どうする?職場の問題行動:マイペースで協調性がない社員(後編)

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職場で見られる「困った行動」への対策について解説する連載の8回目。マイペースで協調性がない行動によって生じる問題には、「とりあえず仕事がそこそこ回るような環境づくり」を当面のゴールにして、それ以外のことは後回しにするか、スルーするようにしよう。

マイペースで協調性に欠けるDさんの事例

まず前回の事例を振り返ってみよう。Dさんは、 細かいところにこだわり始めると、ずっとひとりで考え込んでしまって、作業を先に進められなくなるクセがある。指示を受けても、その内容に引っかかる部分があると、どうしようか悩んでしまって作業が進まない。また、本筋とは別の方向に作業を進めてしまうこともある。他にも、周囲の状況や相手の気持ちを察することができず、とげのある発言で周囲の気持ちを傷つけたり、延々と話を続けて相手の時間を奪ってしまったりする。

本事例の場面・行動・困りごと

今回のように複数の問題が同時に発生しているときは、まず、問題点をリストアップして整理し、 職場への影響が大きい問題や、解決策をすぐに実施できそうな問題から対策を進めよう。

今回の職場では、次のような困りごとが生じている。

【作業をスケジュール通りに進められない】

  • 場面・きっかけ:Dさんが作業をする場面・進捗を確認される場面
  • 行動:自分の中で納得できるまで考えたり調べたりする。ひとりで考え込んでしまい、そこから先に進めなくなる。しかし、周囲からを尋ねられたときには「大丈夫です」と答えてしまう。
  • 結果(困りごと):作業が締め切りまでに終わらない。または、本来の指示とは違った成果物になる。それをカバーするために、周囲の負担が増えてしまう。

【相手の気持ちを察することができない】

  • 場面・きっかけ:Dさんが同僚と話をしている場面
  • 行動:Dさんは相手の反応や気持ちに構わず、批判的な発言をする。また、話が長く、周囲の様子を察することなく延々と話し続ける。
  • 結果(困りごと):「どうしてDさんはこんなことを言うんだろう?」「なぜ察してくれないんだろう?」「いつまで話すんだろう?」と、周囲がイライラする。

Dさんの行動の背景

マイペースで協調性がないといわれる人の中には、こだわりが強く、臨機応変に行動するのが苦手で、特定のパターンから外れると混乱してしまう、という特徴をもつ人がいる。何か気になる部分があると、そこで考え込んでしまい、作業を先に進められなくなる。気になる部分を深く掘り下げ過ぎたり、あるいは、指示とは全然違う方向に作業を進めてしまったりする。抽象的な表現や、あいまいな指示がうまく理解できないこともある。その結果、周囲から「頭が固い」「要領が悪い」「自分が納得しないと動かない」などと思われてしまう。

また、コミュニケーションの場面では、相手が何を感じているか、何を考えているかを、表情や動作から察することが苦手だという特徴をもつ人もいる。そのため、忙しいときに話しかけてきたり、相手が嫌がっていることに気付かずに話し続けるということが起きてしまう。冗談や社交辞令、遠回しな表現、皮肉、たとえ話がなかなか理解できないこともある。

職場で対応できること

まず「Dさんの言動を変える」ことを解決のゴールにするのではなく、「行動のきっかけとなる場面を減らすこと」や「周囲の社員に与える影響を少なくすること」について考えてみよう。性格や行動パターンを根本から変えることはできなくても、行動のきっかけを減らし、影響を少なくすることができれば、職場の問題を小さくすることができる。

その際の基本的な考え方を、2つ、頭に入れておこう。ひとつは「Dさんに察してもらおうとしないこと」だ。周囲の人が何も言わなくても雰囲気を察して行動を変えてほしいと思っていても、その願いがかなうことはない。そうした非現実的な期待は手放して、現実的に達成可能なことを目標にするとよい。

もうひとつのポイントは「Dさんに過剰に関わらないようにすること」だ。Dさんの言動を変えようと必要以上に干渉するのはやめよう。「Dさんの担当業務がそこそこ回るようになる」ことを当面の目標とし、それ以外のことには目をつぶってスルーするとよい。

それでは、この2つの基本をおさえた上で、具体的な対策について見ていこう。

対策1 態度で察してもらおうとせず、笑顔で率直に伝える

Dさんは相手の態度や感情を察することが苦手なので、イライラした態度や、遠回しな表現で何かを伝えようとしてもうまくいかない。そのような態度を見せても「この人は何がしたいんだろう?」と、Dさんを困惑させるだけだ。だからといって、イライラや不満を言葉にして直接ぶつけるのも良くない。

Dさんに「そろそろ話をやめてほしいな」と思っているときは、時計やパソコンの画面をチラチラ見るのではなく、「○○の準備があるので、そろそろ仕事に戻りますね。話の続きはまた今度」と、率直に伝えよう。笑顔で、きっぱりと、手短かに伝えるのがポイントだ。

対策2 現実的で達成可能なゴールを定め、それ以外はスルーする

現実的で達成可能なゴールとは「Dさんが空気を読めるようにはならないが、具体的にお願いをして、さらに進捗管理を適切に行えば、期待する行動をとってくれること」だ。最初は難しいかもしれないが、努力が実ってくれば、職場の問題も少しずつ減っていく。

そこで「仕事がそこそこ回る」くらいの状態を目指し、それ以外のことにはなるべく目をつぶろう。いろいろと気になる部分やイライラすることも多いが、Dさんとはあくまでも「仕事上の付き合い」だ。仕事が最低限回っていればよいと考えて、それ以外のことはスルーしよう。職場の人間関係の問題に多くの労力を割く必要はない。適当にあいづちを打ちながらやり過ごそう。

対策3 進捗を定期的に確認し、手順を具体的・定量的に伝える

もし、あなたがDさんの上司、またはDさんに仕事を依頼する立場なら、仕事の進捗を定期的に確認するようにしよう。もし、つまずいているところがあれば「こういうときはこうする」と具体的に指示をする。やり過ぎているところがあれば「ここまででよい」と明確に伝える。

特定のパターンから外れた臨時の対応や、臨機応変の対応が必要なときは、「この場合はこうして、次にこうする」と作業手順をひとつずつ具体的に伝える。「多め」「いい感じ」「ささっと」「なるべく早く」などといった言葉は伝わりにくい。具体的な数字を使って定量的に伝えよう。

対策4 批判やアドバイスではなく「お願い」する

仕事の指示や依頼をするとき、つい、Dさんの様子にイライラしてしまうこともある。しかし「なぜ言ったとおりにやらないんだ!」などと問い詰めてしまうと、相手が緊張して身構えてしまう。人は、警戒していたり、おびえていたり、不愉快な気分のときには、相手の話の内容を理解することは難しい。つまり、Dさんを不安にさせてしまうと、あなたの指示の内容もうまく伝わらなくなる。これでは本末転倒だ。

相手への指示は、上から目線の批判やアドバイスという形ではなく、お願いという形で伝えよう。「○○してくれると(私は)ありがたい」「○○してくれると(私は)助かる」などと伝えるとよい。立場、経験、能力、状況にかかわらず、常に対等な立場として相手を尊重し、礼儀正しい言葉遣いを心掛けよう。

対策5 人間関係の問題より、仕事の工夫を優先する

職場内では、仕事が円滑に進まないときに人間関係が悪化し、本人の言動がことさら問題視される傾向がある。そんな時、まずは仕事がそこそこ回るような環境づくりを優先しよう。Dさんの担当業務を分割して、Dさんのできるところから少しずつ担当させるという方法もある。苦手な業務は、他の人に担当させてもよい。Dさんの業務がある程度スムーズに回るようになると、周囲の悩みも減り、個性的な言動もあまり問題にならなくなる。

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(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです。)