メンタル不調者の職場復帰において、「出社の開始」は、中間地点のひとつにすぎません。なぜなら、体力や集中力が十分に回復し、以前のように仕事ができるようになるまでには、さらに半年程度の時間がかかるからです。
職場復帰を本当の意味で成功させるためには「復職後の適切なフォローアップ」が不可欠です。本人・上司・周囲の同僚・人事担当者・産業保健スタッフの連携と協力が重要になります。
→ 本人へのアドバイス
→ 上司へのアドバイス
→ 周囲の人へのアドバイス
→ 人事担当者へのアドバイス
→ 産業保健スタッフへのアドバイス
本人へのアドバイス
職場復帰を成功させるためには、復職プランを十分に理解し、先が長いことをあまり焦らず、日々の体調のコントロールに気をつけることが大切です。
体力が落ちているため、最初の1ヶ月は出社するだけで精一杯という場合が多いようです。十分に睡眠をとって、疲労を回復するようにしましょう。
また、仕事が少ないことを焦らないようにしましょう。体調や仕事のことは、こまめに上司に報告・相談しましょう。上司は、復職の成功のキーパーソンです。
内服薬を自己判断で減らしたりせず、通院は必ず続けましょう。月に1度は産業医や保健師など、産業保健スタッフと面談し、体調や職場の状況について話をしましょう。
上司へのアドバイス
職場復帰を成功させるためには、数ヶ月間にわたる業務負荷の軽減と、職場での配慮が必要です。復職プランの内容を十分に理解し、適切に業務の調整を行いましょう。
本人の体調には波があります。仕事で困る場面も多いようです。週に1度は20分ほどの時間をとり、マンツーマン面談を行って、体調・仕事・職場のことなど、しっかり話を聴きましょう。上司といろいろなことを相談できる環境が、体調の回復や職場への適応を促してくれます。
本人に対して、過度に気を使わないよう注意しましょう。腫れ物にさわるように接するのではなく、「長く病気をしたため、体力がまだ十分に回復していない社員」として、ふつうの気持ち・ふつうの言葉で接するようにします。
復職プランを実行するためには、周囲のメンバーにも説明が必要です。特に「仕事の割り振りの内容と期間」については明確に伝えておきます。ただし、プライバシーに配慮し「病気で休んでいたため疲れやすい。○月まで定時勤務である。この業務を○月まで引き受けて欲しい」など、必要な情報を限定して伝えるようにしましょう。
加えて、周囲のメンバーの業務負担が増えている場合も多いため、周囲のメンバーの体調にも留意が必要です。
本人への接し方、仕事の与え方など、対応に困ったら人事担当者や産業保健スタッフに相談します。上司は復職のキーパーソンですが、決して問題をひとりで抱え込まないようにし、それぞれの専門家の助言を得てください。
周囲の人へのアドバイス
過度に気を使わないことが大切です。以前、その人に接していたのと同じように接してください。ただし「病み上がりで、まだ体力が落ちている」同僚に対して、思いやりを少しだけ持つようにしましょう。
メンタルヘルス不調者の職場復帰には「一定期間の業務の軽減」が必要であることを十分に理解し、そのような態度を示してください。例えば、定時で帰る相手に対して、ねぎらいの声かけや挨拶をする、などの配慮が重要です。
自分の業務に影響しそうな部分に関しては、上司にきちんと確認しておきましょう。ただし、本人の病名や詳しい病状などプライバシーに関わることは詮索しないようにします。
本人の具合が悪そうなときは、上司に相談するように伝えたり、あなたから上司に報告します。本人への接し方がわからないときは、上司や人事担当者、産業保健スタッフに聞きましょう。
また、あなた自身の仕事量が多くて大変なときや、自分の体調がおかしいと思ったときには、早めに上司や産業保健スタッフに相談しましょう。
人事担当者へのアドバイス
復職のキーパーソンは職場の管理監督者です。復職支援を成功させるには、復職プランの内容を管理監督者にしっかり理解してもらうことが重要です。
復職後は、上司によるケアと、産業保健スタッフによるフォローアップが重要になります。復職後の2週間〜1ヶ月程度は、本人に以下のような「出社記録表」に毎日記入させ、退社時に上司の検印をもらうようにするとよいでしょう(PDFファイル、Wordファイル)。
また、週に1度は本人と上司のマンツーマン面談を実施し、上記の用紙に所見を記録してもらいます。この用紙は、月に1度の産業保健スタッフとの面談の時に、本人に持参させましょう。
復職後も、産業医・産業保健スタッフ・上司・人事担当者の連絡を密にし、困ったことがあればすぐに関係者で相談できる体制を整えておきましょう。
産業保健スタッフへのアドバイス
復職後の産業保健スタッフの役割は、本人の体調や職場の状況を把握し、復職プランの調整などについて関係者と調整することです。本人とは毎月定期的に面談し、必要に応じて上司からも話を聞きましょう。人事担当者にも定期的に状況を報告しましょう。
時には、周囲のメンバーからの相談を受けることもあります。その際には、本人のプライバシー情報に配慮し、すでに開示・共有されている情報に基づいて説明するよう気をつけましょう。また、相談者のプライバシーにも配慮し、相談内容について、相談者の承諾なく開示しないことも必要です。
メンタルヘルス不調者の今後の回復については、専門の精神科医であっても予測が難しく、確実なことは言えません。しかし、事業所の産業保健スタッフは、現在入手できる情報を元に、一定の見通しを示すことが求められます。内部あるいは外部のスーパーバイザーに相談できる体制があると安心です。
また、本人との面談の中では「以前、病気になったときの状況や病気に関連していた要因」や「再発予防のための工夫」について繰り返し話を聴き、職場への適応やストレス対策に関する気づきを促すことも重要です。