真面目できちょうめんな性格は、一般的には長所だと見られることが多い。しかし、行き過ぎてしまうと頑固で融通がきかなくなり、周囲と衝突してしまうことがある。
手順やルールに厳しすぎて融通がきかない
今回は手順やルールにぎて、融通がきかない社員の事例を取り上げる。 真面目でな性格というと、一般的には長所として見られることが多い。しかし、そうした傾向が強くなると「融通がきかない、頑固、神経質」などと言われるようになる。さらに完璧主義が行き過ぎると、自分なりのルールを曲げることができなくなり、他の人と衝突するようになってしまう。
真面目頑固なEさんの事例
Eさんは40代の事務職の女性だ。総務部で社内の携帯電話の管理を担当している。入退社に伴う手続きや、利用者からの問い合わせ、トラブル対応などが主な仕事である。数年ごとに契約プランや機種の見直しが行われており、営業職がスマートホンやタブレット端末を用いるようになるなど、変化の多い仕事だ。
Eさんは、細かいところまで仕事をきっちりとこなす真面目なタイプであり、その点では他の社員から信頼されている。ただし、真面目すぎる性格が災いしてか、夜遅くまで仕事をしていることが多く、部内でも残業時間が突出している。
本人は「残業になるのは仕事量が多いためなので、増員してほしい」と訴えているのだが、上司は、Eさんの仕事の進め方に問題があると考えている。Eさんの仕事ぶりは丁寧だが、作業の手順が細かく、転記や確認のための作業も多い。こうした非効率的なやり方を改善すれば、残業時間は大きく減るはずだ。
そこで上司は、残業を減らすため、業務手順を見直すようにEさんに指示をした。ところがEさんは「必要な手順を省くなんてとんでもない!」と猛反発してきた。Eさんが言うには「以前にこんなトラブルがあったから、この確認手順を設けてある」「この手順があるおかげで、こういうミスが発生しない」「どの手順も必要不可欠だ」とのことであった。
上司が「そこまでの確認作業は不要ではないか」と指摘しても、Eさんは、作業をきちんと行っているおかげで問題を未然に防げるのだと繰り返すばかりで、聞く耳を持たない。「残業を減らすために確認作業を省くなんて、本末転倒です」「何か問題があれば総務部全体の責任になってしまうんです」と言って、頑として自分の意見を曲げなかった。
とはえ、Eさんの長時間労働をこのままにしておけない。そこで上司は、担当者を増員することにした。2人で仕事を分担することで、Eさんの残業も減るだろうし、新しい視点が入ることで業務手順の見直しも進むかもしれない。
しかし、それから1月が過ぎたころ、新しく配置した担当者から上司に次のような相談があった。
「もうEさんとはやっていけない。自分が何か提案しても、Eさんは全く聞いてくれない。管理する帳票もすごく細かくて、何でもかんでも二重、三重にチェックをしている。作業を簡素化しようと提案したら、すごく嫌そうな顔をして『手順通りにするのが面倒だからといって、必要な作業を省略するなんて、とんでもない。もう、あなたには仕事をせられない』と怒りはじめて、最近では全部Eさんがダブルチェックするようになってしまった。Eさんは隣に座っているのだが、いつもピリピリしており、もう耐えられない。Eさんの残業時間もほとんど減っていないし、何のために自分が担当になったのかからない」と言うのだ。
ちょうど同じころ、Eさんからも上司にこんな苦情が寄せられた。「新しい担当者は必要な手順を勝手に省略するし、確認作業もいい加減なので、いつミスが発生してもおかしくない。何かトラブルがあってからでは遅いので、自分がダブルチェックせざるを得ない。残業時間も減っておらず、これでは増員してもらった意味がない。もっと仕事ができる人に変えるか、いっそのこと元に戻してしい」
両者の言い分を聞いた上司は頭を抱えた。どう考えてもEさん側に原因がありそうだが、Eさんが上司の指示に素直に従うとも思えない。上司は、Eさんを呼び出し、新しい担当者とうまくやって欲しいこと、業務手順を見直して残業時間を減らして欲しいこと、仕事のトラブルが起きたときの責任は上司である自分がとることなどを、改めて説明した。
するとEさんは顔色を変えて「自分は会社のためを思って真面目に仕事をしている。やりたくて残業しているわけではない。それなのに、自分がわざと仕事を複雑にしているように言われたり、他の人に仕事を渡さないようにしていると言われるのは心外だ」と強く反発した。また「責任は上司が取るというが、問題が起きた時点で会社には損失が発生してしまうんです。あなたに責任が取れるんですか!?」と上司に詰め寄った。
その後、Eさんと新しい担当者は、ほとんど口を聞かなくなった。Eさんは相変わらず遅くまで仕事をしており、残業時間も以前と変わらない。新しい担当者も「これ以上は何を言っても無駄だ」とあきらめてしまったのか、淡々と仕事をしている。
場面・行動・困りごとの3点を整理する
今回は、細かい手順やルールにこだわりが強いEさんの事例を取り上げた。Eさんは基本的には「真面目でな性格」だが、完璧主義で頑固な面もある。Eさんは、業務のミスやトラブルを防ぐことばかりを重視しており、「業務手順を省略できない」「他の担当者に仕事をせられない」「残業が減らない」という問題が生じている。そのこだわりは相当なもので、上司が強く言えば言うほどEさんは反発を強める。
こうした問題を解決するためには、Eさんの行動に着目して考えてみよう。どんな場面で、何をきっかけとして、Eさんはどんな行動をとるのか、その結果、誰が、どんなふうに困っているのかという「場面、行動、結果(困りごと)」の3点で状況を整理できれば、解決の糸口が見えてくる。
(1)新しい担当者と業務手順について意見が合わない
- 場面:新しく加わった担当者が、作業手順の一部を省略できないかとEさんに提案したとき。
- 行動:Eさんは「作業手順を変えるなんてとんでもない」と怒りだす。新たな提案は一切受け付けず、Eさんが作成した手順書の通りに作業するよう求める。ついには「あなたには仕事を任せられない」とって、分担したはずの仕事についてもダブルチェックを始める。
- 結果:Eさんと新しい担当者との協力関係が構築できず、業務手順の効率化が進まない。両者ともストレスを感じてしまう。せっかく業務を分担したのに、結果的にEさんの作業や残業時間が減らない。
(2)上司の指示に強く反発する
- 場面:上司がEさんに、残業時間を減らすために手順を簡素化するよう指示をしたとき。
- 行動:Eさんは「ミスを確実に防ぐための手順を省略するとトラブルが起きかねない。自分は部署のために真面目に仕事をしているだけで、好きで残業しているのではない」と主張し、上司が何を言っても「あなたは実際の業務を分かっていない」と聞く耳をたず、上司が強く言えば言うほど頑固な態度をとる。
- 結果:上司の指示をEさんは受け入れない。作業手順は以前と同じままで、Eさんの残業時間も減らない。上司はEさんを「頑固で扱いにくい人だ」と感じ、Eさんも上司のことを「信頼できない人だ」と感じてしまい、関係が気まずくなる。
今回のまとめ
今回は、手順やルールに厳しすぎて融通がきかないEさんの事例を見てきた。程度に個人差はあるが、どんな職場にも同じような特徴を持つ人がいる。後編では、こうした問題への対処法を解説する。
(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです。)