職場のメンタルヘルス対策に関する連載の最終回です。今回はメンタルヘルス不調を予防する取り組みについてご説明します。
■職場のストレス要因と、改善の足がかり
メンタルヘルス不調を予防するには職場のストレス対策が必要です。まず、職場のストレス要因について調べてみましょう。
厚生労働省の調査では、職場のストレスの内容として「職場の人間関係」「仕事の量」「仕事の質」「会社の将来性」「仕事への適正」「雇用の安定性」などが挙げられています。
●仕事の要求度―コントロール―サポートモデル
次に、ストレス要因を科学的な側面から分析してみましょう。「要求度―コントロール―サポートモデル」という理論では、職場のストレスを「要求度」と「コントロール」、「上司のサポート」と「同僚のサポート」という4つの軸で表します。
「要求度」とは仕事の量やペース、難易度、責任の大きさなどです。「コントロール」とは、仕事のやり方を自分のペースで決められる裁量権や、自分の知識や技術を生かせるかどうかを表します。このモデルでは仕事の負担を下げるか、裁量度を高めるか、上司や同僚からの支援を増やせば職場ストレスが改善することになります。
●努力―報酬不均衡モデル
次の図は、職場のストレスを「仕事の要求度」と「報酬」のバランスで表すもので「努力―報酬不均衡モデル」といいます。
「仕事の要求度」とは、難易度の高さや、責任や負担の大きさなどを表します。「報酬」とは金銭的なものだけではなく、周囲からの評価や仕事のやりがいといった「心理的な報酬」や、雇用の安定性や昇進など「キャリアの報酬」などもあります。
仕事量は多いのに雇用が不安定な状況、常に高レベルの業績を求められるのに昇給の見通しが与えられない状況、一生懸命やっているのに正当に評価されない状況など、努力と報酬のバランスが悪いときにストレスが多くなります。しかし、金銭的な報酬を増やすことは容易ではありません。そこで、いかに心理的な報酬を高めるかがポイントになります。
■職場改善のアプローチ
こうしたストレス調査やストレス理論から、次のような職場改善のポイントが見えてきます。
職場改善の具体例として「職場環境等改善のためのヒント集」が役に立ちます。これは全国から集めた改善事例を「作業計画への参加と情報の共有、勤務時間と作業編成、円滑な作業手順、作業場環境、職場内の相互支援、安心できる職場のしくみ」の6つに分類したものです。
■改善のキーワードは「コミュニケーション」
最近の職場では、コミュニケーションの機会が減ってきています。そんな中、コミュニケーションを苦手に感じる社員も増えているようです。
人間関係のストレスも、元をたどればコミュニケーションの問題です。また、上司や同僚からのサポートや、心理的な報酬を受け取るときにもコミュニケーションが必要です。職場のコミュニケーション不足は、実にいろいろな問題を起こしているのです。
■「職場のコミュニケーション」を改善するための対策
社内のマネジャー研修で「職場のコミュニケーションの改善」をテーマにグループディスカッションを実施しました。たくさんの事例発表がありましたので、いくつかご紹介します。
- 発言しやすいよう、部内のミーティングを少人数に分割して行なう
- プレゼンや発表など他者のフィードバックや評価を得られる機会を与える
- ひとつ上の上司と直接コミュニケーションできるようにする
- 会話のきっかけを増やすために、毎日5分間の昼礼でひとりずつ話をする
- マネジャーが率先して大きな声で挨拶をする
- ひとりで担当している仕事の状況も全員でシェアしておく
- 定期的に席替えを行う
- 会話のきっかけを増やすため、ニコニコカレンダーを試験的に導入した
- プロジェクトの合宿を行う
- お互いの状況がわかるように、掲示板に仕事の困りごとを毎日記入させる
- 定期的にみんなで一緒にランチを取る
■最後に
職場のメンタルヘルス不調は、個人のパフォーマンスだけではなく、組織のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。今回の連載では「職場のメンタルヘルス対策」をテーマに、メンタルヘルス不調への対処法、自分自身や部下の体調の変化に早期に対応する方法、ストレスの少ない快適職場を作る方法をご紹介しました。
参考
事業場におけるメンタルヘルスサポートページ
『職場におけるメンタルヘルスのスペシャリストBOOK』(川上憲人・堤明純 監修、培風館)