どうする?職場の問題行動:仕事のミスが多すぎる社員(前編)

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仕事をなかなか覚えられずにミスを繰り返す人がいると、周囲の負担が増えて、職場全体の業務のマネジメントが難しくなる。改善のためには、場面・行動・困りごとに着目して整理しよう。

仕事ができない・ミスが減らない

今回は「仕事をなかなか覚えられない、仕事のミスが減らない」という問題について考えてみる。

仕事を覚えるとき、私たちはマニュアルを見たり他の人に教えられたりして、時には失敗を経験しながら少しずつ習熟していく。しかし、中には、何度教えても手順を覚えられない人や、同じようなミスを繰り返す人、同じことを何度も質問してくる人がいて、周囲の社員が困惑することがある。

そのような状況が続くうちに、周囲の人もついイライラしてしまい、指導の口調が厳しくなることがある。あるいは、その人に仕事を任せられなくなり、本人が孤立してしまったりする。そんな状況が続くと、本人も周囲の人もいつの間にか神経がすり減ってしまう。

こうした状況を「本人のやる気や能力が足りないからだ」と考えているうちは、問題を解決することは難しい。そこで今回も「行動」に焦点をあてて考えてみよう。業務上の問題が起きているのは、どんな状況で、本人がどんな行動を取ったときだろうか。どんな状況でミスをしているのか、どんな作業を苦手としているのか、本人の行動を詳しく観察することが必要だ。

誰にも得意なことと苦手なことがあり、記憶力、注意力、集中力、正確性、速度、判断力、想像力など、業務で必要とされる能力には個人差がある。業務遂行における問題を解決するためには、相手の得意・苦手に応じて、指示の与え方や業務の進め方の工夫を行えるとよい。

仕事をなかなか覚えられないBさんの事例

ある企業の営業本部のマネジャーは、今年の新入社員のBさんの育成をどうしようか真剣に悩んでいる。Bさんはとても明るくて感じのいい好青年なのだが、仕事の覚えがすこぶる悪い。指示をすると熱心にうなずきながらメモを取り、「分かりました」と言うのだが、実際にやらせてみると間違いがとても多いのだ。

その間違いを修正するように指示しても、どういうわけだか、修正を指示したところが直っていたり、直っていなかったりする。それどころか、全く別のところに新たな間違いが生じていることもある。そんなわけで、ミスの修正が一回で済むことはなく、二度、三度と手間がかかる。同じようなミスを繰り返すことも多いので、指導を行っている先輩社員も対応に困っている。

さらに、同じ仕事をするのに他の社員の2倍も3倍も時間がかかる。もちろん、最初のうちは仕方がないと思っていたが、何カ月たっても一向に改善されない。作業の途中で何か分からないことがあっても、先輩社員に確認しようとせず、自分で調べようと時間をかけて奮闘していることが多い。手順を勘違いしたまま作業を先に進めることもあって、作業のほとんどがやり直しになることもある。

こんな調子では、他部署や顧客に影響が出るような業務は任せられない。普通の新入社員なら、すでにいくつかの仕事は一人でこなせるようになっているはずなのに、Bさんはまだ初歩的な作業すらおぼつかない。先輩社員も、指導に自信をなくしてしまったのか、それともBさんのことが嫌になってしまったのか、指導役から外れたいとぼやいている。

こんな状況にもかかわらず、Bさん自身は「先輩社員はとても親切に指導をしてくれる」「早く仕事を覚えてチームの戦力になりたい」と前向きだ。仕事の出来が悪いことを指摘されても「まだ経験が浅いので、マニュアルを確認しながら作業をしていると時間がかかる」とか、「ミスをしないよう何度も見直しをしている」などと話している。同じ職場に同期の社員がいないせいか、本人としては、他の人よりも仕事の覚えが悪いとは思っていないようだ。

場面・行動・困りごとの3点を整理する

本ケースは、仕事をなかなか覚えられないBさんに、指導を行う先輩社員や上司が困惑しているという事例である。この問題の原因を「Bさんのやる気がないからだ」と考えてしまうと、Bさんに対して「もっと真剣に!」「もっと注意して!」などと、あまり効果のない指導を繰り返すことになり、状況を改善することは難しいだろう。

職場の問題に対応するには、Bさんの「やる気」や「がんばり」ではなく「行動」に着目して考えてみる。やる気やがんばりは目に見えないが、行動は目に見えるため、観察することや指導することができる。行動に注目すると状況を改善できる可能性が高い。

今回の問題についても「どんな場面で、何をきっかけとして」、「Bさんがどんな行動をするのか」、「その結果、誰が、どんなふうに困っているのか」という、「場面・行動・困りごと」の3点で整理してみよう。Bさんのケースについて、以下の3つの場面について分析してみた。

(1) 仕事の指示を正確に理解しておらず、ミスが多い

【場面】 先輩社員がBさんに口頭で仕事を指示しているとき。
【行動】 Bさんは熱心にメモをとって「分かりました」とうなずく。しかし、実際に作業にとりかかってみると、指示の内容を誤解しており、間違いやミスが生じてしまう。
【周囲の困りごと】 作業の結果の確認や、作業のやり直しの指示、関係者への連絡やおわびなどで先輩社員の時間が取られる。全体の仕事の進捗が遅れてしまう。

(2) 手順を間違える、同じようなミスを繰り返す

【場面】 すでに経験したことがある、以前と同じような作業をしているとき。
【行動】 Bさんはマニュアルやメモを見ながら作業をしているが、手順を間違えていることや、以前と同じようなミスを繰り返していることに気が付かずに作業を進めてしまう。本人としては「ミスをしないように気を付けたり、何度も見直したりしている」と認識しているのだが、実際の行動にはつながっていない。
【周囲の困りごと】 ずいぶん時間がたってから作業手順の間違いやミスが発覚し、確認や修正作業に時間を取られてしまう。同じようなミスを繰り返すので、Bさんの仕事の結果をすべてチェックし直さなければならず、安心して仕事を任せられない。Bさんへの業務教育計画にも大幅な遅れが生じている。

(3) 仕事中に手が止まり、他の人の2〜3倍の時間がかかる

【場面】 作業の途中で、何か分からないことがあったとき。
【行動】 Bさんは先輩社員に確認したり質問したりせず、自分でなんとか調べようと資料を探したり、手を止めてじっと考え込んだりしている。うまく答えが見つけられないので、数時間〜半日ほど作業が止まってしまう。
【周囲の困りごと】 作業を終えるのに想定の2〜3倍も時間がかかってしまい、全体の進捗にも遅れが生じる。処理に時間がかかるので、Bさんに依頼できる仕事が少なくなる。

今回のまとめ

今回は、仕事をなかなか覚えられず、ミスが多い新入社員のBさんの事例を取り上げた。仕事を手順通りに進められないという問題を「本人のやる気が足りないせいだ」と考えるのではなく、Bさんの「行動」に着目して考えると、Bさんの苦手な部分が見えてくる。後編では、Bさんの行動の背景や職場での具体的な対処法について解説する。

後編へ続く
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(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです。)