前回までのあらすじ
前回(復職3~4カ月目に気をつけること)は、復職後3~4カ月目の過ごし方について解説した。復職後、6カ月ほどかけて業務を調整しているうちに、少しずつ体力や集中力などが回復して以前と同じように仕事ができるようになってくる。今回は、これまでのまとめとして、復職して約半年が過ぎた頃の留意点やフォローアップについて解説したい。
事例:復職して6ヶ月が過ぎた山田さんが考えていること
山田さんが復職してから6カ月が過ぎた。復職後、体調が大きく崩れることもなく、経過は順調のようだ。職場復帰支援プランの通り、今月からは就業制限も解除され、もうすっかり職場の一員として以前と同じように仕事をしている。病院への通院も続けており、様子を見ながらそろそろ薬を減らしていこうかと主治医と話しているそうだ。
しかし、少しずつ仕事が増えていく中で、心配なこともいくつか出てきた。これまでは「残業なし」とか「残業月10時間以内」というような就業制限がかけられており、業務量が多くなりすぎないように管理されていた。しかしこれからは、そうした制限もなくなってまわりと同じように仕事をしないといけない。
現在の職場は、山田さんが体調を崩した時の状況と何ひとつ変わっていない。むしろ、以前よりも忙しくなっているように見える。山田さんは、毎日のように自宅にパソコンを持ち帰り、休日も家で仕事をしていた頃のことを思い出していた。あんな働き方をしていたから体調を崩したのだと思うが、今後、業務が増えて忙しくなってきた時に、どうやって仕事をこなしていけばいいのだろうか。
まわりの同僚は、いつも通りに仕事を着々とこなしている。それに引き換え、自分はまるで役に立っていないのではないか、これからちゃんとやっていけるだろうか、山田さんは、ときどきそんなことを考えるのだった。
先日、上司と今後の業務について相談する機会があった。山田さんは「体調は問題ありません。これからがんばりたいと思っていますが、ブランクもあって、正直なところ、以前のように働けるかどうか自信がないんです」と、つい、弱音をはいてしまった。上司は「無理をしないで、少しずつやっていけば大丈夫だよ」と話してくれたが、内心は、こんな自分のことを頼りにならないと思っているのかもしれない。
これ以上、職場に迷惑はかけられない。そう考えるたびに、山田さんは、何だか肩のあたりがずしりと重くなる気がするのだった。
解説:復職して半年が経った時の対応の留意点
復職してから半年ほどがたつと、体調もだいぶ落ちついてきて、以前と同じように仕事ができる感覚が戻ってくる。ただし、完全に回復したと思って油断していると、無理をして体調を崩すことがあるので要注意だ。体調の悪化を防ぐためにも、復職後のフォローアップの面談で、これまでのことを振り返っておくようにしたい。
まず、復職してから現在までの体調の変化について思い出してもらおう。疲れがたまったり、症状がぶり返したことはなかっただろうか。例えば、なかなか眠れなくなったり、すぐに目が覚めてしまったり、頭痛や肩こりが出たり、イライラしたり、ため息が増えたり、風邪を引きやすくなったりするのは、身体的・精神的な疲れのサインかもしれない。
次に、復職してからの働き方を振り返ってもらおう。以前と同じような働き方をしてしまい、疲れやストレスをためてしまったことはないだろうか。例えば、相談できずに仕事をためてしまったり、仕事を引き受けすぎてしまったり、何でも自分のせいだと考えて自分を責めてしまったり、あるいは、何でも周囲のせいだとイライラしてしまったりしたことはないだろうか。失敗したらどうしようと考えすぎて不安になったり、自分で何とかしなければと自分を追いつめてしまったり、または、気が進まないことを先送りにして、結果的に、自分を追い込んでしまったことはないだろうか。
復職したばかりの頃は業務量が軽減されていたので、ストレスや疲労を感じる場面は少なかったかもしれない。ただし、復職して時間がたつとだんだん通常の業務に戻ってくる。以前と同じような悪循環を繰り返してしまうことはなかっただろうか。
復職して半年が過ぎ、勤怠や体調、仕事ぶりに大きな変化がなさそうであれば、フォローアップの面談を終了してもかまわない。しかし、勤怠や体調が十分に安定していない場合などは、主治医や産業医とも相談しながら、フォローアップの面談や業務調整などを継続する必要がある。再発事例などもフォローアップを長めに続けたほうがよい。
何度も繰り返すことになるが、通院と服薬を続けることの重要性をあらためて伝えておこう。忙しくてつい病院に行きそびれたり、薬を飲み忘れたりすることは誰にでもある。そんな時、主治医と顔を合わせることを気まずく感じることもあるが、ぜひ通院を続けるよう念を押しておきたい。症状が落ちついてくると徐々に減薬していく場合もある。通院と服薬については、主治医の指示に従うように伝えよう。
事例:体調を優先すべきか、仕事を優先すべきか
その後の面談で、産業医は山田さんに「復職してから今まで仕事をしている中で、体調が悪くなったり、疲れを感じたり、仕事のことで気持ちが焦ったり、不安になったりしたことはありませんでしたか?」とたずねた。
山田さんは「体調を崩さずに働きたいという気持ちと、職場に迷惑をかけられないという気持ちとがある。職場の一員として貢献していきたいが、以前と同じように仕事をする自信もなく、どうすればよいか迷っている」と話した。
それを聞いて、産業医は「体調を崩さずに、なおかつ、職場に貢献するためには、どんなことができるんでしょうかね」と問いかけた。その時、山田さんは頭の中のもやもやが少し晴れたような気がした。これまでは「体調を崩さないようにペースを落とす」ということと「バリバリ仕事をして職場に貢献する」ということの、どちらか一方を選ばなければならないと思っていたが、体調管理と職場への貢献を両立できるような方法があるかもしれない。今後はそのような働き方を目指していこうと思った。
今回のポイント:「復職後の働き方を振り返っておこう」
復職してから半年ほど過ぎると、体調も安定し、以前と同じような業務を行えるようになってくる。復職支援もそろそろ仕上げの段階だが、最後に、復職後の働き方を振り返る機会を持ちたい。これまで体調を崩しかけたことはなかったか、ストレスを感じる場面でどのように対応したか、さらに今後、仕事が増えてきた時にどのように対処すればよいか、本人と話しておこう。また、通院と服薬に関しては、今後も主治医の指示に従うように伝えておこう。
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上記の記事は、雑誌『安全と健康』(中央労働災害防止協会)に2018年1月号〜12月号に寄稿したものを再編集したものです。