復職支援のセミナーなどでご質問いただくことの多い内容について、今後(不定期に)解説記事を掲載しようと思います。
質問:メンタルヘルス不調で休業中の営業職の従業員が、「営業職〈以外〉なら復職可能」という診断書を持ってきたとき、会社は復職後の業務についてどう対応すればいいですか?
うつ病などのメンタルヘルス不調で休業している従業員の復職支援の対応について、人事担当者や管理監督者むけのセミナーを行っていると、このような質問をいただくことがあります。
質問された方に詳しく話を聞いてみると「原則、現職場への復帰をルールとしており、こんな診断書は受け取れない。営業職への復職が可能になるまで復職は認められない。本人にそのことを説明したところ、本人から主治医にどう話が伝わったのか、「お宅の会社は何を考えているんだ」と、主治医からおしかりを受けた。本人のわがままの通りに診断書を書いてくるなんて、会社の事情に無理解な主治医で困っている」という事情のようです。
このような時には、次の3つを意識して対応にあたるようにするとよいでしょう。
対応策1:とりあえず体調が回復したことを喜び、復職できる生活リズムかどうか、生活記録表で確認する
主治医が復職可能の診断書を書いてきた、ということは、本当に復職できるかどうかはともかく、症状がある程度改善している、ということです。今後、復職についていろいろと調整が必要なこともありますが、まずは、従業員がつらい症状を乗り越えて回復し、復職にむけたステップを一歩進められたことについて、私はひとりの関係者として素直に喜ぶようにしています。
しかし、「症状の改善」と「復職ができる程度の生活リズムの改善」とは別です。復職を確実に成功させるためには、復職できる体調にあるかどうか、実際の生活リズムに基づいて判断する必要があります。そのためには、「生活記録表」を本人に記入してもらい、起床や睡眠、週に5つの午前中からの外出など、「出社していたときと同じような生活リズムで生活ができるかどうか」について確認します。本ブログの「復職支援の対応マニュアル」や、著書「メンタルヘルス不調者 復職支援マニュアル」などをご参照ください。
対応策2:復職までの具体的な取り組みや道筋を示した上で、本人の「本当のニーズ」を探っていく。
診断書にある「営業職以外なら復職が可能」という内容と、会社側の「営業職以外では復職を認めない」という姿勢は、真っ向から対立しています。その対立を話題にしてしまうと、「相手を言い負かしてこちらの主張を認めさせる」という構図になってしまいます。
従業員の復職支援とは「復職させる・復職させない」という対立ではありません。その背景には「従業員が病気から回復すること」、「スムーズな職場復帰を行うこと」、「再び元気になって、しっかりと仕事を続けられること」という共通の目標があるのです。こうした「共通の目標」を話題にして、落としどころを探っていくようにします。
復職を焦っている本人には、先ほどの「生活記録表」の記入を含め、復職についての具体的な段取りを説明します。生活リズムの回復をもって復職の判断としていること、復職後も業務を軽減しながら、徐々に体調を慣らしていくことが復職の成功や再発の防止につながることなどをよく説明し、復職への不安の軽減につとめます。
また、本人が「営業職への復職は難しい」と思っているのは、どうしてなのか、復職にあたってどういうことを心配しているのか、じっくりと話を聞きます。
従業員も、実は「早く復職しなければと焦っているが、以前ほど体調が回復しておらず、このままでは営業職としてきちんと役割を果たすことができない」と感じているのかもしれません。あるいは、「ある担当顧客の仕事がうまくいかず、結果として病気になってしまっため、営業職として仕事を続ける自信をなくしてしまった」のかもしれません。また、単純に「いずれは内勤のスタッフ業務への異動を希望しているが、今回、病気になってしまったので、これを機会に異動させてもらえればと思った」のかもしれません。
対応策3:従業員のニーズを理解した上で、職場のニーズを伝え、より現実的な解決策を探る
「当社は、営業職以外の復職は認めない」の一点張りで対応すると、感情的な対立を招いてしまいます。相手が「営業職としての復職は難しい」と主張している背景には、どんな気持ちがあるのか、その「背景にある不安」や「真のニーズ」を聞き出していくと、より現実的な調整が可能になります。
たとえば、「復職を焦っているが、以前ほど体調が回復しておらず、営業職として役割を果たす自信がない」と考えている従業員に対しては、しっかりと生活リズムや体調を回復させた上で復職し、復職後も半年間は内勤から外勤に徐々に体を慣らしていく復職プラン(後述)を作ることで、本人の不安を軽減できるかもしれません。
「ある担当顧客の仕事がうまくいかず自信をなくしている」事例に対しては、自信をなくしたきっかけとなる状況をよくヒアリングした上で、今後、同じような状況になったときにどう対応すればよいか、具体的なサポートの計画を本人や上司とよく話し合うことで、不安が軽減することもあります。
「いずれは内勤の職種への異動を希望している」ケースについては、会社としては本人に営業職としての適正があると考えていることや、今後も営業の業務を通じて会社に貢献して欲しいと考えていることなどについて、本人と話し合うとよいでしょう。
まとめ:相手の不安をあおるような対応を避け、相手の不安に理解を示した上で、いつも通りの対応を。
メンタルヘルス不調で休業し、復職を控えた従業員は、例外なく「不安」を抱えています。本当に復職できるだろうか、復職後にきちんと仕事ができるだろうか、また体調が悪くなってしまったらどうしよう、職場にまた迷惑をかけてしまうのではないか、など、こうした不安が強すぎるあまり、復職を急ぎすぎたり、復職の時に無理な条件を付けてきたりすることがあります。
会社側は、こうした従業員の不安に理解を示し、不安を軽減できるような対応をしなければなりません。復職支援の対応を円滑に進めるためには、相手の主張がどれほど理不尽なものであっても、相手を批判してはいけません。まずはじっくりと話を聴き、その上で、復職に関する社内の手続きについて説明し、生活リズムの回復の度合いを生活記録表で確認するという、「通例どおり」の対応を進めるようにしましょう。
参考:営業職の一般的な復職プラン
営業職の従業員を復職させる際には、一般的には、半年程度は担当顧客やノルマを持たせず、内勤→同行→外勤へと徐々に慣らしていく、以下のような復職プランを作ると効果的です。
- 復職1ヶ月目:内勤のみ。残業なし。資料の閲覧や整理、内勤スタッフの補助的な業務など。
- 復職2~3ヶ月目:残業なし。営業の補助的な内勤業務を行いながら、週に1度数時間、上司と客先に同行する。体調を見ながら、同行の回数や時間を、週3回程度まで、段階的に増やしていく。
- 復職4~6ヶ月目:今後担当するエリアや顧客の担当者との同行や、営業支援の内勤業務、単独の同行などを行う。残業は1日1時間程度までとする。
- それ以降:一般の営業職と同じく、担当顧客やノルマを課して、通常の業務を行う。
復職プランの詳細な作り方については、著書「メンタルヘルス不調者 復職支援マニュアル」をご覧ください。
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