、休業中の本人の連絡先を確認し、次回の連絡の日時や方法を決めておこう。会社との連絡窓口は、上司、人事担当者、健康管理の担当者のいずれかに一本化しておくとよい。上司との連絡は、仕事のことを思い出し、本人の負担になることもあるので、人事担当者や健康管理の担当者を連絡窓口にしてもよい。

また、何らかの理由で、休業中に本人と連絡がつかなくなることもある。そこで、家族や実家などの緊急連絡先も確認しておこう。本人には「会社からの呼びかけに1週間以上返事がない場合には、安否確認のために家族や実家などに連絡する」と説明しておくとよい。

次の記事へ:休業中の従業員との定期的な連絡

「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧

  1. 体調の変化に気づいたとき、どうすればいい?
  2. 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
  3. まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
  4. 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
  5. 休業中の従業員との定期的な連絡
  6. 生活記録表を用いた復職可否の判定
  7. 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
  8. 職場復帰支援プランの作り方とポイント
  9. いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
  10. まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
  11. 復職3~4カ月目に気をつけること
  12. 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)

上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。

参考資料