産業医の仕事 (3) 管理職 (上司) と産業医の関わり

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 管理職 (上司) は部署のリーダーとして部下を率いていかなくてはならず、職務上の責任も大きくなります。産業保険の分野においても、問題を抱えている部下を早期に発見して適切に対処すること、職場の安全管理やストレス環境を改善することなどが期待されています。そのためには産業医の適切なアドバイスや、メンタルヘルス講習、コーチング講習などが必要となります。

 また、管理職自身の心身の健康にも配慮しなくてはなりません。昇進うつ症や荷下ろし症候群など管理職特有の問題も多く、さらに生活習慣病が発症しはじめる年齢でもあり、心身ともによいコンディションを保つためには、産業医をはじめとする産業保険スタッフの援助が役立ちます。

管理職にとってのリスクマネージメントと産業医の役割

 管理職にとってのリスクとは「部署の生産性が下がること」と「自身の健康を損ねること」の2つです。職場での事故の発生や部下の休職や離職の根底には、職場の安全管理の不備、メンタルヘルスの悪化、ストレス環境の悪化などの問題が存在しています。潜在的なリスク要因を発見して改善していくためには、管理職と産業医との共同作業が必要です。

①部下のメンタルヘルス

 メンタルヘルスの問題は、職務上のミスや事故、遅刻や欠勤などの現象として現れます。これらの初期症状にいち早く気づき、適切な対応と支援を行うことが管理職に求められています。メンタルの問題に対して「なまけ病」「性格の問題」などという誤解が根強い職場では病状が悪化しやすく、本人の休職や離職という問題だけでなく、ミスや事故の発生によって部署全体が深刻な打撃を受けることもあります。産業医による職場巡視や管理職に対するメンタルヘルス講習は、早期発見と適切な対応を促す最良の方法です。

②職場の安全管理

 職場での事故や健康被害を防止するために、危険物の取り扱いなどの安全管理対策が法令によって定められています。産業医は職場巡視や特殊健康診断を行って職場の安全管理を行います。実際に職場に出向いてみると、有機溶剤を素手で扱っていたり、腰を曲げた無理な姿勢で作業をしていたり、防塵マスクの着用法や保管法が誤っていたり、ディスプレイと目線の高さが合っていなかったり、フォークリフトと作業員の動線が交わっていたりするなど、作業姿勢や作業方法に問題点が見つかることもあります。職場の安全管理について現場責任者や従業員と協力して解決をはかることも、産業医の重要な職務のひとつです。

③自身のメンタルヘルスと健康管理

 管理職になると部下を持つようになり、業務上の責任や負担も増え、睡眠不足やうつ病に発展する人も少なくありません。また、高血圧や高脂血症などの生活習慣病を発症する年齢でもあり、何かと身体面と精神面で不調を自覚するのも管理職の特徴です。産業医は健康相談やカウンセリング、外部の医療機関の紹介など行い、管理職の健康管理を支援します。

管理職にとってのパフォーマンスと産業医の役割

 管理職は常に「部署のパフォーマンス」と「自身のパフォーマンス」の両方について考えておかなければなりません。メンタル環境の悪い職場ではミスや事故の発生件数も多く、安全管理の不備は重大な事故にもつながります。安全で快適な職場作りは部署の生産性を最大限に発揮するための必須条件です。もちろん、部下を率いていく管理職自身の健康が大切であることは言うまでもありません。

①安全で快適な職場作り

 最近ではメンタルヘルスの観点から、ストレスの少ない職場作りの動きが活発になっています。メンタルヘルスに関する問題を早期に発見して適切に対応するためには、管理職と従業員全員が正しい知識を持つことが大切です。ストレス環境の改善には、業務内容や業務環境の見直しや、上司や同僚とのコミュニケーションの改善といった「職場作り」が必要です。産業医はメンタルヘルス講習や職場のストレス判定、ワークショップなどを通じて専門的な立場から意見を述べ、業種や部署にあわせた職場環境改善を提案します。

②休職者と復職者への対応

 管理職が最も頭を痛めているのが、休職者と復職者への就業上の配慮についての問題です。部下の労働力 (戦力) を失うことは上司にとって大きな損失ですが、健康なときと同じだけの能力が発揮できないのも困るわけです。業務内容や就業時間の変更や配置転換など、社内での継続的な支援を行うには理解とエネルギーが必要です。しかし従業員本人と上司、人事部、経営陣、従業員の家族など関係者の利害が一致せず、調整が難航することも少なくありません。産業医は医学的な配慮を行うだけではなく、従業員本人、部署全体、企業全体のリスクとパフォーマンスを考えながら、現実的な妥協点を探ります。

③自身の健康増進

 肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、長い年月を経て動脈硬化を進行させ、心臓発作や脳卒中などの致命的なイベントを起こす恐ろしい病気です。しかしそれ自身は無症状であることが多く、仕事が忙しいことを理由に軽視されがちです。産業医は、定期検診による病気の早期発見と早期治療だけでなく、個別の健康相談や、正しい知識を伝えるための健康教育、職場に応じた安全教育、またダイエットプログラムや禁煙プログラムなどの健康増進対策を実施し、職場の健康増進に貢献します。

管理職に求められる産業医

 管理職は部署の生産性や部下の管理能力を一番に問われます。部下の休職と復職に関わる調整や、メンタルに問題のある部下の扱い方、職場の安全管理やストレス環境の改善など、さまざまな場面で専門職である産業医の協力は欠かせません。

 これまでの産業医は個人や職場の疾病管理を主に行ってきました。さらにこれからの時代は、上司と部下の関係や職場の環境改善、管理職研修など、パフォーマンスの向上や職場作りにおいても問題解決能力を発揮し、管理職に対して提案ができる産業医が求められています。

■ 参考

産業医の仕事 (1) 産業医活動のキーワード
産業医の仕事 (2) 従業員と産業医の関わり
産業医の仕事 (3) 管理職 (上司) と産業医の関わり
産業医の仕事 (4) 経営者 (事業者) と産業医の関わり