健康経営の新たなキーワード? 〜Well-being〜

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現在、働く人の健康管理を経営課題として積極的に取り組もうとする「健康経営」や、いきいきとした生産性の高い職場作りをすすめるための「健康いきいき職場作り」などの取り組みが行われています。こうした取り組みを効果的に行うためには、健康管理部門や健康保険組合だけでなく、社内のさまざまな部門の連携や協力が必要だと言われています。

しかし、日本企業において「健康管理」というと、疾病管理の取り組みが中心であり、それ以外の部署との連携はあまり進んでいないようです。さまざまな部署が連携・協力していくためには、社内の共通用語となるような、別の切り口やコンセプトが必要なのかも知れません。

「Well-being」という切り口で考えてみると?

Well-being(ウェルビーイング)という言葉をご存じでしょうか。Well-beingとは、WHO憲章の中で「健康」を定義するときに用いられた言葉です。WHO憲章において、健康とは「ただ単に病気でないとか、病弱でないということではなく、身体的・精神的・社会的に良好で、調和の取れた、幸福な状態であること」(Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.)と定義されています。

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Well-beingという言葉は、病気の有無だけでなく、さまざまな角度から人々の暮らし方、働き方、生き方を表しています。もし、従業員のWell-beingを健康経営のコンセプトに掲げることができれば、健康管理部門だけでなく、さまざまな部署との連携がはかれるかも知れません。

そこで、WHOが述べている健康の3つの要素であるPhysical Well-being、Mental Well-being、Social Well-beingのそれぞれがどういうものか、また、社内の取り組みにどのように活用できるのかを見ていくことにしましょう。

Physical Well-beingとは

Physical Well-beingとは、主に体の健康のことです。Physical Well-beingの大きな要素としては、バランスの取れた栄養や食事、定期的な運動、十分な休息や睡眠などが挙げられます。他にも、日光を浴びる、水分を補給する、肩こりや目の疲れをケアする、アルコールを控える、たばこをやめる、筋力、柔軟性、持久力を高める、という方法もあります。こうした健康的な生活習慣について学び、実践することがPhysical Well-beingにつながります。

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さらに、体調を崩したり、病気になったときに、家庭用の医薬品で適切に手当てをしたり、必要に応じて病院を受診して治療を受けたりすることもPhysical Well-beingに関連しています。慢性的な疾患や障害を抱えていても、それらとうまくつきあいながら、活動的に生活できることもPhysical Well-beingの考え方です。

また、体の健康は、心の健康にも深く関連していることが知られています。例えば、定期的に体を動かすことは、心肺機能を高めたり、生活習慣病を予防してくれるだけでなく、ストレスや不安、抑うつなどを改善してくれます。

職場におけるPhysical Well-beingの対策としては、これまでのような、健康診断を受ける、再検査や精密検査を行う、病気の治療をきちんと続ける、健康的な生活習慣を身につける、適正な体重を維持する、病気休業などの制度や復職支援制度を整えるといった対策の他にも、十分な休息や睡眠をとる、体を動かしやすい環境を作る、病気や障害がある従業員の就労支援を行う、治療と就労の両立支援を行う、妊産婦や高齢者が働きやすい環境を作る、作業中に適切な休息をとる、長時間労働を削減するというような対策も有用です。

Mental Well-beingとは

Mental Well-beingにはさまざまな定義がありますが「個人が自分の可能性を高め、効率的・創造的に働き、他人と良好な関係を築き、地域社会に貢献する状態」だと言われています。つまり、ただ単に、うつ病などのメンタルヘルス疾患の有無に注目するのではなく、もっといきいきした、充実した状態を指しています。

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Mental Well-beingを構成する要素としては、幸せ・希望・楽しさ・満足などのポジティブな感情、何かに強い関心を持って没頭したり集中して取り組んでいること、他者と親密でお互いに満足できる関係を築くこと、自分よりも大きなもの、大切なもの、信じるものに属していること、目的を達成したいという思いや粘り強さ、挑戦意欲、モチベーションなどが挙げられています。

つまり、Mental Well-beingには、現在の状態に満足し、幸せだと感じていることや、将来に希望や明るい見通しを持っていること、家族や友人、同僚、隣人などと良好な関係を築いていること、新しい経験や体験を通じて、知識やスキルを学び、新しい驚きや発見をすること、自分の仕事や人生に目標や意味を感じていること、他者に感謝や笑顔などを与えること、ボランティア活動などを行うことなどが関連していると言えます。

また、Mental Well-beingには、不安や抑うつ、ストレスなどにうまく対処できていることや、仕事や生活上の問題があっても、それらの問題にうまく対処できること、変化があっても適応していけることや、不確実なことがあってもうまく対処できることなども含まれます。さらに、目的や理想の実現にむけて努力して成し遂げようとすることや、自分の素質や能力を伸ばしていこうとすること、つまり自己実現を行うこともMental Well-beingの重要な要素です。

要するに、職場におけるMental Well-beingとは「従業員が、現状にも満足しており、将来にも明るい見通しを持って、自分のスキルや能力を伸ばしながら、自分自身や職場の目標に向かって、同僚や上司と力を合わせ、効率的・創造的に働けること」だと言えるでしょう。

こう考えると、これまで健康管理部門が行ってきたメンタルヘルス対策やストレス対策は、Mental Well-beingの対策のごく一部に過ぎないことがわかります。職場のMental Well-beingの実現のためには、組織のマネジメントや業務のマネジメント、リーダーシップ、人材開発、組織開発、働き方の改革、多様な働き方を支援する制度、経営理念や経営方針の理解浸透など、さまざまな部門の活動が深く関わっているように思います。

Social Well-beingとは

Social Well-beingは、ひとことで説明するのが難しい考え方です。Social Well-beingには、社会への所属や一体感、社会の一員であること、社会に貢献すること、団結・結束すること、社会の中で役に立ち、認められること、社会に受け入れられることなどの要素があります。

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つまり、家族、友人、同僚、隣人などとの関わりの中で、相互に尊重し、対等に認め合いながら、感情的なつながりや、信頼感、共感などが得られる状況のことをSocial Well-beingというようです。

また、安心して一緒にいられる集団に所属していることや、水・食料・家屋・医療などの提供が受けられること、成長・発展・教育などの機会があること、意見の不一致や争いがあっても解決する手段があることなども、Social Well-beingに必要な要素です。逆に、疎外感・不安感・不信感があったり、社会とのつながりを感じられないような状況、安心していられない状況などは、Social Well-beingな状況であるとは言えません。

すなわち、職場のSocial Well-beingには、次のような状況が深く関わっているように思います。

  • 安心して働けること
  • 物理的・化学的に安全な職場環境が提供されていること
  • チームの一員として受け入れられていること
  • チームのメンバーと目標を共有できていること
  • 上司や同僚を信頼できること
  • 協力して働けること
  • チームに貢献できること
  • 多様な働き方が受け入れられていること
  • 介護や育児、病気、ケガ、障害などがあっても安心して働けること
  • 成長の機会があること
  • 必要な教育を受けられること
  • キャリアに対する支援があること
  • 対等であること
  • 差別や偏見をなくすこと
  • 考え方や文化などの多様性を尊重し受け入れられること
  • 意見の不一致を解決する方法があること
  • 組織が大きく変化するような局面においても、従業員が安心して働けるようなサポートがあること

つまり、職場のSocial Well-beingには、職場のマネジメントや組織のマネジメント、企業風土や企業文化の醸成といった側面が大きいようです。たとえば、ハラスメント防止やダイバーシティーの推進、新たな経営計画の実行など、「ひとりひとりが尊重され、チームに受け入れられるような環境作り」や「変化や挑戦をチームとして乗り越えていけるようにするための活動」などが、職場のSocial Well-beingを高めることにつながります。また、物理的・化学的に安全で、温度・湿度・照度なども快適で、それぞれの従業員が仕事に集中できる職場環境を提供することも「従業員が会社から尊重され、受け入れられている」という、従業員のSocial Well-beingを高める活動だと言えます。

Well-beingを社内の共通のコンセプトにする

現在、健康経営や健康いきいき職場作りなど、従業員がいきいきと働ける職場環境作りを目指した活動が行われています。その中で、社内の関連部署との連携の重要性が繰り返し強調されていますが、皮肉なことに、『健康』という二文字があるだけで、「それは健康管理部門と健康保険組合の役目であり、それ以外の部署の仕事とは関係がない」と思われてしまうことがあります。

そこで、今回は、WHOの用いた「Well-being」という切り口から考えてみたところ、Physical Well-being、Mental Well-being、Social Well-beingという「健康的な職場」の3つの側面を具体的に示すことができました。さらに、健康管理部門と健康保険組合だけでなく、人事管理部門、組織管理部門、教育研修部門、総務部門、CSR部門、労働組合など、それぞれの部署の業務と深く関連していることが、理解しやすくなったかと思います。

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健康経営の取り組みを進めていくときに「健康」という言葉をなるべく使わないようにする、というのは、少し逆説的な感じがしますが、健康経営に対する社内の理解を促すためのひとつの方法になるかもしれません。