給与で社員のモチベーションは上がらない!?

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今回と次回は「組織心理学」をテーマにお送りします。なぜ企業の健康管理部門が組織心理学を取り上げるのだろうかと、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。実は、メンタルヘルスの問題と組織心理学とは深い関わりがあるのです。

なぜ健康管理と組織心理学が関係するのか

企業の健康管理活動は、「病気でなければよい」という従来の早期発見・早期治療の考え方から、「もっと元気に」という予防や健康増進の考え方へシフトしています。

一方、企業にとって、生産性を高めることは常に重要な課題でした。時代背景に応じて、年功制や職能制度、最近の成果主義など、さまざまな施策が導入されてきました。

突きつめると、メンタルヘルスと生産性は表裏一体の関係にあります。それを説明してくれるのが、組織心理学における「ワーク・モチベーション」(働く動機付け)という分野です。

つまり幸運にも、社員の健康を考える健康管理部門の関心と、生産性を高めたいと考える企業の関心とが、ここにきて一致したというわけです。

社員のモチベーションを高めるものは何か

組織心理学の最大の関心は、何が社員のやる気や生産性を上げるのか明らかにすることです。そのため、モチベーションに関するさまざまな理論が検証され、発展してきました。

例えば、給与や賃金などは上がった時よりも下がった時のインパクトがずっと強いことが知られています(動機付け・衛生要因理論)。経済的な報酬でモチベーションを高めるという制度はそれほど効果的な施策ではないのです。人件費に限りがあることを考えれば、実は極めて危険であるとも言えるでしょう。

部下のモチベーションを高めるマネジメント

社員のモチベーションを高めるのは、金銭的な報酬よりも、評価や承認などの「心理的報酬」です。おおざっぱではありますが、モチベーション理論のいくつかをマネジメント手法にあてはめると、次のようなヒントが得られます。

  • 「部下の目標をよく聞き出した上で仕事を割り振る」(期待理論)
  • 「自分と比較する相手をうまく選ばせる」(公正理論)
  • 「ポリシーは上から、アイディアは下から」(Control-Demandモデル)
  • 「2~3回に1回ほめる」(公正理論、努力報酬不均衡モデル)

いずれも上司と部下のコミュニケーションが基盤となっています。傾聴法やコーチングの重要性が再確認できます。

モチベーションに最も影響を与える「組織公平性」

モチベーションに影響を与える因子はいくつもあり、複雑に絡み合っています。その中で何が最も重要なのか、日米の多数の企業を対象に研究が行われました。

その結果、「組織公平性」という尺度が、あらゆる要素に強い影響を及ぼし、従業員のメンタルヘルスと生産性を高めていることが明らかになったのです。

次回は、昨年度の社内調査の結果をレビューしながら、組織公平性について説明を加え、組織公平性を高めるマネジメントの工夫などを紹介したいと思います。

参考

ELECTRIC DOC. – ウチの会社は公平な組織か!?

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。