どうする?職場の問題行動:陰で不平不満を言い、上司の指示に素直に従わない社員(前編)

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「相手のいないところで悪口ばかり言う」「気に入らない時はわざと仕事をゆっくりやる」など、間接的で回りくどいやり方で怒りや不満を表す行動について解説する。

間接的で回りくどいやり方で不平不満を表す

今回は、会議などで直接自分の意見を言うことはないが、会議が終わった後に上司の悪口や不平不満をまくしたてたり、上司からの指示が気に入らないときには、わざと忘れたふりをして着手を遅らせたり、時間をかけてゆっくりやったりするなど、間接的で回りくどいやり方で怒りや不満を表す事例を取り上げる。

会議では意見を言わないのに、後で文句ばかり言うFさんの事例

Fさんは事務用品の販売代理店に勤務する40代の女性社員だ。一見すると人当たりの良い普通の社員に見える。しかし、同じ職場にいる人はみんな、Fさんの独特な行動に悩まされている。

Fさんは、人前では決して自分の意見を言わない。ある時、新たな業務の手順についての会議が開かれ、Fさんも担当者の一人として出席していた。担当者の意見を聞こうと上司は全員に発言を求めたが、Fさんだけは何も言わず、あまり興味のなさそうな顔をして黙っている。声を掛けられると一応は愛想よく返事をするが「ちょっと私はよく分からないので」とか「それでいいと思います」など、いかにも表面的な発言をするだけだ。

ところがFさんは、会議が終わるとたちまち冗舌になり「あんな方法でうまくいくわけがない」「実際の業務のことを上司は何も分かっていない」など、上司に対する不平不満をまくしたてるのだ。ただ、Fさんの話にも、一理ある部分もある。そこで周囲の人が「せっかく気が付いているのだから、会議で言ってくれればいいのに」と促してみたが、Fさんは「自分なんかが発言しても誰も聞いてくれないし…」などと不満そうな顔をするだけだった。

その後、実際に業務が始まってみると、やはり会議でFさんが指摘したような問題が起きてしまった。Fさんは「ほら、やっぱり問題が起きたよね。どうするつもりなんだろうね」としたり顔だ。しかし、Fさんは、問題を上司に報告するわけでも、問題を解決しようとするわけでもなく、それどころか、問題が起きる手順のままで作業をずっと続けている。上司へのあてつけなのか、周囲をわざと困らせようとしているのか、Fさんが何を考えているのかが分からず、周囲の社員は、ただただ困惑していた。

そして、もうひとつ、Fさんには困ったところがある。仕事の指示や依頼を受けたとき、相手の言い方や態度など、何か気に入らないところがあると、あからさまに態度が変わるのだ。

例えば、上司から「ちょっと、この書類を明日までに作っておいてくれ。明日の会議で必要なんだ」と頼まれたとする。普通なら「はい、分かりました」と引き受けるか、あるいは、何か別の仕事があるときには「今日は急ぎの仕事もあるので、どっちを優先しましょうか?」などと確認するものだ。ところが、Fさんは、上司から指示を受けると、たちまち仏頂面になり、明らかに不満そうな態度で「分かりました」と言うだけだ。何か問題があるのかと上司が聞いても、「いえ、別に」と答えるだけで、それ以上は何も言わない。

そして、頼まれた仕事をわざとゆっくりやって残業してみせたり、ひどい時には指摘されるまで放置していたりする。「あの仕事はどうなった?」と催促されると、何となく不満そうな態度を見せて「今やります」「すみません、他の仕事で忙しくて」などと言ってのける。また、会議で決まったことも、何か納得がいかないことがあると、わざと知らないふりをして無視をすることもあり、「そんなこと、決まりましたっけ?」とか「忘れてました」などととぼける。

Fさんがこうした態度を取るのは、上司やリーダーなど、自分より立場が上の相手だけであり、同僚や後輩には親切な一面もある。実際、他部署の社員からは「人当たりの良い、明るくて親切な人物」だと思われている。しかし、仕事を一緒にしている周囲の社員は、Fさんのことを「仕事を頼みづらく扱いにくい社員」だと敬遠しているようだ。特に、若手社員は、陰で上司の悪口を言いまくるFさんに、どう接してよいのか分からず困惑している。

場面・行動・困りごとの3点を整理する

今回は、不平や不満を直接相手に伝えず、遠回しで回りくどい態度で示すFさんの事例を解説する。

Fさんは、上司の指示や意見に表立って反対することはないが、明らかに不満そうな態度を見せたり、仕事をわざと遅らせたりするなど、間接的なやり方で不満や怒りをぶつけてくる。こうした行動によって職場やチームの生産性にも悪い影響が出ている。

このような問題を解決するためには、これまで紹介した事例と同様に、Fさんの性格ではなく、行動に着目して考えてみよう。どんな場面やどんなきっかけで、具体的にFさんがどんな行動をとるのか、その結果、どんな影響が起きているのか、「場面・行動・結果(困りごと)」のそれぞれを整理していく。

(1)会議で意見を求められた場面

【場面】 会議で上司がFさんに意見を求めた場面。
【行動】 発言を促されてもFさんは「いえ、別に」「それでいいと思います」など、表面的な発言をするだけで、自分の意見を言わない。さらに、よそ見をするなど、無表情で関心のなさそうな態度を見せる。会議が終わると、上司がいないところで、上司の発言や会議の決定について不平不満を言う。
【結果】 会議中に意見を言わないので、Fさんの知識や意見が職場の決定に生かされず、その結果、業務効率が落ちることがある。不平不満を聞かされる周囲の社員は、どう反応していいか分からず職場の雰囲気が気まずくなる。

(2)問題が起きると分かっているのに、その手順のまま作業を続ける場面

【場面】 会議で決まった手順で作業を開始したところ、Fさんが指摘したとおりの問題が生じた場面
【行動】 Fさんは陰で「ほら、言ったとおりになったでしょ」「どう責任をとるつもりなんだろうね」と上司を批判しながらも、その後も「会議で決まった手順なので勝手に変えられない」などと言って、上司が決めた手順のまま作業を続ける。
【結果】 発生した問題への対応などで作業に遅延が生じる。文句を言いながらも、問題のある手順で作業を続けるFさんを見て、周囲の社員は「何を考えているんだろう」と困惑したり、「わざと周囲を困らせているのか」と腹を立てたりする。

(3)上司から仕事を指示された場面

【場面】 上司がFさんに「ちょっと。この書類を明日までに頼むよ。会議で必要なんだ」と指示したとき
【行動】 Fさんは「分かりました」と返事をするが、たちまち不機嫌そうな態度になる。「どうしたの?」と上司が声をかけても「いえ、別に」と言うだけで、それ以上は何も言わない。作業をのろのろと時間をかけて行う。
【結果】 本来なら残業しなくてもよい作業のはずだが、Fさんは上司から指示された仕事を、遅くまで残業して仕上げる。上司はその態度を見て「Fさんには仕事を頼みづらい」「付き合いづらい」と感じ、腹立たしい気持ちになる。

今回のまとめ

今回は、表立っては自分の意見を言わないが、陰で不平不満を言い、指示に素直に従わないFさんの事例を見てきた。後編は、こうした問題への対処法を解説する。

後編へ続く
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(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです。)