アサーション (3) ~問題解決のためのアサーション~

      アサーション (3) ~問題解決のためのアサーション~ はコメントを受け付けていません

これまで2回にわたってアサーションについて説明してきました。アサーションとは、お互いを大切にしながら、それでも率直に、素直にコミュニケーションを交わすことです。アサーションを身につけるには、私たちが持っている非合理的な思いこみを正し、自分の感情をきちんと把握することが大事です。

アサーション (1) ~自分の意見をさわやかに表現する~
アサーション (2) ~さわやかに自己表現できない理由~

■ 問題解決のためのアサーション

今回は、相手に何かをお願いするとき、言いにくいことがあるとき、複雑な話をきちんと整理する必要があるときに役立つ言い方を紹介します。このような場面では「DESC法」を使ってセリフを準備します。DESC法とは、次のようにして言うべきことをあらかじめ整理しておくやり方です。

Describe (状況を描写する)
状況や相手の行動を描写する。具体的で客観的に表現できることを述べる。相手の意図や自分の気持ちなどは含めない。
Explain (自分の気持ちを説明する)
(D)に対する自分の主観的な気持ちを述べる。あまり感情的にならず、正確に、建設的に表現する。
Specify (提案をする)
相手に望む行動や解決案や妥協案などを提案する。具体的で現実的な小さな行動を明確に述べる。
Choose (代案を述べる・選択する)
相手の反応が肯定的な場合と否定的な場合の両方をあらかじめ考えておき、それに対してどういう行動をするか選択枝を示す。

■ DESC法を利用したセリフの例

DESC法を使って用意した、ある状況におけるセリフの例を見てみましょう。

● 会議中のタバコ

会議の場で何人かがたばこを吸っています(こんな場面は少なくなりましたが)。たばこを吸わないあなたは煙が気になってきました。

「会議が始まって1時間たちますね>(D)。この部屋もたばこの煙で一杯になってきました>(D)。たばこを吸わないと集中できない人もいると思いますが>(D)、私は煙で頭がぼーっとしてきました>(E)。ここらで休憩にして空気を入れ替えませんか>(S)。もし休憩が無理なら、しばらくたばこをやめて窓を開けませんか>(C)。」

(D:状況描写、E:気持ちを説明、S:提案、C:代案・選択)

● いつもと様子が違う部下

最近、遅刻が増えた部下がいます。仕事中もぼんやりしていることが多く、ミスも目立ちます。あなたは上司として、部下に声をかけようとしています。(参考: 『いつもと違う部下』への対応をどうするか?)

「最近、調子がよくないように思うが>(E)、大丈夫かね>(E)。先週は3回も遅刻していたし>(D)、仕事中も手が止まっていることが多いよ>(D)。何か問題を抱えているのではないかと私は心配だ>(E)。よければ少し話を聴かせてくれないか>(S)。もし私に話しにくければ、産業医の先生に話を聴いてもらってはどうだい>(C)。」

(D:状況描写、E:気持ちを説明、S:提案、C:代案・選択)

■ DESC法のポイント

DESC法を使って考えたセリフはかなり長いものになります。しかし、これを一気に全部言う必要はありませんし、順序もこの通りでなくてかまいません。相手との関係や状況によってはいきなり提案の部分(S)を話しても通じるでしょう。話し合いの土台を作るための事実描写(D)が非常に重要になる場合もあります。

大切なことは、事実の描写(D)と自分の主観(E)を区別することです。(D)では誰もが同意できるような事実を客観的かつ具体的に述べ、(E)では自分の感じていることを素直に表現します。

提案(S)が拒否されることも予想しておき、そのときは別の提案(C)をします。他人に意見を伝えるのが苦手な人は「断られたらどうしよう」といつも考えています。提案に対する相手の反応を予測して、その次の対応を決めておくと、気持ちにゆとりが生まれます。

アサーションはいわばDESC法が習慣化されたものです。表現につまずいたり、困ったときには、少し時間をかけてDESC法で考えてみましょう。そのうちに無意識にアサーションができるようになります。

■ 社内のコミュニケーションとアサーション

「仕事術」「マネジメント術」「ストレス対策」など、書店にはさまざまな実用書が積まれています。これらに共通しているのは、いずれもコミュニケーションの問題を扱っているということです。同僚や上司、部下、顧客とのコミュニケーションがうまくいけば、職場のたいていの問題は解決するでしょう。

会社組織そのものにとっても、コミュニケーションは非常に重要です。社内の雰囲気を「風通しがよい」「暖かい」「活気がある」などと表現することがあります。それはすなわち社内のコミュニケーションがうまく機能している状態のことを指しています。

アサーションとはコミュニケーションを円滑に進めるための考え方です。職場だけではなく、家庭や学校、地域社会でも応用ができます。これまで以下の書籍を参考にして、アサーションの基本的なところを紹介してきました。ここで扱った内容はごく一部です。興味を持たれた方はぜひ本書をお読みください。

参考文献:
『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』
(平木 典子、日本・精神技術研究所)

■ 最後に

アサーションの考え方が皆さんの生活を少しでも快適なものにしてくれることを願いつつ、先ほどの本の中からいくつかの言葉を引用して終わりにかえたいと思います。

「自己主張しないことを選択するのも、アサーションのひとつ」:アサーションは自分の意見を主張するためのものだと一面的にとらえてしまう人がいますが、そうではありません。時間がないときや、話をすることが面倒なときに「自分の考えを表現しない」という方法を選択することも、アサーションのひとつなのです。

「過去と他人は変えられない、変えられるのは自分自身と未来だけ」:わたしたちには、過ぎたことを変える力はありません。変わって欲しいと他人に期待することはできますが、他人を変えることはできません。どうにもならないことに余計なエネルギーを費やすのはやめにして、もっと建設的に前向きに生きようという言葉です。