産業保健スタッフのみなさんにとって、「Well-being」という言葉は、1948年のWHO憲章で提唱された「健康とは、単に疾病や病弱が存在しないことではなく、肉体的、精神的、社会的に完全に満たされた状態である」という定義が馴染み深いのではないでしょうか。
しかし近年、Well-beingという言葉の意味がさらに広がりを見せています。個人の健康や幸福だけではなく、地球環境の保護や持続可能な社会の実現といったテーマとも結びついた、より包括的な、幅広い概念として使われるようになってきています。
この記事では、”Well-being”という言葉がどのように進化してきたのか、その背景や広がりについて紹介していきます。
WHOによる初期の定義
1946年のWHO憲章では、「健康」とは「肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である」と定義されました。ここで、Well-beingは健康の大切な要素として位置づけられています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
また、世界中すべての人々が健康であることは、平和と安全と達成するための土台であり、人種や宗教などに関係なく、最高の健康を得る権利はすべての人に平等に与えられているとされています。
Well-beingの概念の展開
その後、時代が進むにつれて、Well-beingの考え方は、個人の健康や幸福という枠を超えて、社会全体や地球環境も含む広い視点へと広がっています。
2021年: WHOヘルスプロモーション用語集
WHOが2021年に発表した『ヘルスプロモーション用語集』(日本語訳)では、Well-beingは「幸福」として定義されています。ここでは、「健康とWell-being(幸福)」は、社会、経済、環境といった条件によって決定されるものであり、人々が安心して充実した日常生活を送るための基盤と考えられています。また、「プラネタリーヘルス(地球の健康)」との関連づけられ、自然環境を守りながら持続可能な社会を築く視点が新たに取り入れられました。
プラネタリーヘルスの概念
プラネタリーヘルスとは、人間の健康と、地球の健康を統合的に考える視点のことです。ここでいう「地球の健康」とは、生態系の維持、環境保全、持続可能な方法で天然資源を活用することを指します。人間の活動が地球環境に与える影響を意識しながら、人々の健康を守りつつ、地球環境を保護していくことを目指す考え方です。
2024年: 第六次環境基本計画
我が国の第六次環境基本計画では、Well-beingが「高い生活の質」として位置付けられています。環境、経済、社会をバランスよく発展させることで、Well-beingを実現することを最終的な目標としています。この計画では、プラネタリーヘルスの考え方を取り入れ、地球環境を守りながら、人々が健康で幸せに暮らせる社会のモデルを提案しています。
Well-beingとSDGs、持続可能性との関係
Well-beingの概念は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)と深くつながっています。SDGsは、貧困をなくしたり、健康的な暮らしを提供したり、地球環境を守ることを目指す17の目標から成り立っています。Well-beingは、人々の健康や豊かな生活、地球環境の保護を同時に支える考え方として、これらの目標の実現を後押ししています。
Well-beingの広がりを実践に活かすために
Well-beingは、個人の健康から社会全体、さらには地球環境まで含む幅広い概念へと進化しています。これは、健康と幸福が、医療や福祉だけでなく、経済、環境、教育、地域社会など、さまざまな要因に影響されるという認識が広がってきたからです。
職場での「働く人の健康やWell-being」も同様です。社員一人ひとりの健康を守り、働きやすい環境をつくるためには、健康管理部門や人事部門だけでなく、すべての部署がそれぞれの視点でWell-beingを支える活動を実践していけると良いでしょう。
さらに、企業活動が地域社会にも影響を与えることを考えれば、「地域社会(に暮らす人々の)のWell-being」を意識した取り組みも重要です。例えば、地域の環境保全活動や、地域イベントへの参画など、環境保全活動や社会貢献活動、持続可能性を推進する活動を通じて、社員のWell-beingを基盤としながら地域社会に貢献する取り組みを実施できるでしょう。
私たち産業保健スタッフには、このようなWell-beingの意味の広がりを理解し、それを産業保健の現場で活かす具体的な取り組みを考えることが求められています。Well-beingが注目されている今こそ、この機会を活用して産業保健活動を充実させ、働く人々と、社会に暮らす人々の健康とWell-beingに貢献していきましょう。