大人のための研修デザイン 第4回「すっきり腹落ちさせる “経験学習モデル” 」

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私たちはみんな、子供のときに学校教育を受けています。大人数の生徒が教室に集まり、みんな前を向いて席につき、黒板の前には先生がいて、教科書を見ながら一斉に授業を受けるという、おなじみの風景です。

こうした経験から、企業で研修を行うときにも、つい、同じような一斉講義形式のスタイルを思い浮かべてしまいます。しかし、効果的な研修を行うためには、大人と子供とで、学習の特徴が異なっていることに気をつけなければいけません。

大人には大人に適した学習スタイルがある

大人は、経験に価値を置き、経験や体験から学ぼうとするという特徴があります。そのため、経験や体験を通じた学習方法が適しています。

例えば、仕事の場面では、業務に必要な知識や技術をOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という、現場での実践を通じて習得するやり方が行われています。あるいは、事例をもとにしたケース・スタディーやシミュレーションなどを行い、擬似的な体験を通じて学ぶという方法もあります。

経験から学ぶ「経験学習」とは?

このように、経験や体験から学習する方法を経験学習と言います。経験学習とは、次のように ①経験 → ②振り返り → ③気づき → ④新しい試み、というプロセスで進んでいきます。

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①まず、学習者は、研修中、様々な状況を経験します。研修の中だけでなく、実際の現場の経験なども、これに含まれます。

②その経験を振り返り、何が起こったのか、どうしてそれが起こったのか、ということを整理します。さらに、そこからどんなことがわかったか、それを、どのように応用するかということを考えます。

③振り返りの作業を通じて、今後、現場で役立ちそうなことは何か、そのような問題に遭遇したらどうすれば良いか、などについて、新たな気づきを得ます。新たに学んだことや経験したことから、自分なりの理論をかたちづくっていくわけです。

④その気づきを現場で生かすためと計画を立てます。さらに、新たな試みを経験し、その経験を振り返り、さらなる気づきを得て、また新たな計画を立てます。

経験学習では、経験、振り返り、気づき、新しい試み、を繰り返しながら学習が進んでいきます。特に重要なのは、振り返りと気づきのプロセスです。経験を振り返って、何が成功のもとだったか、何が失敗のもとになったかを考え、それを自分なりの理論を整理します。

研修では、グループ討議などを行って他の人の体験や意見を参考にしたり、問題を整理するための新たな理論やモデルなどを学んだりしながら、経験学習のプロセスをうまく回せるようにしていきます。

実際の事例と架空の事例、どちらが学習に適しているか

経験学習を用いた学習方法のひとつがケーススタディー(事例検討)です。事例検討には、参加者が実際に経験した事例を題材にする場合と、架空の事例を用いる場合とがあります。

実際に経験した事例を用いる場合には、学習がうまくいくと、現場の問題解決にすぐ応用できるというメリットがあります。しかし、大勢の前で自分の経験を話したり、自らの経験を第三者的な視点で冷静に振り返ったりすることが難しいという問題もあります。

架空の事例を用いる方法は、研修に取り入れやすいため、多くの研修で用いられています。現場で参加者が抱えている問題に近い事例を用いると、より学習効果が高まります。しかし、あくまでも架空の事例であるため、あたりさわりのない意見や、優等生的な回答にとどまってしまい、そこで得られた学びを現場の問題に応用しようとしても、なかなかうまくいかない、という問題もあります。

研修の目的や職場のニーズにあった事例を選ぶ

事例検討を行うときは、研修の目的に応じて、適切な事例を選ばなければなりません。一般的に、事例検討では登場人物が失敗するストーリーが用いられます。登場人物がいくつかの場面でミスをおかし、業務をうまく遂行できなくなってしまうという状況を、事例検討を通じて疑似体験し、なぜ失敗したのか、自分だったらどうするかを学んでいきます。

学習の効果を高めるためには、学習者を引き込むストーリー性があり、登場人物の体験する苦境やドラマがリアルに描写されている事例を用います。また、営業の現場と工場の生産現場では状況が全く異なるため、同じテーマの研修を行う際にも、参加者の職場の状況に近い事例を使うようにします。

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事例を用いた学習の結果を、現場で生かすために

研修中は議論が盛り上がるのに、研修が終わって職場に戻ってみると、何も変わっていない、というのは、よくある光景のひとつです。頭で理解しているからといって、職場に戻った後で、適切な行動ができるとは限らないのです。

例えば、食べ過ぎや飲み過ぎは体に悪いと頭ではわかっていても、実際には、疲れているから、甘い物が欲しいからなどという理由で、つい、食べ過ぎたり飲み過ぎたりしてしまいます。実際の場面では、感情に動かされたり、職場の複雑な問題に影響されたりして、理屈どおりには行動できないのです。

研修で学んだことを現場で生かせないというのは、多くの人が経験する切実な問題であり、また、解決法もひとつではありません。まさに、事例検討にぴったりの題材だといえます。そこで「研修で学んでいるときには実行できるのに、現場に戻ると実行できない」という事例を用いてケース・スタディーを行うと、解決策が見つかるかもしれません。


シリーズ 「大人のための研修デザイン」

参考文献