産業医としての業務を始めた頃、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか。本人の話を一通り聞いたけれど、何をどう支援すればいいかわからないまま面談が終わってしまった。次回までに何か答えを用意しなければ、と焦りだけが残る。この記事では、そんな戸惑いの正体と、面談をどう進めるかの考え方をお伝えします。

この記事で紹介している面談の進め方は、面談の種類を問わず共通して使える考え方です。長時間労働面談、ストレスチェック後の面談、健康診断の事後措置の面談、従業員からの自発的な相談、上司や人事担当者の依頼で行う面談、休復職の面談など、面談の種類が変わっても、「事前に準備する」「安心して話せる場を作る」「語ってもらうことから始める」「わからないことは正直に伝える」という基本的なスタンスは同じです。
1. 面談の前に:事前準備
面談は、始まる前からすでに始まっています。事前に得られる情報を把握しておくことで、面談の質と効率が大きく変わるからです。確認しておきたい情報としては、過去の面談歴・相談歴・休業歴、最近の勤怠状況、現在の業務内容、上司が懸念していることなどが挙げられます。
さらに重要なのは、今回の面談で会社側がどのような対応を期待しているかを事前に明確にしておくことです。「体調が悪いようなら休ませたい」のか、「この対応で良いか産業医の意見を聞きたい」のか。会社側の意向を把握しておくことで、面談の目的と方向性が明確になります。
ただし事前情報は、「仮説を立てるための材料」です。先入観として持ち込みすぎると、本人の話を先読みしたり、実際の状況と異なる方向に誘導したりするリスクがあります。事前情報を頭に入れながらも、面談では本人の言葉をフラットに聴く姿勢を保つことが大切です。
2. 面談の枠組みを決める:面談の時間について
面談の前に、十分な時間を確保しておくことも重要です。産業医面談には少なくとも15〜20分は必要です。初回の相談では30〜60分ほどかかります。
時間が短すぎると、自己紹介や守秘義務の説明、本人が自由に語る時間を確保できず、表面的なやり取りで終わってしまいます。信頼関係が築けないまま面談が終わると、本人が「また来たい」と思えなくなることもあります。
一方、面談が長くなりすぎることも適切ではありません。理由は二つあります。ひとつは、前後に他の面談や業務が控えている場合、時間超過がそのまま他への影響につながるからです。もうひとつは、時間を区切ることが支援の構造そのものに関わるからです。
面談の時間を決めて、その枠の中で関わることは、産業医としての役割を明確にし、本人との関係を適切な距離に保つことにつながります。「いつでも好きなだけ話を聞いてもらえる」という依存関係を作らないためにも、面談時間や場所の枠組みを守ることは専門家としての重要なスタンスのひとつです。面談の時間は、事前にきちんと確保しておく。そしてその枠の中で収める。それが、良い面談の条件です。
3. 面談を始める前に:自己紹介と守秘義務の説明
面談の最初にすべきことは、自己紹介と産業医面談の仕組みの説明です。「何を話せばいいのか」「話した内容が会社に伝わるのではないか」という不安を抱えたまま面談に臨んでいる人は少なくありません。最初にこの不安を取り除くことが、その後の面談全体の質を左右します。
具体的には、産業医の役割と面談の目的、守秘義務の範囲を説明します。会社や上司に伝える内容については、面談の最後に本人に説明して同意を得ること、それ以外は伝えないことを説明します。「安心して話していい場だ」という理解が、率直な対話につながります。
特に会社や上司からの依頼で面談を行う場合は、本人が面談の目的をどう理解しているかを確認する一言をはさみます。「今日の面談ですが、上司からはどのような説明を受けていますか?」とたずねてみてください。誤解や情報不足があればその場で説明して軌道修正しておくことで、その後の面談がスムーズに進みます。ここでボタンのかけ違いが生じると、そのずれが面談を通じて大きくなっていきます。
4. 「語ってもらう」ことから始める
面談に慣れていない頃は、「現在の症状は?」「睡眠は取れていますか?」といった質問リストを用意して臨みがちです。しかし、そのような一問一答の問診スタイルでは表面的な回答しか返ってこないことがあり、本人が本当に困っている課題になかなかたどり着けません。面談の出発点として有効なのは、まず本人に自由に語ってもらうことです。
本人が自由に語る間、産業医はその話を傾聴しながら観察します。話し方、表情、どこで言葉が詰まるか、何を話したがり何を避けているか。傾聴と観察を重ねることで、信頼関係の構築と情報収集が同時に進みます。時には家族の話が延々と続いたり、職場への愚痴に逸れたりと、聞きたい内容からずれることもあります。時間の無駄に感じて焦るかもしれませんが、そのズレの中にこそ重要な情報が含まれています。最初の5から10分は軌道修正せず、ひたすら傾聴することが役立ちます。
ただし、傾聴はいつまでも続けるものではありません。5から10分ほどしたら少しずつ質問を始め、確認したい内容を丁寧に聞いていきます。「今のお話を踏まえて、少し仕事への影響を確認してもよいでしょうか」や、「お話の途中ですが、お時間が近づいてきたため…」といったフレーズを使うと、自然に話題を切り替えることができます。
話を切り替えた後は、情報を把握するために具体的に聞くことが重要です。「職場でストレスはありますか?」に「はい、あります」と返ってきたとき、そこで終わってしまっては何も把握できていません。「どんな場面でストレスを感じますか?」「それはいつ頃から続いていますか?」と掘り下げることで、初めて困りごとの輪郭が見えてきます。「はい・いいえ」で答えられる質問は話のきっかけにはなっても、それだけでは情報収集になりません。
このように面談の時間配分をコントロールすることも、産業医の大切な役割のひとつです。「時間をオーバーするまで話を聞いて、スッキリして帰ってもらえた」ことを「良し」とする専門職もいますが、それは必ずしも面談の成功を意味しません。まずは時間通りにおさめ、面談の構造を守りながら必要な情報を把握し、次のステップにつなげてこそ、面談としての役割を果たしたと言えます。
5. プライベートな話題への切り込み方
職場の困りごとは、家庭の状況や過去の経験と切り離せないことが少なくありません。プライベートの問題、家族との関係、過去の経験といったテーマに触れることをためらって、必要な情報を聞けないまま面談が終わってしまうこともありますが、必要だと思ったら聞くというスタンスが基本です。
問題は「どう聞くか」です。「少し話が変わるのですが、体調に関連することがあるので、○○についてもおうかがいしたいのですが」、「少しプライベートなお話になるので、差し支えのない範囲でお話しいただきたいのですが」という前置きを一言はさむだけで、質問のしやすさが大きく変わります。この小さな一言が、面談の流れを止めずに、必要な情報へと導いてくれます。
6. 「話したくない」という情報の扱い方
面談中、質問しても短い返答しか返ってこない、なかなか話してくれないという場面は必ずあります。その際、「うまく聞き出せなかった」と焦る必要はありません。話したくない、という状態そのものが貴重な情報だからです。
次の一手は、なぜ話したくないのか、その背景を探ることです。主なパターンとしては、自分でもうまく言語化できていない場合、不利になることへの警戒や不安、産業医が会社側だという不信感、過去に話して裏切られた経験、そもそも面談自体への抵抗感などが考えられます。
また、本人の特性によって「話し方がわからない」状態に陥っている場合もあります。発達特性やパーソナリティの偏りによって、自分の状態や感情をうまく認識・言語化できていない場合や、そのような話題に直面したり開示したりすること自体に強い不安や抵抗を感じている場合です。こうした背景がある場合、「話したくない」というより「うまく話せない」状態に近いことがあり、聞き方や関わり方を工夫する必要があります。
それぞれの背景によって対応は変わります。例えば守秘義務への不安が背景にある場合は、前述した内容を改めて丁寧に伝えることが有効です。まず「あまり話さない背景は何だろう」という視点で場面を観察することが、次の一手につながります。
7. 解決策が出せないまま終わっていい
面談を「何らかの答えを出して終わる場」と思い込んでいる新人産業医は少なくありません。しかし、解決策を提示できないまま終わることへの焦りが、根拠の薄い助言や時期尚早な判断につながることもあります。
面談には情報収集のフェーズがあります。まだ状況が把握できていない段階では、最終的な結論を出す必要はありません。ただし、その間も本人の健康や職場の安全を守るための暫定的な対応を示すことは必要です。無理をせず今の状態で仕事を続けてもらう、残業制限や業務負荷の軽減を職場に依頼する、医療機関の受診を勧めて主治医の見解を待つ、次回の面談でフォローアップするといった対応です。最終的な方針が決まっていなくても、「今この時点でできること」を示すことで、本人も職場も次のステップまでの見通しを持てます。
その上で、例えばこんな言葉で面談を締めくくることができます。
- 「今日は色々とお話を伺えてよかったです。次回は○○について、もう少しお伺いしたいと思います」
- 「今後の対応を考えるために、この後、職場の方とも相談したいと思います」
- 「職場や人事とも相談して対応を検討してもらう必要があるので、結論が出るまで少しお時間をいただくことになります」
これは、現時点でできること、できないこと、時間がかかることなどを正直に伝える、誠実な対応です。根拠のない安心感を与えるより、こうした言葉の方が長期的な信頼関係につながります。
また、面談の最後には、会社や上司に伝える内容について本人に説明し、同意を得ます。それ以外は伝えないという約束を守ることが、次回以降の面談での信頼の土台になります。
8. 面談後にすること:記録と情報収集
面談が終わったら、できるだけ早く面談記録を書きます。記録を書く作業は、面談中に得た情報を整理し、自分のアセスメントを確認する機会にもなります。面談記録の書き方については、SOAP形式を用いた面談記録の作成法を解説した別記事を参照してください。(リンク)
あわせて、次回の面談までに、面談でわからなかったこと、整理できなかったことを調べます。病気の診断や治療方法、関連するガイドライン、就業規則や社内制度など、必要な情報を確認した上で、次回の面談で質問する内容を整理しておきます。
2回目の面談では、1回目で不足していた情報を補いながらアセスメントを深めます。2回の面談を経て、それでもなお状況が整理できない場合には、アセスメントの立て方自体を見直すサインかもしれません。
ただ、対応が難しい事例では、気づかないうちに自分自身も状況に巻き込まれてしまっていることがあります。客観的な視点を保っているつもりでも、いつの間にか本人の訴えに引っ張られたり、職場側の圧力に流されたりしていることがあるからです。「何か違和感が残っている」と感じたときは、それ自体が立ち止まるサインです。
「なんとなく面談はできている」と思っていても、何か違和感が残っている場合は、一人で抱え込まず、他の産業医や専門職に相談することをお勧めします。経験を積んだ産業医でも、難しいケースでは同僚に相談しながら進めます。一人で全部解決しようとしないことも、産業医としての大切なスタンスのひとつです。
おわりに
面談に必要なのは、特別な話術や介入のテクニックではなく、準備をして、安心して話せる場を作り、まず語ってもらう。傾聴しながら観察し、必要なことを聞き、わからないことは正直に伝える、という心構えです。
「解決策を出さなくていいのか」「わからないで終わっていいのか」という声もあるかもしれません。もちろん、最終的には方針を決定し、職場と本人を動かしていくことが産業医の仕事です。ただ、その前提として状況を正確に把握することが必要で、それが不十分なまま出した解決策は、的外れになることの方が多いのです。
適切なアセスメントのためにも、まず状況を正確に把握すること。そのための面談の進め方を、この記事ではお伝えしました。最初からうまく傾聴や観察ができなくても焦る必要はありません。まずは時間を守り、解決を急がずに話を聴く姿勢を持てたなら、第一歩としては十分です。また、すべてを一人で抱え込む必要はありません。人事担当者、衛生管理者、産業看護職、産業心理職など、周囲の担当者や専門職とそれぞれの強みを活かして連携することも、産業医の大切な役割です。日々の実務の参考にしていただければと思います。




