最近、「健康経営」という言葉をときどき見るようになりました。健康経営とは、従業員の健康を「企業経営のための重要な資源」と考えて、戦略的に健康増進や予防活動を行い、従業員の健康度と組織の生産性を高めようとする取り組みのことです。
この「健康経営」の取り組みは、これまで企業が実施してきた健康管理の取り組みと、どう違うのでしょうか。
従来は「病気」への対策が中心
これまでの企業の健康管理は、主に、病気やケガの「医療費」や、病気やケガで会社を休む「疾病休業」などを課題としてきました。
そのため、医療費や疾病休業の多くを占める「がん」「うつ病」「生活習慣病」などに対する対策が行われてきました。例えば、健康診断や人間ドックなどの取り組み、有所見者への受診勧奨の取り組み、職場復帰支援などの取り組みです。
これまで見えていなかった健康課題
しかし、最近では「プレゼンティーズム」という、これまで見えていなかった健康課題に注目が集まっています。
プレゼンティーズムとは「仕事には出てきているものの、体調が今ひとつすぐれず、いつもの調子が出ない状態」のことです。
プレゼンティーズムの状態では、本来の実力が十分に発揮できず、生産性が低下しています。その影響を計算したところ、医療費や疾病休業に関するコストの3〜4倍に相当するということもわかってきました。
つまり、これまで見えていなかった部分を含めると、健康関連コストの大部分が「プレゼンティーズム」によるものだったのです。
プレゼンティーズムに関連する要因
プレゼンティーズムに関連する要因としては、頭痛、疲れ目、肩こり、腰痛などといった体の症状のほかに、ゆううつ、イライラ、不安、寝不足などといった、メンタルヘルスに関する症状などがあります。
その他にも、胃の不調、職務満足度、かぜ、アレルギー症状や、飲酒、喫煙、睡眠、食事などの生活習慣とも関連しています。
プレゼンティーズムを改善するための対策
このような、プレゼンティーズムに関する要因を改善していく取り組みこそが、これからの健康経営において重要になってきます。
例えば、疲れ目、頭痛、肩こり、腰痛、アレルギーなどによる『つらい症状をやわらげるための対策』、職場のストレスやチームワークを改善し『働きやすい職場環境を作っていくための対策』、また、食事、運動、喫煙、飲酒、睡眠などの『生活習慣を改善するための対策』が、プレゼンティーズムの改善につながると考えられます。
わかりやすく言うと、「毎日、ぐっすり寝て、おいしくご飯を食べて、しっかり体を動かし、元気に仕事に来て、明るい職場で、意欲的に、楽しく仕事をし、仕事もプライベートも充実する」ような対策が、プレゼンティーズムや健康リスクの改善につながるのです。
これは、WHO(世界保健機関)が提唱している「健康とは、ただ単に病気でないとか、病弱でないということではなく、身体的、精神的、社会的にも良好で、調和のとれた、幸福な状態であることを言う」という言葉にも合致します。
健康経営の取り組み方
さて、健康経営を進めていくためには、まず、医療費や疾病休業、生活習慣、(メンタルヘルスを含めた)職場環境、プレゼンティーズムなどのデータを分析しなければなりません。
健康に関わるさまざまなデータを見える化したあと、どの課題に取り組んで行くかを決めます。そして、効果的な対策の実施方法や、効果の測定方法などを考え、実施の計画を立てます。
活動を実施した後は、その効果を測定します。同じ対策を漫然と繰り返すのではなく、きちんと効果につながるように、改善を重ねていくことが重要です。
健康経営の目指すところ
健康経営の目的は、こうしたPDCAサイクルを回しながら、従業員や職場の健康度を高め、本来の生産性を発揮できるようにすることです。それが、健康関連コスト全体を縮小することにもつながります。
そのためには、従来の「病気になったときのための対策」に加えて、プレゼンティーズムを考慮した「みんなが元気に働くための対策」を、もっと積極的に行っていく必要があるのです。
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参考資料:
- 「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化(東京海上日動健康保険組合)
- 「レセプト等のデータ分析に基づいた保健事業の立ち上げ支援事業」における「先進的な保健事業の実証等」(厚生労働省)
- 「健康経営」の枠組みに基づいた 健康課題の可視化及び 全体最適化に関する研究 (東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営ユニット)
- 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営ユニット
- Constitution of WHO(WHO憲章:WHO 世界保健機関)