第10回:まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方 〜 こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援〜

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前回までのあらすじ

前回(いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方)は、復職をむかえる準備や復職直後の過ごし方について解説した。復職支援の全体のプロセスから見ると、復職開始はちょうど折り返し地点だと言える。病状の悪化や再発を防ぐためには、復職後のフォローアップが重要だ。今回は、そろそろ職場に慣れてきた復職1~2カ月目の過ごし方について解説する。

事例:復職して3週間が過ぎた山田さんが最近気になること

山田さんが復職してからもうすぐ3週間になる。最初の数日間は、職場で1日過ごしているだけなのに、家に帰ると思ったより疲れていた。最近では、そうした疲れもあまり感じなくなってきた。まわりの人からも「だいぶ調子よさそうだね」と言われるし、自分自身もそう感じている。

そのせいもあって、最近では仕事が少ないことが気になってきた。最初の1週間ほどは、たまっているメールを整理したり、書類に目を通しているだけで1日が終わっていたが、最近は少し手持ちぶさたな感じがする。今やっている仕事の量は、以前の3分の1以下だと思う。会議にもあまり出ていないし、周囲のみんなが忙しそうにしている中で、自分だけ仕事が少なくて申し訳ないような、物足りないような、そんな気分だった。

病院の受診の時に、主治医に話をしてみたが、やはり「あまり無理をしないように」と言われてしまった。ただ、こんなにも仕事が少ないと、かえってストレスに感じてしまうのではないか。そこで先日、上司に「仕事が少ないのでもう少し増やしてほしい」と相談してみた。上司はしばらく考え込んだあと「産業医や保健師とも相談してみないと」と話していたが、結局、仕事のことは保留になってしまった。次回、産業医と面談する時に相談してみようと思う。

そういえば先日、親しい同僚と昼ご飯を一緒に食べた時のことだ。「すっかり元気そうだね」と声をかけてくれたのはうれしかったのだが、「また今度飲みに行こうな」と誘われたので「実はまだ主治医からお酒は止められている」ということを話したところ、「え? まだ薬を飲んでいるの?」と、少し驚いていた様子だった。同僚に悪気がないのは分かっているが「薬を飲んでいるし、仕事も十分に与えてもらえないし、まだ自分は病人扱いなんだな」と、山田さんは何だか少し気分が沈んでしまった。

解説:復職後の社員のケアのポイント

メンタルヘルス不調の再発を防ぐためには、復職後の過ごし方がとても大切である。体調の変化にも気をつけながら、仕事のやりすぎやストレスのためすぎにも注意しなければならない。復職後も1カ月に1回程度は本人と産業保健スタッフとの面談を行い、体調や業務の状況を確認し、気になることがあれば話をしてもらうとよい。

復職したばかりの頃は、ひさしぶりの職場で1日過ごすという生活をしているだけで疲れを感じることが多い。同僚がふつうに働いていることにあせりや戸惑いを感じることもある。1~2カ月がたつと、そんな生活にもだいぶ慣れて、体調に少し余裕が生まれてくる。しかし「そろそろ大丈夫かな」という油断が生まれて無理をしやすいのもこの頃だ。また、職場の上司や同僚も「だいぶ元気そうだし、もう大丈夫かも」と思ってしまい、つい仕事を頼んでしまうこともある。

しかし実際には、作業スピード、集中力、判断力などは以前ほど回復していない。また、体調には良くなったり悪くなったりという波があるため、体調が良いと思って仕事を引き受けてしまったところ、翌週には調子が下降してしまい、仕事の負担が大きくなってしまうこともある。あるいは、1~2日間くらいは調子が良くても、そこで無理をしてしまうと疲れがたまって体調を崩すこともある。

疲れを感じている時は、就寝時間を早めるなどして、いつもより意識的に休息を取るようにすすめるとよい。気分が落ち着かないとか、眠れないとか、症状がぶり返しているようであれば、次回の通院時に主治医に相談することが重要だ。

また、職場から「まだそんなに薬を飲んでいるの?」「まだ通院しているの?」などと言われたことを気にしてしまい、自己判断で通院や服薬をやめてしまう場合もある。通院や服薬については不用意なコメントを避け、「主治医の指示通りに通院と服薬を続けるように」と述べるのが最も適切だ。産業保健スタッフとの定期的な面談の場面では、通院や服薬を継続できているかどうか必ず確認しよう。

職場や仕事に慣れてくると「もう少し仕事をしたい」と思うこともあるが、まだ無理は禁物であること、職場復帰支援プランの通りに仕事は今後増えてくることなどを説明し、あせらないように伝えるとよい。ただし、あまりに業務量が少なくて手持ちぶさたになることが日に何度もあるようなら、もう少し作業量を増やしてもらうように産業保健スタッフから職場に相談してみよう。

事例:「仕事を増やしてほしい」と産業医に相談してみた

後日、山田さんは、産業医との面談の際に、仕事を少し増やしてほしいと思っていること、上司に相談したら産業医に相談するように言われたことを相談した。産業医が真剣に話を聞いてくれたので、山田さんは少しホッとした。「まだ早い」と一蹴されるのではないかと、実は少し心配していたのだ。

職場の状況やふだんの体調などについて話をしたあと、産業医は「体調は少しずつ回復しているようで順調だと思う。もう少し仕事をしたいと思うかもしれないが、体調には波があるので、調子が良い時に無理をしないほうがよい」と説明してくれた。また、山田さんに職場復帰支援プランの用紙を見せながら「来月、再来月と仕事は少しずつ増えていく予定なので、今はあまりあせらないほうがよい」ということも説明してくれた。

山田さんは「やっぱり仕事は増やしてもらえないのか」と残念に思ったが、産業医の先生の説明も納得できたので、少しすっきりした気持ちになった。

今回のポイント:「復職直後は無理をさせず復職支援プラン通りに」

メンタルヘルス不調の復職後の再発を防ぐためには、復職後の過ごし方がとても重要になる。復職後も月に1度を目安に定期的な面談などを行い、就労状況、健康状態、通院状況などを確認しておこう。復職後は疲労の蓄積からの症状が再燃することがあり、注意が必要である。もう少し仕事を増やしてほしいと本人が希望することもあるが、原則としては、職場復帰支援プラン通りの勤務を続けるようにしよう。

次の記事へ:復職3~4カ月目に気をつけること

「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧

  1. 体調の変化に気づいたとき、どうすればいい?
  2. 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
  3. まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
  4. 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
  5. 休業中の従業員との定期的な連絡
  6. 生活記録表を用いた復職可否の判定
  7. 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
  8. 職場復帰支援プランの作り方とポイント
  9. いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
  10. まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
  11. 復職3~4カ月目に気をつけること
  12. 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)

上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。

参考資料