どうする?職場の問題行動:攻撃的な言動が見られる社員(前編)

      どうする?職場の問題行動:攻撃的な言動が見られる社員(前編) はコメントを受け付けていません

何か気に入らないことがあると、大声で相手をどなりつけたりする攻撃的な言動は、業務の円滑な遂行を妨げ、職場環境を悪化させる。そうした困った行動への対処法を解説する。

本連載の目的

産業医として社員と面談を行っていると、周囲の人を悩ませる「困った行動」にをする人に関する相談を寄せられることがある。相手は上司であったり、部下であったり、同僚であったりするが、その言動や態度が「通常のレベルを超えている場合」は、特に対処が難しい。この連載ではそうした「困った行動」を取り上げ、その原因や対処法について解説する。職場でのより良い人間関係づくりに少しでも役立てていただきたい。

攻撃的な発言・態度

初回は、攻撃的な発言・態度の事例を取り上げる。何か気分を害する出来事があるたびに、大声で意見を主張したり、相手を怒鳴りつけたり、相手を批判したり、非協力的な態度を取ったりする行動は、業務の円滑な遂行を妨げるばかりか、職場の心理的な安全性を損ね、周囲の社員のメンタルヘルスを大きく悪化させる。

また、攻撃的な言動をする人物に対して、上司が注意や指導を行っても、その行動が改善されることは少ない。一時的には攻撃的な言動が少なくなっても、そのうち元に戻ってしまう。中には、注意されたことに激しく反発する人もいる。

そんな状況が続くうち、誰もこの問題に触れられなくなってしまい、本人を怒らせないように周囲が常に気を付けるようになってしまう。ひとたび怒りが爆発したら、嵐が収まるまでひたすら耐えしのぶしかない。そんな状況が続くうちに、その職場では円滑なコミュニケーションが阻害され、職場環境はどんどん悪化していく。もちろん、職務の遂行にも支障が出てしまうだろう。

中途入社してきたAさんの事例

ある会社に中途入社してきたAさんの事例を紹介する。有名なグローバル企業で勤務していた経歴を持ち、海外との豊富なビジネス経験を買われて中途入社してきたAさん。プレゼンテーションも堪能で、役員面接での評価も非常に高かった。

しかし、入社後、彼への評価は180度変わってしまった。確かに、海外ビジネスの知識や語学のスキルには間違いはなかった。しかし、プライドが非常に高く、試用期間を経て本採用となった頃から、周囲を見下すような言動が見られるようになった。

さらに、自分の意見を否定されたり、自分の思ったように物事が進まないと「そんなことがどうして分からないんですか!?」「こんなことはグローバルでは常識ですよ?」「今まで何をやってたんですか!」「何度言えば分かるんですか!」と、ものすごい剣幕で相手を追い詰めるのだ。ほぼ毎週のように、Aさんが誰かを非難する声がフロアに響くようになった。

上司がやんわりと注意しても、「私の意見のほうが正しいのに、なぜ私が注意されるのですか。こうしないと海外では通用しません」と、すごい剣幕で反論してくる。確かに、Aさんの言い分にも一理あるのだが、Aさんは、何でもかんでも自分の言う通りにならないと気が済まない。少しでもAさんの意見に反論しようものなら、10倍になって返ってくる。

執務室でも、会議室でも、電話口でも、いつAさんが怒り始めるか分からない状態が続き、周囲のメンバーは常にビクビクしながら仕事をするようになった。ある頃から、Aさんを採用した本部長のもとに「Aさんと一緒に仕事をしたくない」「Aさんをプロジェクトから外してほしい」「Aさんの声が聞こえるとドキリとしてしまう」という苦情の声が届くようになった。

ある日の会議中、他部署のベテラン担当者のBさんが、Aさんの言動にガマンができず、「他社ではどうか知らないけど、そんなやり方ではうまく仕事が回らないよ」と真正面から反論してしまった。もちろん、Aさんはいつもの口調でまくしたてたが、今回はBさんも引かず、口論になってしまった。周囲のメンバーが息をのんで見守る中、Aさんは顔を真っ赤にして会議室を出ていってしまった。

場面・行動・困りごとの3点を整理する

本ケースは、Aさんが怒りを爆発させて周囲の人々が迷惑しているという事例である。これを「Aさんの怒りっぽい性格が問題だ」と考えてしまうと、Aさんが性格を直さない限りは状況は変わらないということになる。そうなると、問題解決は遠のいてしまう。

問題を解決するためには、Aさんの「性格」ではなく、Aさんの「行動」に着目して考えてみよう。相手の性格は変えられなくても、相手の行動は制御できる可能性が高いからだ。
そこで、まずは「(1) どんな場面で、何をきっかけとして」、「(2) Aさんがどんな行動をするのか」、「(3) その結果、誰が、どんなふうに困っているのか」という、「場面、行動、困りごと」の3点で状況を整理してみよう。

(1) 場面・きっかけを特定する

職場の問題行動は一定期間にわたって繰り返されることが多いが、ここでは、直近の大きな出来事について、なるべく具体的に場面を特定しよう。「何月何日の何時何分ごろ、どこで、誰が、誰と、何をしていたとき、誰が、何を言ったとき」というように、ピンポイントで特定するとよい。

Aさんの場合も、怒りを爆発させる場面が毎週のように繰り返されている。しかし、「いつも」「たいてい」「毎週のように」というような表現ではなく、「○月○日のXX時頃、○○の件で○○会議室で○○部署と打ち合わせをしていて、BさんがAさんの意見に対して……と発言したとき」などと具体的に表現する。

(2) 困っている行動を特定する

行動を特定するときは、ビデオカメラで録画した映像を文字にするように、周囲からの視点で、その行動を具体的にありありと描写することがポイントだ。その際、Aさんの考えや気持ちなど、カメラに映らないAさんの内面を描写する必要はない。

例えば、「Aさんが会議中に怒り狂い、部屋を出ていった」というような表現ではなく、「Aさんは立ち上がって、Bさんに向かって……や……などと約10分間も大きな声でしゃべり続けた。Bさんが反論したり、その場にいたCさんが落ち着くように促しても、Aさんはそれをさえぎるようにしゃべり続け、○時○分ごろ、会議の途中に部屋から出ていってしまった」などと描写する。

(3) 周囲の困りごとを特定する

最後に、困りごとを整理する際のポイントは、誰が、どんな被害を受けているのか、周囲にどんな影響があったのかを具体的に表現することだ。被害の影響や範囲をしっかり特定することで、思ったよりも被害が小さいことや、あるいは想像以上に影響が大きいことに気付き、現実的な対処法を考えることができる。

例えば、「この会議では…を議論することが目的だったが、Aさんの言動によって十分な意見交換が行えなくなり、会議の目的が達成できず、仕事に遅れが生じたこと」や、「会議ではさまざまな意見を踏まえて検討することが重要だが、Aさんの言動によって他の参加者が発言をためらうようになったこと」などが挙げられる。さらに、「その結果、…の業務が遅れ、…さんと…さんの業務に…という影響が生じたこと」なども、困りごとに追加してよいだろう。

今回のまとめ

今回は、職場で攻撃的な言動をする人を題材として、仕事中や会議中に怒鳴り散らすAさんの事例を取り上げた。「性格の問題」ではなく「行動の問題」に焦点を当てることで、現実的な分析が可能になる。後編では、Aさんの行動の背景や具体的な対処法について解説する。

後編へ続く
目次に戻る

(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです)