職場の「ご近所づきあい」を活性化する3つのしかけ

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最近は職場からも「ご近所づきあい」が無くなり、従業員のコミュニケーションが薄れ、トラブルやストレスの原因となっています。「ご近所づきあい」を回復させ、快適な職場を作るための「しかけ」を紹介します。

ご近所づきあいが無くなった職場

 核家族化や団地化が進み、地域社会から「ご近所づきあい」が失われて久しいと言われています。近隣のコミュニケーションが薄れ、住民同士の信頼関係や助け合いの精神が乏しくなった結果、地域でのトラブルや犯罪が増加しています。

 現在、同じことが職場でもおきているようです。個を尊重する時代となり、価値観や雇用形態が多様化し、仕事の専門分化が進む中で、「隣の部署 (隣の席の人) は何をしているのか知らない」「自分の仕事だけしていればよい」という風潮が広がってきました。

なかなか解決できない「ご近所の困りごと」

 産業医の重要な仕事のひとつに、作業現場やオフィスを定期的に視察する「職場巡視」があります。安全と健康の確保、快適な職場作りの観点から、作業環境や作業の進め方をチェックしています。

 職場巡視をしていると、職場のわずかな問題がいつまでも放置され、従業員のストレスやトラブルの元になっているというケースをよく目にします。

(1) 昼休みに真っ暗になる職場
・省エネのため自動的に明かりが消える
・暗くて作業しづらい、お弁当がおいしくないと不満に感じている
・必要であれば部分的に点灯するというルールがある
・しかし、誰も明かりを点けようとしない

(2) 疲れたと言えない職場
・PC作業を1〜2時間も続けていると肩や腰が痛くなる
・しかし周囲に気兼ねして、席を立ったり休憩したりできない
・喫煙者には喫煙室があってうらやましいと思っている

(3) 暑い(寒い)と言えない職場
・暑さや寒さを我慢して仕事をしている
・どこに(誰に)言えばよいのかわからない
・ついイライラしてしまう

(4) あいさつが無い職場
・誰も出社時や退社時のあいさつをしない
・新入社員があいさつをすると「静かにしろ」と注意される
・みんな個人ブースやパーティションに姿が隠れている

 どれもみんな、ささいなことばかりです。しかし「困っていても、誰に相談すればいいかわからない」「周りの人が困っていることにすら気づかない」という傾向は、メンタルヘルス疾患などの深刻な問題に発展することもあります。

私が経験した問題解決の「妙案」の数々

 失われた「職場のご近所づきあい」を回復するには、どのような方策があるのでしょうか。私が経験した当社の事例を紹介します。

(1) フロアごとの「町内会」で問題解決

 ある事業所では、パーティションの無い広々としたフロアに、いろいろな部門が同居していました。一見、風通しのよい良好な職場環境のようですが、職場巡視をしてみると、さまざまな問題が浮かび上がってきたのです。

 それは「これはうちの部門の管轄ではない」というセクショナリズムの横行です。また「これはフロア全体の問題なので、うちの部門だけでは決められない」と、職場環境の問題が何ヶ月も宙ぶらりんになっていました。

 ある時、総務担当者が音頭を取り、部門の代表者が集まる「町内会」を各フロアごとに組織しました。部門の垣根を越えてフロア内の問題について話し合うようになり、また、困りごとの相談窓口としても機能するようになりました。そして、共用部分のレイアウトの改善、倉庫内の整理整頓、喫煙室の利用ルール作り、避難経路の確保など、手つかずだった問題が次々と現場で解決されるようになりました。

(2) 視線のふれあいを増やすレイアウト

 また、あるソフトウェアの開発部門では、180cmもある高いパーティションのせいで、仕事をしているメンバーの顔が全く見えない状況が続いていました。上司と部下、同僚同士のコミュニケーションが阻害され、問題となる事例も発生していたのです。

 ある時、部門長の英断で、すべてのパーティションを120cmのものに交換しました。立ち上がるだけで周囲を見渡せるようになり、相談や報告など、現場のやりとりがずいぶん改善しました。

 別の職場では、通路を挟んで背中合わせに座るのではなく、L字型の机を使い、斜め向きに座るようにしました。デスクで作業をしていても、少し顔を上げるだけで通路を行き交う人と視線が合うようになり、チーム内のコミュニケーションが増えたそうです。

(3) 上司の率先した行動が部下の行動を変える

 例えば「ノー残業デー」など、社員に指示を与える時には、社員が自主的に行動してくれることを期待しがちです。ところが多くの社員は「上司や同僚に気兼ねして、なかなか行動できない」と言います。そんな時は、上司が率先して行動することが重要なようです。

 ある上司はノー残業デーを自ら実践しています。忙しい部門なので、早く帰るためのやりくりはいつも大変ですが、自分自身や部下の健康管理のためにも続けていきたいと言います。

 ある上司は、昼休みに照明が消えた後、在席しているときには自分のデスクの周りだけスイッチを入れるようにしています。それを見た部下も、必要な時には頭上の照明をつけるようになったそうです。

 ある部門長は、部内の雰囲気が暗いことを心配して、毎朝、社員と顔を合わせるたびに大きな声であいさつをするように心がけました。「今度の部門長はよく話を聞いてくれそう」と、部下からも好意的な反応が得られています。

ご近所づきあいを活性化するしかけ

 職場のご近所づきあいを活性化することは、これからの企業経営や組織運営の大きな課題です。そのためには、コミュニケーションの機会を増やすさまざまな「しかけ」と、上司による率先した行動が必要です。

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。