[法令解説] 化学物質の特殊健診の実施頻度の緩和、何が変わる?

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2022年、化学物質による労働災害を防ぐために化学物質管理に関する法令が大きく改正されました。その中のひとつ、特殊健康診断の実施頻度の緩和措置についてご紹介します。以下のYouTube動画もご覧ください。

従来、特殊健康診断は1年に2回受ける必要がありました。2023年4月以降は、有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質を除く)、鉛、四アルキル鉛の特殊健康診断について、一定の条件を満たせば、定期の特殊健康診断の実施頻度を「6ヶ月以内ごと」から「1年以内ごと」に変更できます。

具体的には、以下の3つの条件を全て満たす場合、特殊健康診断の実施頻度を6ヶ月ごとから1年ごとに変更できます。

  1. 社員が作業する場所の、直近3回の作業環境測定の結果が、第1管理区分であること。
  2. 直近3回の特殊健診の結果において、新たな異常所見がないこと。
  3. 前回の特殊健診以降、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がないこと。

この記事では、法改正の内容や、実際の運用の注意点を中心に説明していきます。

法改正の背景と目的

今回の法改正により、化学物質管理の方針が「法による個別規制」から「企業による自律的な管理」へと方針転換することになります。これまで、化学物質による労働災害を防止するためには法による個別規制が行われていましたが、現在の規制対象の物質は131種類に過ぎず、法の規制がかかっていない物質による健康被害が発生しています。新たな健康被害が生じるたびに法規制が追加されていますが、この仕組みでは労働災害を防ぐことが難しくなっています。企業による自律的な管理が行われることで、全ての化学物質について、現場で安全な取り扱いができ、労働者の健康被害を減少させることが期待されています。

今後、段階的に「法による個別規制」から「企業による自律的な管理」へと移行していく予定ですが、当面は、従来の法令による個別規制と企業による自律的な化学物質管理の仕組みが共存することになります。

実施頻度を緩和すると健診スケジュールはどうなる?

特殊健康診断の頻度を緩和した場合、健康診断の実施スケジュールがどのように変わるかを説明します。例えば、山田さん、鈴木さん、田中さんの3人が、化学物質A、B、Cを使った作業をしているとします。従来は、特殊健康診断は1年に2回受ける必要がありました。したがって、3人とも春と秋に健康診断を受けていました。

しかし、2023年度以降は、一定の条件を満たせば、特殊健康診断は1年に1回でよくなります。ただし、省略できるタイミングは、個人ごとや物質ごとに異なるため、健康診断を受ける時期もそれぞれ異なってきます。

例えば、鈴木さんは春に健康診断を受けず、秋に受けます。一方、田中さんは春に全ての健康診断を受け、秋には物質Aと物質Cの健康診断のみ受け、物質Bの健康診断は受けません。このように、健康診断の受診頻度は個人によって異なります。また、作業環境測定の結果に問題があったり、健康診断の結果に問題があったり、作業内容の変更があった場合は、健康診断の頻度を緩和することはできません。健康診断の頻度を緩和する場合は、実施のタイミングを注意して管理する必要があります。

特別管理物質に該当する物質の調べ方

特定化学物質のうち、特別管理物質に該当する物質は対象外となっています。特別管理物質は、特定化学物質障害予防規則の第38条の3で決められていますが、中災防が発行する「労働衛生のしおり」の中で、わかりやすく一覧表に整理されています。

「労働衛生関係法令・指針・通達等」のページに、特定化学物質障害予防規則の対象物質の表が掲載されており、特別管理物質には「区分 > 特別管理物質」の欄に◯がついています。表の下の方の、「健康診断 > 配転後」の欄に◯がついている物質は、化学物質を取り扱う作業をやめたあとも、退職するまで継続的に健康診断が必要です。

「常時従事する」の基準は?

特殊健康診断の対象従業員を選ぶには、職場の化学物質の使用状況を調査する必要があります。法令では「常時従事する場合」が対象とされますが、法的に明確な基準はなく、厚生労働省は「継続して当該業務に従事する労働者のほか、一定期間ごとに、継続的に行われる業務であっても、それが定期的に反復される場合も該当する。作業の常時性については、作業頻度のみならず、個々の作業内容や取扱量などを踏まえて個別に判断する必要がある」と説明しています(出典:平成28年11月のパブコメへの回答より(質問8番))。

つまり、明確な基準はなく、個別の判断が必要だということです。社内では、一定の基準を決めて運用することをおすすめします。例えば「週1回以上の作業が、6ヶ月以上にわたって継続する場合」などとしている企業もあります。

特殊健康診断の結果の「新たな異常所見の有無」とは?

法令では、特殊健康診断の実施頻度の緩和の条件として、直近3回の特殊健康診断について「新たな異常所見がないこと」が挙げられています。つまり、異常所見があっても直近3回の結果が同じ程度である場合には「新たな異常所見ではない」と判断できます。ただし、産業医が「次回も健康診断を実施した方がよい」と判断したときには、次回の健康診断を通常どおり行うことが適切です。

実施頻度の緩和には、個人ごとに判断する方法と作業現場ごとにまとめて判断する方法があります。企業がどちらを選ぶかは自由です。個人ごとに判断する方法では、同じ場所で同じ作業をしている人でも、健康診断結果によってひとりずつ判断します。作業現場ごとに判断する方法では、同じ場所で同じ作業をしている人の全員の健診結果に問題がない場合のみ、実施頻度を緩和します。1人でも問題があった場合には、その作業現場では実施頻度を緩和しません。