雑誌『安全と健康』(2016年3月号)の「産業医リレーコラム」に記事を書きました。現場で活躍する産業医が「日頃、どんなことを考えているのか」「産業医活動の面白さは何か」などを自由に紹介するコーナーです。今月と来月の2回続けてお届けします。
記事に書けなかったコト
今回は「専属産業医として心がけていること(1)」として、周りの方から教わったことや、日頃の経験を通じて学んだことなどを紹介しました。1ページの短い記事でしたので、紙面には書ききれなかったことがたくさんあります。
人事異動は会社の専権事項である、とは?
人事異動は会社の専権事項であるといわれています。専権事項とは「会社が自由に決めることができる」ということです。効率的な企業経営のためには人事異動が不可欠であることから、このような考え方が浸透しています。
人事担当者は、人事異動に関して社内で難しい意見調整を行うことも多く、こうした原理原則を大切にしている人がたくさんいます。ですから、診断書や意見書に「○○部署への異動が必要」などと断定的に書かれていると「人事異動は会社の専権事項なのに、本人の希望や都合だけで医者が会社に指示してきた!」と抵抗を感じてしまうのです。
調整の余地を残して、会社に判断してもらう
そんな時には「○○のような業務によって症状が再燃するおそれがあるため、再発防止のためには、異動などを含めた環境調整についても検討が必要である」など、あまり断定的にならないように、あいまいに書く、というやり方が役立ちます。
ポイントは「こうした症状があるため、こうした業務には支障がある」と、業務調整に必要な情報についてはなるべく具体的に説明した上で、最終的な判断については「などを含めた」「についても」「検討が必要」など、あいまいな言葉を使って、人事担当者に調整の余地を残した表現にすることです。
適切な措置について、職場と一緒に考えていく
上記のように書けば、配置転換の他にも「○○業務の負担を軽減する」「○○以外の業務に従事させる」など、担当者がいろいろな工夫を考えることができます。そうした工夫がうまく行えれば、従業員の健康面にも配慮した上で、安全に仕事ができます。
適切な調整を行うには、人事担当者や職場の上司と話し合うことも大切です。本人の状況と、職場の状況、社内のルール、そして安全衛生に関する法律とのバランスをとりながら、本人の健康にとって最良と思われる方法を探っていきます。その時も、「産業医は助言をしますが、決めるのは会社ですよ」、「会社の規則や職場の状況にあわせて決めてくださいね」という立場をとるのがコツです。