前回までのあらすじ
前回(職場復帰支援プランの作り方とポイント)は、復職後の業務調整の内容を「職場復帰支援プラン」にまとめる方法を解説した。復職後の再発を防ぐためには、体調の回復にあわせて約6カ月かけて段階的に業務を増やしていくことが重要である。今回は、いよいよ復職初日を迎える時の注意点や、復職直後の過ごし方について考えてみよう。
事例:いよいよ明後日から復職する山田さん
うつ病で会社を休んでいる山田さんは、いよいよあさってから復職することになった。休業してからもう約4カ月になる。職場をこんなに長く離れたのは入社以来はじめてのことだ。復職の日が近づくにつれ、山田さんは何だかそわそわして落ちつかない気分を感じていた。以前ほどではないが、寝付きが少し悪くなったような気がする。こんな調子で復職しても大丈夫だろうか、あせりすぎているのではないか、そんなふうに考えてしまう。
また、復職の初日、みんながどんな顔をして出迎えてくれるのか、正直なところ気になっている。何もかも中途半端なまま急に会社を休んでしまった。きっと、みんなに迷惑をかけているに違いない。あのプロジェクトは今頃どうなっているのだろうか、あの問い合わせはうまく片付いただろうか、最近はそんなことをよく考えるようになった。
当日は、どんな感じで職場に入ればいいのだろう。みんなの前であいさつをするべきだろうか。それとも、目立たないようにしたほうがよいのだろうか。仕事で迷惑をかけてしまった相手には、せめておわびをしたいと思う。ただ、病気のことをどこまで話していいのだろうか。同じ部署の人はともかく、他の部署の人は、自分が病気で休んでいることを知っているのだろうか。
いろいろ考えてもしかたがないことはわかっている。体調が回復して、ふたたび職場に戻れるのはとてもうれしい。きっと大丈夫だという楽観的な気持ちもあるが、やはり、目前に迫った復職のことを思うと、何だか緊張してしまうのだ。
解説:復職を目前にしたときの不安のケア
メンタルヘルス不調は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ回復していく。自宅療養を始めて、落ちついて休息できるようになると、まず、不眠やゆううつ感などの症状が改善し、次に睡眠や外出などの生活リズムが整ってくる。主治医の指導のもと、図書館などに通う練習を行い、出社を模した外出が2週間以上続けられるようになると復職可能な状態となる。
しかし、復職可能と診断される段階でも、実はまだ、業務に必要な集中力や判断力などは十分に回復していないのだ。復職後にはりきって仕事をしすぎてしまうと、疲れがたまって症状がぶり返すおそれがある。そのため、復職後は業務量や勤務時間を調整し、約6カ月間かけて少しずつ段階的に元に戻していく。出社開始は「復職の中間地点」である。ここで無理をしすぎないよう、気をつけながらサポートしよう。
職場復帰が近づいてくると「職場でどんなふうに振る舞えばよいだろうか」「みんな、どんな顔で出迎えてくれるのか」ということが気になって、不安や緊張を感じる従業員が多い。復職が近づいてきた頃の面談では、そうした不安や緊張についても触れておきたい。「そうした感情を抱くのはごく自然なことだ」「緊張するのは初日だけで、数時間で違和感もなくなる」などと説明し、あまり心配しすぎないように伝えるとよい。
また、復職する時に、まわりにどんなあいさつをすればよいかと悩んでいる人もいる。あるいは、みんなから声をかけられた時にどんなふうに答えようかと考えすぎてしまうこともある。そんな様子が見られたら「相手はただ、声をかけて安心したいだけなので、あたりさわりのない、ふつうのあいさつがベストだ」など、あまり考えすぎないように伝えよう。
もし、それでも緊張が続いているようなら、復職時にどんなあいさつをするのか、事前にロールプレイなどで練習しておくとよい。「休んでいる間は、いろいろご迷惑をおかけしました」「おかげさまで調子もだいぶ良くなりました」「これから少しずつがんばりますので、またよろしくお願いします」など、無難なあいさつを準備しておくと、復職初日の緊張が少し軽くなる。
復職当日に、職場の全員の前であいさつをしなければいけないと考えている人もいるが、そうした場面は避けられるよう、あらかじめ職場と調整しておくとよい。また、病気についての体験談、病気から得た教訓などをみんなの前で話すように求めたりしないように、気をつけておきたい。
職場のまわりの人から「復職する人にどのように接すればよいか?」と質問されることもある。そんな時は「病み上がりの同僚をあたたかく受け入れるように接してほしい」「過剰な配慮は必要ない。ふだんどおり、ふつうに接してあげるのが一番よい」と伝えておこう。ただし、本人のストレスの原因になりそうな人に対しては「少しやさしく接してあげてほしい」と、上司などから伝えておいてもよいだろう。
復職してから1~2カ月間ほどは、まだ疲れがたまりやすいため、飲み会などに誘うのは控えたほうがよい。薬の関係で主治医から飲酒を止められている場合もある。職場全体の歓送迎会や忘年会などのイベントには欠席してもよいことを伝えた上で、出席を強制しないようにしたい。出席する場合でも、飲酒しないようにしたり、一次会で帰宅させたりするなど、疲れがたまらないような配慮が必要である。
事例:無事に復職初日を終えた山田さん
山田さんは、復職の当日、元気に出社してきた。ひさしぶりの会社は緊張したが、実際、みんなの顔を見て話をしているうちに、最初の不安はすぐに消えてなくなってしまった。腫れ物に触るような対応をされるのではないかと心配していたが、みんなふつうに接してくれたのもありがたかった。「大丈夫?」と声をかけてくれる人もいたし、「今度、一緒にランチに行こう」と誘ってくれる人もいた。意外に何とかなったというのが正直な感想だ。ほっとしたような、うれしいような、そんな気持ちだった。山田さんは、このままうまく復職できるといいなと思った。
今回のポイント:「復職の不安を軽減するために、初日の段取りを説明しておこう」
メンタルヘルス不調の職場復帰支援において、復職の開始は中間地点に過ぎない。復職直後は体調や業務遂行能力がまだ十分に回復していないため、数カ月間の業務調整とフォローアップが必要となる。特に復職初日は、休職していた本人も、周囲の人も緊張するものだ。そうした緊張や不安を少しでも和らげられるよう、必要な段取りを双方に説明しておきたい。
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上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。