社員の健康管理は、産業医、産業看護職、衛生管理者、人事担当者など、複数の職種が連携してはじめて適切に機能します。この連携がうまくいかないと、社員の健康状態が悪化し、職場の対応にも影響を及ぼすことがあります。本記事では、連携不足が招く問題点と、担当者の連携を強化する具体的な取り組みを紹介します。
事例:情報共有不足が社員の健康悪化を招いたケース
Aさん(20代男性)は、体調不良を上司に相談し、仕事に行き詰まりを感じており異動を希望していると伝えました。上司はこの内容を健康管理室の保健師に伝え、保健師はAさんと面談を行いましたが、その時点で、Aさんは異動する方向で対応が進むことになっており、保健師はAさんの問題は解決したと考えて、産業医への報告を忘れてしまいました。
しかし、その後、Aさんの異動の調整が遅れ、Aさんは、見通しが不透明なまま無理をして働き続けた結果、体調は悪化し、数ヶ月後には休職を余儀なくされてしまいました。
こうした事態を防ぐためには、産業保健スタッフ間の役割分担を明確にし、情報共有を徹底することが必要です。
なぜ連携が重要なのか? 連携不足の3つの原因
産業医面談を基本とした、社員の健康管理の仕組みが機能するには、産業医や看護職、人事担当者、衛生管理者などがそれぞれの役割を果たし、正確に情報を共有することが欠かせません。
以下のようなケースでは、必要な対応が遅れたり、不備が生じたりするリスクが生じます。
- 役割分担が不明確
担当者の役割分担が明確でないと、誰が何をすべきかが曖昧になり、対応が遅れます。役割が明確であれば、いつ、誰にどの情報を伝えるべきかがわかり、情報の流れがスムーズになります。 - 産業医への情報共有不足
産業医面談や産業医の意見書は、健康管理の仕組みの起点となるため、社員の健康管理に関わる情報は、確実に産業医に報告し、適切な対応を取る必要があります。 - 定期的なミーティングの欠如
情報が一方通行になると連携が途絶え、早期対応が難しくなります。スタッフ間で定期的にミーティングを行い、情報交換や情報の確認を行う必要があります。
産業保健スタッフの連携を強化する4つの取り組み
社員の健康管理の仕組みを効果的に運用するには、産業保健スタッフや人事担当者がそれぞれの役割を理解し、密接に連携することが欠かせません。連携強化のためには、次の4つの取り組みが必要です。
1. 役割を明確にし、責任を共有する
産業医、産業看護職、衛生管理者、人事担当者の役割を明確にし、お互いが相手の役割を正しく認識することが重要です。役割は事業所の規模やリソースによって多少異なりますが、一般的な役割分担は以下の通りです。
- 産業医は、健康問題を抱える社員やその上司と面談を行い、就業上の措置や職場での対応が必要かどうかを検討します。必要に応じて産業医の意見書を発行し、状況にあわせてフォローアップを実施します。
- 看護職は、職場と産業医をつなぐ情報のハブとして機能します。収集した情報を整理して産業医に共有し、産業医からの連絡事項を現場にわかりやすく伝える橋渡し役を担います。また、社員との個別面談を実施した場合、その結果を産業医に報告します。
- 衛生管理者は、日頃の職場巡視や衛生管理活動のなかで健康管理上の問題を発見し、産業医や関係者と相談して解決を進めます。衛生委員会などの場も活用しながら、職場全体の健康管理を進めていきます。
- 人事担当者は、労務管理と健康管理の両面から、産業医や産業看護職、職場の上司とも連携し、個別のケース対応を進めていきます。就業上の措置の実施や休復職の取り扱い、労務管理の課題について支援し、必要な対応を進めていきます。
2. 産業医へ情報を確実に共有する仕組みを作る
社員の健康管理は、産業医面談を出発点として進められます。体調不良や勤怠不良に関する社員の問題は、確実に産業医に報告し、適切な対応につなげます。
また、健康相談窓口の周知や、管理職向け研修を定期的に実施し、早期に問題を発見・対応する体制を整えましょう。
3. フォローアップが必要な社員の管理を徹底する
就業制限やフォローアップが必要な社員についてはリストを作成し、定期的に見直しましょう。リストには、面談を実施する間隔や、意見書の有効期限、前回の面談日、次回の面談時期などの情報を記載します。フォローアップの対象者については、抜け漏れのないよう計画的に面談の日程を調整しましょう。意見書の有効期限は最長1年とし、産業医面談を最低でも年1回は実施して意見書を再発行しましょう。
4. 定期的なミーティングを実施し、情報交換を行う
産業医・人事担当者・産業看護職・衛生管理者等の集まる定期的なミーティングを設定し、社員の健康状態や職場の状況を共有・確認しましょう。非常勤産業医の場合は、産業医の来社日に合わせて、常勤産業医の場合は事業所の規模に応じて毎週〜隔週で開催します。ミーティングでは、対応中の社員の健康状態や職場環境の課題、就業制限の運用状況、今後のフォローアップ計画などを議論します。
まとめ:連携のプロセスを見直して、社員の健康を守ろう
産業保健スタッフ間の連携不足や役割分担の曖昧さは、健康問題への対応の遅れや長期化を招く要因となります。役割を明確にし、情報共有の仕組みを整え、定期的なミーティングで連携を強化することで、健康管理の体制はより効果的に機能します。
産業保健スタッフと人事担当者が一丸となって健康管理に取り組むことで、社員の健康を守るとともに、職場全体の健康意識と産業保健活動の質も向上します。今こそ、自社の体制を見直し、連携をさらに強化していきましょう。