「喫煙室で喫煙したら肺ガンになった!」と訴えられる時代

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2003年5月に「健康増進法」が施行され、「受動喫煙の防止」が義務づけられてから、全国的に喫煙対策が進みました。公共の場所のほとんどが禁煙(分煙)となり、愛煙家には暮らしにくい時代になったようです。

多くの喫煙室は『ガス室』状態

タバコの煙には「粉じん成分」と「ガス状成分」の2種類の有害物質が含まれています。空気清浄機や吸煙機のフィルターで除去できるのは粉じん成分だけで、ガス状成分は素通り。つまり喫煙室の内部は、高濃度の有害物質が充満した、とても危険な環境になっているのです。

その他、喫煙室のキャパシティーを超える利用や、ドアの隙間から漏れる煙などの問題もあります。オフィスビルの多くでは、喫煙室の煙は天井裏のフィルターを通ったあと、再び各居室の空調に戻されています。環境基準を満たしているとはいえ、決して気持ちのいい話ではありません。

喫煙室の新ガイドライン

喫煙者と非喫煙者、両方の健康を守るために、平成15年に厚生労働省は「新たな職場における喫煙対策のためのガイドライン」を策定し、喫煙室の環境を整備するよう呼びかけました。

(1) 喫煙室内の粉じん濃度とガス濃度を基準値以下に管理する(※1)
(2) 煙を屋外へ排気する装置を設置する
(3) 外側に煙が漏れないよう、内側にむけて0.2m/s以上の気流を作る

※1: 浮遊粉じん濃度 0.15mg/m3以下、一酸化炭素濃度 10ppm以下。
   ビル内の一般の居室と同じ環境基準。

ところが、この基準を満たすためには数百万~数千万円の追加工事費用がかかることがあります。最近では「全館禁煙」として、喫煙室そのものを廃止する企業も増えてきました。例えば日本IBM本社や、当社の○○事業所などがそうです。

喫煙室でタバコを吸って肺ガンになったのは会社の責任?

「コストをかけるのも大変だし、全館禁煙にも抵抗があるし」と、この問題を先送りするとどうなるのでしょう。そのうち「私が肺ガンになったのは、劣悪な環境の喫煙室に閉じこめられたせいだ」と会社に損害賠償を求める訴訟が起こるかもしれません。笑い話のようですが、企業に喫煙対策の義務が法的に課され、環境基準も示されている以上、これは現実に起こり得るリスクなのです。

言うまでもなく、喫煙は多くの病気とも関連しています。ガンの一般的に予防は困難ですが、肺ガンは禁煙によって確実に予防できます。社員の高年齢化にともない、在職者のガンや心臓病なども大きな問題になっています。喫煙問題への取り組みが改めて問われる時期なのかもしれません。

「喫煙室を整備するか、それとも全館禁煙とするか、あるいは放置するか」という問題は、企業の経営判断のひとつです。厚生労働省のガイドラインにも「従業員に議論させると喫煙者と非喫煙者の関係が悪化するので、最後は事業所長が決めなさい」と明記されています。

社員の健康問題は安全衛生委員会で審議を

みなさんは自分たちの職場の喫煙問題について、どうお考えですか。毎月の「安全衛生委員会」では、従業員の安全や健康の問題を審議しています。安全衛生委員会のメンバーまで、ぜひご意見をお寄せください。

参考

「新たな職場における喫煙対策のためのガイドライン」(厚生労働省)

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。