みなさんは、自分の職場のことが好きですか? 毎朝ベッドから起きて、仕事に出かける支度をしているとき、あるいは通勤電車やマイカーの中で「今日はどんな事がおきるだろうか」とか「今日はこんなことをがんばろう」と、わくわくした気持ちを感じていますか?
今、職場のメンタルヘルス対策の専門家が取り組んでいることは、まさに、そのような職場を作ることなのです。社員がいきいきと働ける職場、メンバーが一体となって課題に取り組むことができる職場、そうした「いきいきした職場」を作ることが、従業員の働きがいや企業の利益を生み出し、さらには、うつ病などのメンタルヘルス疾患を予防できるのです。
私は、働く人の安全と健康を願う産業医のひとりとして、そうした職場づくりをぜひ実現したいと考えています。従業員と経営者、みんなが幸せになれる職場を作ることこそが、私の目標です。
“みんなが幸せになれる職場”を作る3つの要素
「みんなが幸せになれる職場」というのは、従業員がいきいきと仕事に打ち込むことができ、協力して成果を出せる職場のことです。
そうした職場を作るためには、3つの重要な要素があります。
1つ目は、従業員ひとりひとりのスキルです。仕事の問題をみんなで協力して解決するスキル、円滑なコミュニケーションを行うスキル、難しい課題があってもチャレンジして取り組むスキル、複雑な問題をシンプルに解決するスキル、たくさんの業務に優先順位をつけて限られた時間の中で成果を出すスキル、ストレスに必要以上に悩まないスキル、そのほかにも職種に応じてさまざまなスキルがあります。
2つ目は、マネジャーのスキルです。個性的なメンバーを束ね、みんなの違いを活かしながら、ひとりひとりの力を何倍にも高めてチームとして成果を出す。そのために、部下のモチベーションを高めたり、効果的な指導を行ったり、職場の問題を協調的に解決したり、公正で、かつ、思いやりのある労務管理を行ったり、マネジャーの役割はとても重要です。
そして3つ目は、職場の風土です。職場のみんなが、お互いをひとりの人間として尊重し、話し合い、認め合い、助け合いながら、自由な発想や工夫を活かして仕事に取り組める職場風土は、会社が成果を出し続けるために必要不可欠なものです。
みんなが幸せになれる職場を作るためには、この3つが必要です。従業員のスキル、マネジャーのスキル、そして、いきいきとした風通しの良い職場風土。これらの3つの要素が、企業の利益を生む源になり、また、同時に、メンタルヘルス不調を予防する特効薬になるのです。
“みんなが幸せになれる職場”をどうやって作るか
それでは「みんなが幸せになれる職場」を、どのように作っていけばよいのでしょうか。私は産業医として、企業の健康管理部門に所属して仕事をしています。社員のメンタルヘルス不調への対応は、健康管理部門のとても重要な業務になっています。
しかし、いくらメンタルヘルスの問題が重要だといっても、「従業員を元気にする活動」や「いきいきとした職場風土を作る活動」、また「みんなが幸せになれる職場を作る活動」を、産業医や健康管理部門だけで行うことは困難です。そうした活動を健康管理部門が行うことは少し唐突な印象があるため、社内の理解を得ることが難しく、予算や人員を確保できないからです。
そこで私は、2年前から、人事管理部門、人財育成部問、ハラスメント相談部門、キャリア相談部門、ダイバーシティー推進部門、労働組合など、社内のいろいろな部門の担当者と、こうした対策をどのように進めて行けばよいのか相談を重ねてきました。従業員がいきいきと働ける職場を作っていくことの重要性を、社内の多くの人に理解してもらうこと、また、そうした取り組みを、部門を超えた共通の目標とすることがねらいです。
そして、担当者と協力して、いくつかの取り組みを実施することができました。最初は草の根的な小さな活動でも、みんなで力を合わせて続けていくことで、いずれは重要な経営上の課題として「みんなが幸せになれる職場づくり」に取り組めるようにしたいと考えています。
従業員と経営者が、安全に、健康に、いきいきと働けて、そして、みんなが幸せになれる、そうした職場を、世界中にたくさん作ることこそが、私の目指す夢なのです。