どうする? 職場の問題行動:攻撃的な言動が見られる社員(後編)

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本連載では、職場で見られる「困った行動」への対策について解説している。今回は前回に引き続き「攻撃的な言動」への対処について説明する。職場での「攻撃的な言動」に対処するには、攻撃的な言動のきっかけとなる場面や出来事を減らし、また、周囲の社員への影響を最小限に抑えるための対策が必要となる。

前回の事例のまとめ

まず前回の事例を振り返ってみよう。中途入社者のAさんは、自分の思いどおりにならないことがあるたびに、大きな声で相手を非難し続ける。Aさんの言い分にも正しいところはあるが、その言動に周囲の人は嫌気が差し「Aさんと一緒に仕事をしたくない」という苦情が上がっている。ある日の会議中、Aさんは参加者と口論となり、突然、会議室を出ていった。

本事例の場面・行動・困りごと

性格とは、特定の行動パターンが積み重なり、習慣化したものだ。問題解決のためには、本人の「性格」ではなく「行動」に着目して考えるとよい。そのためにはまず、「どんな場面(きっかけ)」で、「どんな行動」が見られていて、そのために「どんな結果(困りごと)」が発生しているのかを整理すればよい。例えば、Aさんの場合は、次のようになる。

【場面・きっかけ】 自分の意見や考えが否定されたと感じたとき、自分の思いどおりにならない状況のとき。
【行動】 感情的になって相手を大きな声で批判し、相手があきらめて自分の意見に従うまで、長時間にわたって一方的に主張する。
【結果(困りごと)】 業務での円滑なコミュニケーションが行えない。周囲の社員が安心して仕事に集中できない。仕事のに遅れが生じる。

Aさんの行動の背景

攻撃的な行動の背景には怒りの感情がある。私たちは、何か想定外、予定外の出来事が起きたときや、批判や攻撃にさらされたときに、怒りの感情を抱く。怒りには「ちょっとした違和感・不快感」「イライラ・ムカムカ」「激しい怒り」など、さまざまな程度がある。怒りの感情を抱くことは自然な反応だが、怒りの感情のままに行動してしまうと、さまざまな問題が生じる。

怒りを感じやすい人の中には「他人に弱みを見せると、相手に何をされるか分からない。きっと、ひどいことをされるに違いない」と、他人からの攻撃を極端に警戒している人がいる。人から攻撃されそうだと感じると、自衛手段として、常に先制攻撃に転じるのだ。

また、「物事はこうあるべきだ」「この作業はこう進めるべきだ」という「べき思考」が強すぎる人や、「自分はすごく優秀だ」「自分は特別だ」というプライドが高すぎる人の中にも、他人に対して怒りをぶつけてくる人たちがいる。物事が思いどおりに進まないときのストレスや葛藤を自分の中でうまく処理できず、他者や周囲への怒りとなって行動に表れてしまうのだ。

すなわち、周囲に怒りをぶつけている人は、想定外の出来事に驚いたり慌てたりしてどう対処してよいか分からない人、自らの弱みを見せないようにするために過剰な先制攻撃をせずにはいられない人、もしくは、現実を受け入れられずにパニックに陥っている人たちなのだ。「パニックになって悲鳴を上げている状態」と考えれば理解しやすい。

Aさんの行動の解説

おそらくAさんも、上記のような特性をもっていると考えられる。つまり、自分の意見が通らなかったり、思いどおりにならない場面に遭遇すると、自分の能力や経験を軽んじられたような気がして、怒りの感情が生まれるのだ。そして、そうした現実をうまく受け入れられず感情的になり、目の前の人に怒りの感情をそのままぶつけてしまう。

「自分は海外ビジネスの経験が豊富で、自分の知識や経験をこの会社でも活かせるはずだ」というプライドや、「そうした経験や知識のある自分を、周囲の人は尊重するべきだ」という誤った思い込みも、そうした行動に拍車をかけてしまう。

さらに、怒っているとき、人はつい大きな声を出してしまうが、それが刺激となって、火に油を注ぐように怒りの感情はさらに燃え上がってしまう。一度怒り始めると、なかなか収まらないのはそうした理由からだ。

職場で対応できること

こういう場面で、職場で対応できることは「Aさんがそうした行動をとるきっかけとなる場面を減らす」ことや、「Aさんの行動が、周囲の社員に与える影響を少なくする」ことしかない。Aさんの性格や行動パターンを根本から変えることは不可能でも、「行動のきっかけ」を減らし、「影響の大きさや範囲」を抑えることができれば、職場の問題を小さくすることができる。

また、どう対応していくか迷っている時や、本人または周囲の体調が悪化している時、ハラスメントなどの問題が起きそうな時は、事前に産業保健スタッフや人事労務担当者にも相談しておこう。関係者と情報共有を行い、対応方針をそろえておくことも重要だ。

対策1:Aさんが怒りだしたら周囲の社員を避難させる

最初に必要な対策は、Aさんが怒っている現場から、他の社員を避難させることだ。会議中であれば「ちょっと議論が盛り上がっているので、少し時間を置いてから論点を整理しましょう」などと議論を打ち切り、会議を終了にするか、休憩時間を設けるとよい。また、Aさんと1対1で対面している場面であれば、「申し訳ないけれど、少し状況を整理して考えてみます。この話はまた日を改めて」と述べ、その場を退席するようにする。

このとき、決してAさんを批判するような言い方をしないように注意が必要だ。「こちらの都合で申し訳ないが」というような、反論しにくい言い訳をあらかじめ考えておくとよい。事前に誰かに協力をお願いして「上司が緊急の用事で○○さんを呼んでいる」「○時から別件がある」などの理由で呼び出してもらうのもよい。

対策2:上司から不適切な言動を指摘して、どう行動してほしいかを伝える

上司からAさんに「どんな行動が不適切なのか」、「どういう行動をしてほしいか」を指摘することも必要だ。例えば、「職場で一方的な主張をすると話し合いができず仕事に支障が出る。そうした場面では、自分の意見を繰り返すのではなく、まずは反論する前に、相手の意見をしっかり聞いてほしい」と伝える。「○○するな」と伝えるのではなく、「○○してほしい」と、取るべき行動を具体的に指示することがポイントだ。

こうした指導を効果的に行うためには、普段からの信頼関係が重要となる。信頼する上司だからこそ、耳の痛いことを言われても素直に聞こうと思えるのだ。信頼関係を築くには、普段からAさんの行動をよく観察し「良い行動」や「適切な行動」が見られたときに、きちんと褒めておくようにする。きちんと指導ができる良好な関係を作っておくためには、適切な行動を褒める回数と、不適切な行動を注意する回数は、4対1くらいの比率が良いとされている。

対策3:会議前に上司などを交えてAさんに根回ししておく

人は、何か思いがけないことや想定外のことに遭遇すると、反射的に怒りや不安を覚える。Aさんが会議中に怒り出さないようにする工夫として、事前に、何度かにわけて情報提供しておくとよい。すると「会議でいきなりその話を聞いて驚いた」という状況を避けることができる。

こうした事前の情報提供は、上司など、Aさんにとって影響力のある人物を交えて行うと効果的だ。その際には「経験のあるAさんにも事前に意見を聞きたいと思って」とか、「Aさんはベテランで、みんなも一目置いているので」などと、Aさんの存在を尊重するような前置きがあるとよい。根回しは面倒な作業だが、会議中にAさんの怒りが爆発するよりずっといい。また、Aさんの知識や経験を職場で活用することにもつながる。

ある職場では、何か大きな変化を伴う計画があるときは、Aさんのような特徴を持つ社員に対して、様子を見ながら、会議前に最低2〜3回は事前に情報提供をしているという。1〜2度目までは、本人はそうした変化に対して不機嫌そうな態度を隠そうともせず、少し怒り出すこともあるそうだが、3度目になると、本人もある程度は理解を示すようになる。つまり、前もって何度かその情報に触れているうちに、思いがけないことに対する抵抗感や不安感が薄れ、会議でその話を聞いても驚かなくなる。結果的に、会議中に怒り出さなくなるどころか、その意見に賛同してくれることもあるという。

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(この記事は中災防が発行する雑誌『安全と健康』2021年1月号〜12月号に連載した記事を元に、一部加筆したものです。)