職域の健康相談のポイント ~安全配慮義務・複数のクライアントへの対応~

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労働者の健康相談、職場復帰支援、治療と就労の両立支援を行う際には、職域ならではの以下の対応のポイントを理解しておく必要があります。

ポイント1:労働契約法や労働安全衛生法にのっとった対応が必要である

職域での健康相談の目的は2つあります。ひとつは、従業員の問題解決を支援すること、そしてもうひとつは、会社が安全配慮義務を適切に果たせるようサポートすることです。どちらか一方でも欠けてしまうと、職域での対応はスムーズに進みません。

<安全配慮義務とは>

安全配慮義務とは何でしょうか。労働契約法第5条には、安全配慮義務について「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。

安全配慮義務の具体的な措置の内容については、労働安全衛生法やその関連法令に定義されています。例えば健康診断の実施、リスクアセスメントの実施、安全衛生教育の実施、社内の安全管理体制の整備など、その内容は多岐にわたります。産業医の選任や、職場復帰支援、治療と就労の両立支援なども、こうした法対応のひとつです。

<裁判における安全配慮義務>

また、裁判事例において、企業が安全配慮義務を適切に果たしていたかどうかについては、「予見可能性(従業員の心身の健康を害することを事前に会社が予想できたかどうか)」、「結果回避性(それを会社が事前に回避する手段があったかどうか)」の2つのポイントで評価されます。

つまり、会社が、従業員の健康を害することを事前に予想でき、それを回避する手段があったにも関わらず、適切な措置を行わなかった場合に、安全配慮義務違反とされます。

<安全配慮義務を果たすための手続き>

従業員の健康上の問題に対して会社が安全配慮義務を適切に果たすために、労働安全衛生法に次のような手続きが定められています。

健康診断の結果や、従業員からの自発的な相談、あるいは、上司からの相談などによって、従業員の健康状態に問題があることを会社が把握した際には、健康状態が悪化しないように「主治医や産業医などから就業上の措置に関する意見を入手する」、「さらに、必要に応じて就業上の措置を行う」ことが定められています。

産業医が選任されていない事業所では、主治医からの診断書などを入手して対応します。産業医が選任されている事業所では、産業医との面談などを行い、就業上の措置に関する主治医と産業医の両方の意見を入手して対応します。

<就業上の措置の決定権は会社にある>

会社が安全配慮義務を適切に果たすためには、従業員の健康問題が起きないように、あるいは、悪化しないような、適切な「就業上の措置」を行う必要があります。

医療機関においては、治療方針を決めるのは主治医の役割ですが、職域においては医師はアドバイザーにすぎず、医師の意見を入手した後で、関係者と協議し、就業上の措置の要否を判断したり、措置の内容を決定したりするのは「会社」の役割です。

しかし「医師の役割は専門的な意見を出すところまで。後は会社が決めてください」と、会社の担当者を突き放したり、「なぜ専門家の意見を聞きいれないのか」「なぜ適切な対応をしないのか」などと担当者を責めるような態度をとったりすると、これもまた、専門家としての役割がうまく果たせなくなるため、注意が必要です。

ポイント2:従業員本人だけはなく、職場の上司や人事担当者などもクライアントである

職域での相談対応においては、相談に来た従業員の他にも、職場の上司や人事担当者など、複数のクライアントがいるという特徴があります。

会社が適切に安全配慮義務を果たせるようにするには、単に「専門家の意見」を伝えるだけではなく、担当者が適切な判断ができるように、担当者の相談に乗ったり、関係者から話を聞いたり、必要な説明を行ったり、質問に答えたり、意見を調整したりと、会社の意思決定をサポートすることが大切です。

<従業員と会社のニーズが一致しないとき>

また、就業上の措置については、従業員本人のニーズと、職場(会社)のニーズが一致しないことも珍しくありません。例えば、病気で会社を休んでいる従業員が「多少の無理をしてでも早く復職したい」とか、「短時間の勤務であってもいいから部分的に復職したい」などと希望することがあります。

一方で、会社側は「十分に回復してから復職してほしい」とか、「短時間からの部分的な復職は規則上できないので、フルタイム勤務ができるようになってから復職してほしい」と主張することがあります。

このような場面で、産業医や産業保健スタッフは、従業員のほかに、人事担当者、管理監督者という複数のクライアントがいることを意識して、「従業員の健康問題のサポートを行い」かつ「会社が安全配慮義務を果たせるように」それぞれのニーズに耳を傾け、医学的+労務管理的な見地からアドバイスをしていくことが求められます。

まとめ:職域の相談対応における産業保健スタッフの役割

従業員の健康管理に関わる産業医、産業看護職、産業心理職、衛生管理者などの産業保健スタッフには、この仕組みがスムーズに回るよう、また、会社が適切な就業上の措置を行えるよう、面談などを手配したり、必要な情報を集めたり、関係者との相談の場面を設けたり、関係者との情報共有や意見調整をサポートしたりする役目があります。