職場の健康管理において、産業医面談はとても重要な役割を果たします。しかし、社員が産業医面談の呼びかけに応じなかったり、病院の受診勧奨を無視したりして、対応がなかなか進まないケースを経験したことはないでしょうか?
この記事では、こうした課題を解決し、産業医面談をスムーズに進めるために必要な社内規則について、具体的に解説します。
ケーススタディ:産業医面談を拒否する社員
みなさんは、職場で、以下のようなケースを経験したことはありませんか?
ある職場で、健康診断で血圧が異常に高い結果が出て、さらに長時間労働が続いている社員がいました。健康リスクを把握し、必要な対応をとるため、産業医は、面談を実施することにしました。しかし、健康管理室からの連絡に対して、社員は「仕事が忙しい」と面談の呼びかけに応じません。健康管理室から何度連絡しても結果は同じで、上司からも面談の必要性を説明してもらいましたが、「問題ない」「特に困っていない」「大丈夫」と言うばかりで、なかなか面談に応じません。
面談が無理なら、せめて受診状況の確認をしようと、健康管理室から受診状況の報告を求めたところ、「ご心配にはおよびません」という曖昧な返事が返ってきただけでした。職場での様子を上司に確認したところ、社員は以前と変わらない様子で、夜遅くまで仕事を続けているとのことです。
担当者としては、放置すると社員の健康状態が悪化するのではないか、最悪の場合、会社が安全配慮義務を果たしていないと指摘されるのではないかと懸念しています。以前にも、対応が後手に回った結果、長期休職になった事例があったので、このまま見過ごすことはできないと感じています。
健康管理の基本的な仕組みとルール化
このケースでの対応を検討していく際に、まず、社員の健康管理の基本的な仕組みについて振り返っておきましょう。労働安全衛生法では、社員の健康管理について、基本的には以下のようなステップで進めることを求めています。
- 産業医面談を行う
- 必要に応じて産業医が意見書を発行する
- 意見書をもとに職場で対応を検討・実施する
- 配慮が必要な間は1~3の対応を繰り返してフォローアップする
産業医面談はこのプロセスの出発点です。面談が適切に実施されないと、以降の対応がすべて停滞し、会社は安全配慮義務を適切に果たせなくなる可能性があります。そのため、社員が面談や受診を拒否した場合にも、会社としての必要な対応が滞らないよう、明確なルールを定めておくことが重要です。
社内規則に定めておくルール
産業医面談など、社内の健康管理の対応を適切に実施するためには、以下のような規則を設けておきます。
(1) 産業医面談の実施とその対象者
「次の場合に会社は産業医面談を実施する。社員は面談を受けなくてはならない」と明記しておきます。面談を拒む社員がいた場合も、規則に定めてあれば、その後の対応を進めやすくなります。
- 健康診断で異常が認められた場合
- 長時間労働の基準を超えた場合
- 休職中または復職後のフォローアップが必要な場合
- 病気、ケガ、障がい、その他の体調不良や勤怠不良等の理由で、健康上の配慮が必要と思われる場合
- その他、上司・人事担当者・産業医等が必要と判断した場合
最後に「その他の必要な場合」と記載しておくと柔軟に対応できます。
(2) 病院の受診と受診結果の報告
病院の受診や受診結果の報告に関しても、明確なルールを設けておきましょう。
- 産業医や会社が必要と判断した場合、社員は指定の医療機関を受診しなければならない。
- 必要に応じて、受診結果や診断書を会社に提出しなければならない。
- 原則として受診や治療にかかる費用は社員負担。ただし、会社が特別に認めた場合は、会社が負担する。
(3) 産業医の意見書の発行と活用の手順
健康管理を適切に行うために、「産業医の意見書」を活用する際の手順も明確にしておきます。
- 就業上の配慮が必要と判断された場合、産業医が意見書を発行し、人事担当者に提出する。
- 人事担当者は、社員の上司と協議の上、必要な措置を決定して実施する。
- 就業上の措置の実施状況や、実施しない場合の理由を人事担当者は産業医に報告する。
この流れをルール化することで、産業医の意見書を最大限に活用できます。
まとめ
産業医面談をスムーズに実施するためには、面談の実施基準、病院受診の手順、意見書の取り扱いなどを明確に規則化することが重要です。通常の対応では、こうした規則を意識することは少ないかもしれませんが、うまく対応が進まないときにこそ、こうした規則が役立ちます。
ぜひ、みなさんの担当事業所でも、規則を見直し、必要な改善を加えることで、社員の健康管理をより円滑に行えるようにしましょう。