アサーティブに意見を伝えるDESC法

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アサーションとは、お互いを大切にしながら、率直で、誠実で、素直なコミュニケーションを交わすことです。アサーティブなコミュニケーションを身につけるために、これまでに次の4つのことを説明してきました。

(1) コミュニケーションの3つのやり方を理解する
(2) 非合理的な思い込みを理解する
(3) 自分の感情を把握する
(4) 客観的な状況と主観的な自分の気持ちを区別する

今回は、相手に何かをお願いする時、言いにくいことを伝える時に役立つDESC法を、事例を交えて紹介します。

アサーティブに意見を伝えるDESC法

DESC法とは、相手に伝えたいことを「客観的な状況」「主観的な気持ち」「提案」「代案」の4つに整理するやり方です。アサーティブに気持ちや意見を伝えるときに役立ちます。

Desc

ケーススタディ: アサーティブなコミュニケーション

事例1: 新車をすすめるおばさんに自分の気持ちを伝える

A San-1

会社員のAさんは、人当たりのいい、30代の女性です。Aさんには、小さい頃からお世話になっている親戚のおばさんがいます。おばさんの家は車のディーラーをしており、初めて車を買った時からたびたび面倒を見てもらいました。最近、車が古くなってきたため、おばさんは新車への買い換えを勧めてきます。Aさんにまだその気はないのですが、はっきり断れないでいます。

なぜアサーティブになれないのか

Aさんは「せっかく勧めてくれているのに、断るとおばさんの気持ちを傷つけるかもしれない」と悩んでいます。これは「年長者の言うことは聞くべきだ」「他人の気持ちを傷つけることは致命的なことだ」という非合理的な思い込みと関係しています。Aさんは、おばさんを傷つけずにすむ方法のことばかり考えていて、自分の気持ちをあまり意識していません。

自分の気持ちを整理してみる

なぜ車を買い換える気がないのか、Aさんは自分の気持ちを整理してみました。

・今の車を気に入っている
・もうしばらく乗っていたいと思っている
・買い換えたくないのはお金が理由ではない
・おばさんの期待に添えなくて、つらい
・次に車を買う時はまたおばさんに相談したい
・おばさんが自分のことを気にかけてくれてうれしい

自分の気持ちをアサーティブに表現してみる

「ねえねえ、Aちゃん。こないだ言ってたカタログ、持ってきたわよ」
「あのね、おばさん。実は、ちょっと、聞いてくれる?」(姿勢を正しておばさんに向き合う)
「なあに? どうしたの?」

「おばさんが、私のことを気にかけて下さるのはとてもうれしいの。車のことでは一番頼りになるし、これまでいろいろお世話になったしね。でも、こんなふうに、いつも新車を勧められると、おばさんの期待に応えられないのがつらいし、どうしたらいいか、困ってたんです」

「あら、そうだったの」(ちょっとびっくりした顔)

「そうなんです。おばさんにはこれからも色々とお願いしたいんですけど、今の車は気に入ってて、乗りつぶすまで乗っていたいんです」
「そうなの。困らせちゃってたのね。わかったわ。今の車、好きなだけ乗ってね。でも、古くなってるから、調子がおかしかったらすぐに相談してね」

「うん。ありがとう。これからもよろしくお願いしますね」

事例2: 主治医に薬を減らしたいと伝える

B San-1

Bさんは40代の男性です。近所の内科で高血圧と高脂血症の薬をもらっています。しかし、お金もかかるし面倒なので、なるべく薬を減らしたいと思っています。自分でも努力しようと、ここ半年で2キロほど減量してみました。薬のことで主治医に相談してみたいのですが、診察時間はとても短く、なかなか言い出せません。

なぜアサーティブになれないのか

Bさんは「患者が口を出すと医師の機嫌を損ねてしまうのではないか」「医師の指示に患者は黙って従うべきだ」「忙しい診察の邪魔をするべきではない」と考えています。その一方で「自分の治療のことは自分で決めたい」「主治医はきちんと説明するべきだ」「言い出せない自分が情けない」とも感じていて、診察のたびにとても複雑な気持ちになっていました。

DESC法で状況を整理してみる

短い時間で主治医に話をするため、BさんはDESC法を使って状況を整理し、いくつかのセリフを考えておくことにしました。

D (客観的な状況):高血圧と高脂血症の薬を飲んでいる。数値は安定している。ダイエットをして、半年で2キロやせた。
E (自分の気持ち):なるべく薬は減らしたい。ただし、治療は続けていきたい。自分の治療のことは自分で決めたい。主治医に相談したい。
S (提案):主治医の意見を聞かせてもらう。
C (代案):薬のことは主治医の指示に従おう。話を聞いてくれなければ看護師さんに相談して、また来月に主治医に話してみよう。それでも話を聞いてくれなければ病院を変えよう。

自分の考えをアサーティブに提案してみる

「じゃあ、Bさん。いつものお薬を出しておきますね」
「あの、先生、お聞きしたいことがあるんですが。」
「何でしょう」(カルテから顔を上げてBさんのほうに向き合う)

「実は、ダイエットを続けていて、ここ半年で2キロほどやせたんです」
「なるほど。2キロやせたんですね。それはすばらしいですね」

「それで、お薬のことなんです。治療はもちろん続けていきたいんですけど、薬を減らせないかなあと思ってるんです。先生のご意見を聞かせて下さい」
「そうですね。今は数値も落ち着いてて、治療がうまくいっています。だから、薬もこのまま続けたいですね。ただ、体重が少し減っているのであれば、あと2~3キロ減ったところで、試しに薬を減らしてもいいでしょうね」

「じゃあ、がんばって、あと2~3キロ減らします」
「おっと、あんまり無理をしないで下さいね。2~3キロといっても、それで終わりじゃないですよ。その後もずっとダイエットを続けられて、今と同じペースで体重が落ちていく、そんな感じをキープして下さい」
「わかりました。あと半年くらいでがんばってみます。その時はまた相談します。ありがとうございました」
「はい、お大事に」

その他のケース

次のような状況で、アサーティブにふるまうにはどうしたらよいでしょうか。アサーティブになれないのは、どんな思い込みに影響されているからでしょうか。自分の状況、自分の気持ち、提案や代案をうまく伝えるためには、どうすればよいでしょうか。

(1) 上司から「この報告書を明日までに頼む」と言われた。自分も明日まで忙しく、とても手がまわらないのだが、上司の命令を断ってはいけないと思い、自分の状況を説明できないまま、引き受けてしまった。

(2) 自分より年上の部下がいる。先週頼んでおいた報告書が出来ていない。書類が出来ていないと非常に困るし、他のことも指示通りにして欲しいのだが、関係が気まずくなるのではないかと遠慮してしまい、なかなか言えない。

「誠実」「率直」「対等」、そして「自己責任」

いかがでしたか。アサーティブなコミュニケーションとはどういうものか、イメージできたでしょうか。アサーションのやり方は一通りではありません。その時の状況によっていろいろなやり方があります。時には「攻撃的なやり方」や「非主張的なやり方」を選ぶことだってあり得るのです。

アサーションの4つの柱は「誠実」「率直」「対等」、そして「自己責任」です。誠実、率直、対等というのは、「相手に向き合おうとする自分の気持ち」のことです。自己責任というのは、自分が言ったこと(あるいは言わなかったこと)に対して、どんな結果になろうとも自分で責任を持つということです。

アサーションについてもっとよく知りたいと思う方は、ぜひ、以下の書籍を手にとってみて下さい。

参考文献:

『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』 (平木 典子、日本・精神技術研究所)
『「NO」を上手に伝える技術』(森田汐生、あさ出版)