第8回: 職場復帰支援プランの作り方とポイント 〜 こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援〜

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前回までのあらすじ

前回(不調の原因とストレスの対処法を振り返る)は、ストレスを感じる場面の思考パターンや行動パターンについてとりあげた。復職後の再発を防ぐためには、本人がこれまでの働き方や行動パターンを見なおすことも重要であるが、職場の業務調整も不可欠である。

今回の記事では、復職してくる従業員の業務内容や勤務時間などをどう調整するか、いわゆる「職場復帰支援プラン」の作り方について解説する。

事例:復職の際の業務調整

ある日、マーケティング部の鈴木課長が健康管理室を訪れた。鈴木課長は、現在うつ病で休業している山田さんの上司である。鈴木さんの話によると、先日、山田さんから「そろそろ復職できるかもしれない」という話を聞いたそうだ。その知らせがよほどうれしいのか、ニコニコしながら「復職の時に、どんなふうに仕事を調整すればいいのか教えてもらおうと思って」とたずねてきた。

田中保健師は「復職後はまだ体力も集中力も十分に回復しておらず、無理をすると疲れがたまりやすいこと、疲れがたまると症状が再燃しやすいこと、また、再発を防ぐためには業務不可を減らし、少しずつ増やしていくこと」など、一般的なことを伝えた。

メモを取りながら説明を聞いていた鈴木課長は「具体的には、どんな業務をお願いすればいいんですか。残業時間についても、どのくらいがいいのか教えてください」と続けた。

それを聞いた田中保健師は少し言葉につまってしまった。これまで健康管理室では「残業時間10時間まで」といった就業制限について決めるだけで、具体的な業務の調整は現場に一任していた。実際にどんな業務をしているかまでは十分に把握していなかったのである。

「今度、産業医の先生にたずねておきますね」と言って、その場を何とかやり過ごしたものの、これから山田さんの復職の準備をどう進めていけばよいか、田中保健師はしばらく考えこんでしまった。

解説:就業制限を徐々に解除していく

メンタルヘルス不調で休業していた従業員が復職する時には、再発を防ぐために、数カ月間は業務負荷を軽減し、体調の回復とともに段階的に仕事を増やしていくのが一般的だ。
復職直後はまだ疲れやすく、無理をしてしまうと症状がぶり返す恐れがある。また、業務に必要な集中力や判断力も十分には改善していない。
一般的には、表1のように、復職直後は時間外労働を避け、高度な判断/折衝/調整を必要とする業務ではなく、自分のペースで作業できる単純な作業的な業務からスタートし、6カ月ほどかけて、少しずつ本来の業務内容に戻していくようにするとよい。

表1:復職後の一般的な業務調整の例

直後(1カ月目):

  • 【体調】出勤して1日過ごすだけで疲れてしまう。疲れがたまると症状が再燃することもあるので注意。
    • 【業務調整】残業なし。出張なし。内勤でできる簡単な仕事。資料の閲覧や整理、休業中の状況の把握、物品の整理など、単純な業務が適している。

2~3カ月目:

  • 【体調】少し出勤に慣れてくる。仕事量を軽減してもらっていることに引け目を感じることもあるが、無理は禁物。
  • 【業務調整】残業なし、出張なし。メンバーの補助的な業務。内勤スタッフ業務の補助など。外勤業務の場合は同行業務(週2回まで、など)。

4~6カ月目:

  • 【体調】かなり体調は安定してくる。周囲からも「もう大丈夫」というように見えるが、業務パフォーマンスの回復にはもう少し時間がかかる。
  • 【業務調整】徐々に、以前の仕事に慣れていくようにする。残業は1日1時間まで。宿泊を伴う出張はなし。直接の担当を持たず、他の担当者の補助的な業務や、外勤の場合は同行業務などから、少しずつ業務を増やしていく。単純な業務であれば単独の外勤業務も可能。

それ以降:

  • 【体調】体調も安定し、仕事もふつうにこなせるようになる。ただし、通院や服薬は主治医の指示に従って続ける必要がある。
  • 【業務調整】以前と同じ仕事や、あるいは、その職場の通常の業務を行える。残業や出張も可。ただし、無理をしすぎないよう体調面への配慮は継続する。

解説:復職支援プランを文書化しよう

復職後の業務調整を適切に行うためには、具体的な業務内容を記した「職場復帰支援プラン」を作成するのがおすすめだ(図1)。

 図1:復職支援プランの記入用紙例 

職場復帰支援プランには、復職直後から6カ月後までの就業制限の内容(時間外労働の制限や出張の可否、作業場所などの制限)と、具体的な業務内容を記入する。より実行性の高い、現実的なプランにするためには、産業保健スタッフ、人事担当者、職場の管理監督者の3者が集まり、意見交換しながら作成するとよいだろう。

作成した職場復帰支援プランは休業している従業員にも説明し、産業医や主治医にも内容を確認してもらうとよい。

職場復帰支援プランの書式は、図1に示すほかにも厚生労働省から発表されている「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(全体版)」(2018年4月24日改訂)に収録されている様式も参考になる。

事例:山田さんの復職支援プランを作成する

山田さんの職場復帰支援プランを作るため、田中保健師、上司の鈴木さん、人事担当者の3人で打合せを行うことになった。6カ月間の業務計画を記入する用紙を前に、まず、一般的な業務調整の例について、田中保健師が説明した。次に、職場にどんな作業があり、どのくらいの業務量になるかを相談しながら、上司の鈴木さんを中心に具体的な業務計画を作成した。

職場復帰支援プランの内容については、後日、産業医にも確認してもらい、また、山田さん本人にも説明を行って内容を微調整した。

今回のポイント:復職後6カ月間の業務プランを書面で作成する

職場復帰を成功させるためには、復職後も6カ月間ほどは業務負荷を軽減し、少しずつ段階的に仕事を増やしていく必要がある。業務の調整を円滑に、かつ、確実に行うためには、復職前に6カ月間の業務内容について計画を立て「職場復帰支援プラン」として文書化しておくとよい。

本人・職場の上司・産業医・主治医などと職場復帰支援プランを共有しておくと、復職に向けて関係者の足並みをそろえることができ、本人の不安も軽減できる。

文書化しておくことで、復職後の業務調整の事例を事業所内で蓄積することができる。同じような職種の従業員が復職する際には、過去の事例を参考にできるので、復職の準備をスムーズに進められる。

次の記事へ:いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方

「こんな時どうすれば!? 事例で学ぶメンタルヘルス不調の職場復帰支援」記事一覧

  1. 体調の変化に気づいたとき、どうすればいい?
  2. 部下の様子が心配な時、上司はどうすればいい?
  3. まさか自分がうつ病!? 会社を休まなければいけないの?
  4. 自宅療養中の従業員と連絡が取れない!
  5. 休業中の従業員との定期的な連絡
  6. 生活記録表を用いた復職可否の判定
  7. 不調の原因とストレスの対処法を振り返る
  8. 職場復帰支援プランの作り方とポイント
  9. いよいよ復職初日! 復職直後の過ごし方
  10. まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
  11. 復職3~4カ月目に気をつけること
  12. 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)

上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。

参考資料