前回までのあらすじ
前回(自宅療養中の従業員と連絡が取れない!)は、メンタルヘルス不調で自宅療養中の従業員と、連絡がつかなくなった時の対応を説明した。確実に連絡がつくようにするには、実家や家族などの緊急連絡先を事前にたずねておき、連絡が1週間以上取れなくなった時には緊急連絡先に連絡することを本人に伝えておくとよい。今回は、休業者との定期的な連絡や面談の際に、どんな話をすればよいのかを考えていこう。
事例:休業中の社員と面談でどんな話をすればいいのか
ある電機メーカーに勤務する保健師の田中さんは、あさっての面談のことを考えていた。うつ病で先月から自宅療養している山田さんと、健康管理室で話をする予定になっている。1カ月前の山田さんは表情も暗く、とても具合が悪そうだった。そろそろ体調はよくなっているだろうか。もしかして、会社に来て面談をすることが、本人の負担になったりしないだろうか。
面談の時、体調や治療の状況について、どのようにたずねるとよいだろう。不眠や抑うつなど、症状について単刀直入に聞けばよいのか、それとも、本人の表情や口調から様子をうかがうのがよいのか。それから、処方されている薬の種類を確認しておくべきだろうか。職場のストレスや体調不良の原因のことをたずねても大丈夫だろうか。考えているうちに、田中保健師はだんだんと不安になってきた。
その頃、自宅療養中の山田さんも、あさっての面談のことを考えていた。最近では症状も落ち着いて、体調もよくなっている。しかし、先週くらいから少し寝付きが悪い。面談のことを意識して緊張しているのかもしれない。
会社に行くこと自体には特に不安はないが、会社を休んでいることで同僚や上司に迷惑をかけ、申し訳ないという気持ちが強い。もしかして上司も面談に来るのだろうか。正直なところ、まだ顔を合わせる自信がない。また、面談ではどんなことを聞かれるのだろうか。いろいろと考えていると、少し落ち着かない気持ちになってくる。
解説:休業中の社員との面談の進め方
メンタルヘルス不調で休業している従業員と定期的に連絡を取ることは、本人の不安を軽減し、円滑な職場復帰支援に役立つとされている。連絡が途絶えてしまうと、復職に対する本人の不安や焦りが強くなり、十分に回復していないうちから復職を急いでしまうことがある。定期的な連絡のなかで体調の回復状況を把握し、また、本人の不安や焦りにも十分に耳を傾けながら、円滑な対応につなげていきたい。
面談では、まず「最近の調子はどうですか?」というオープン・クエスチョンを投げかけ、自由に話をしてもらうとよい。信頼関係を構築することを意識しながら、本人の話をしっかり傾聴しよう。
ある程度話をしたら、1日の過ごし方をたずねよう。「朝は何時頃に起きてる?」「その後、どうしているの?」「昼ご飯は?」「昼からはどんな風に過ごしてる?」などと、順番に聞いていくとよい。矢継ぎ早に質問するのではなく、本人のペースに合わせて、ゆっくり話を聞いていこう。正確なことが分からなくても、だいたいの様子が把握できればよい。
1日の過ごし方は、メンタルヘルス不調の症状の回復の程度をあらわしている。休み始めたばかりの頃は、具合が悪くて横になっている時間が長く、睡眠のリズムが大きく崩れることがある。少し症状が回復すると、寝込んでしまうことはなくなり、家の中でゆっくり過ごせるようになる。さらに回復が進めば、生活のリズムもほぼ一定になり、短時間の外出もできるようになってくる。このように、生活リズムを把握することで回復の様子を知ることができる。また、食事は取れているか、よく眠れているかどうかも確認する。食事や睡眠に問題があるようなら、主治医に相談するように促すとよい。
通院の状況については「ちゃんと通院している?」という質問よりも、「通院の間隔はどのくらい?」とか「次の通院はいつ?」とたずねたほうが、本人も答えやすいようだ。「主治医の先生とはどんな話をしているの?」とたずねると、回復の状況や復職の時期について、主治医がどのように考えているのかを知ることができる。また、確実に通院してもらうためにも、最長でも3カ月に1度は診断書の提出を求めるようにしたい。
産業医などから指示がある場合を除いて、処方の内容を細かく確認しないほうがよい。「こんなに薬を飲んでいると復職できない」と心配になって、自己判断で服用をやめてしまう人もいる。また、人事担当者や職場の管理監督者も「こんなに薬を飲んでいては復職できないのでは?」とか「ネットで調べると、統合失調症の薬だと書いてあった」と過剰に心配してしまうことがある。処方の内容は、医学的な情報として産業医に伝えるにとどめよう。
上司に顔を出してもらうかどうかは、本人の意向を確認した上で、次回の面談から対応するとよい。ただし、体調が回復していないうちはあまり無理をさせないよう配慮が必要だ。また、職場のストレスや不調の要因についての話は、体調が回復してからのほうがよい。具体的には、外出練習などの復職の準備が行えるようになった頃からでよい。
事例:面談当日の様子
面談の当日、山田さんは約束の10分前に健康管理室に姿を見せた。まだ表情は硬く、以前のような元気な様子は見られない。それでも、1カ月前よりはずいぶん落ちついて見える。田中保健師は、山田さんを面談室に迎え入れて「こんにちは。お休みしてから1カ月ですが、調子はどうですか?」と声をかけた。
「実は、ひさしぶりに会社に来るせいか緊張して、ここ数日はよく寝られませんでした」と、山田さんはゆっくりした口調で答えた。
その答えを予想していた田中保健師は、山田さんの様子を見ながら声をかけた。「そうですか。緊張してよく寝られなかったんですね。会社を休み始めたばかりの頃は、そんな風に緊張される方が多いみたいです。だんだん調子がよくなってくると、そうした不安や緊張も和らいでくるようですよ」
その言葉を聞いて、山田さんは少し表情をゆるめた。「みんな最初はこんな感じなんですね。自分だけじゃないと聞いて安心しました」
「ところで、具合はいかがですか? 1日、どんな風に過ごしていますか?」と田中保健師がたずねた。最初の緊張もほぐれ、うまく面談を進められそうだ。
今回のポイント: 1日の過ごし方を具体的に質問して回復状況を確認する
職場復帰支援を円滑に進めるためには、自宅療養中の従業員と定期的に連絡を取り、回復の状況や今後の見通しについて情報収集を行うことが重要だ。回復の様子を把握するには、1日の過ごし方を大まかに確認するとよい。
また、通院の間隔や、主治医とどんな話をしているかを聞いておこう。生活リズムの状況や主治医のコメントなどから「当面、自宅療養が続きそう」なのか、「そろそろ復職の準備を始められそう」なのか、今後の見通しを把握して、人事担当者や職場の管理監督者と共有しておこう。
次の記事へ:生活記録表を用いた復職可否の判定
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- 休業中の従業員との定期的な連絡
- 生活記録表を用いた復職可否の判定
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- まだ無理は禁物! 復職1~2カ月目の過ごし方
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- 復職して半年が過ぎたら(全体のまとめ)
上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。