1. 産業医面談の仕組みを理解する:社員の健康を守る基本プロセス

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この記事では、産業医、産業看護職、衛生管理者、そして企業の人事担当者を対象に、社員の健康管理について解説します。さまざまな事例を紹介しながら、産業医面談などを円滑に実施するための社内の対策について、シリーズでご紹介していきます。今回は産業医面談の基本的な仕組みと、その法的な背景について解説していきます。

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ケーススタディ:管理職からの相談とその後の対応

ある日、社内の健康管理の担当者が、管理職から次のような相談を受けました。

「部下のAさんのことですが、最近疲れた表情をしており、遅刻や欠勤が増えていたんです。本人に話を聞くと、最近、体調が優れないと言っていました。仕事のストレスが原因かもしれないと言っていたので、『あまり無理をしないように』と伝えて、少し業務の負荷を減らして様子をみていました。その後は、そういう話も出なくなったので、調子が落ち着いてきたのかと思っていたら、今朝、本人から『休職したい』との電話がありましたので、必要な手続きについて教えて欲しいのですが……」

いかがでしょうか。みなさんも、このような状況を経験したことがあるかもしれません。従業員の健康問題を放置すると、問題が深刻化し、業務に大きな影響を及ぼすことがあります。適切なタイミングで産業医面談などの社内の仕組みを活用することで、早期に問題を解決し、職場の健康を守ることができます。

今回は、こうした事例に対して産業医面談をどのように活用するか、その基本的な流れを解説します。


産業医面談とは?

日本の労働安全衛生法では、仕事が原因で社員の健康が損なわれないよう、企業に適切な配慮が求められており、その一環として、企業は産業医の意見を確認する義務があります。そこで産業医面談を実施し、産業医が社員の健康状態や職場の状況を直接確認します。産業医は面談の結果をもとに必要な対策を検討し、企業に対して「産業医の意見書」を発行します。

産業医面談は、社員の健康を守るだけでなく、企業が安全配慮義務を確実に果たすための重要な手続きです。冒頭のAさんのケースでは、早期に産業医面談を実施することで、問題が深刻になる前に適切な対策を打てた可能性があります。


産業医面談の基本プロセス

産業医面談は、以下のプロセスで進行します。この流れを正しく理解し活用することで、職場の健康管理をスムーズに行えます。

社員の健康管理の基本的な仕組み
  1. 産業医面談の実施
    Aさんが上司に「体調がすぐれない」と話した時点で、上司は人事担当者や健康管理の担当者に連絡し、産業医面談を手配します。産業医との面談では、Aさんの体調やストレスの原因、職場での困りごとを丁寧にヒアリングします。

  2. 情報の収集と分析
    産業医は、Aさんとの面談を通じて健康状態や職場の状況を把握します。必要に応じて、上司や主治医からも情報を収集し、問題の全体像を明らかにします。例えば、Aさんの健康状態、業務量、チームの状況、ストレスの要因などを把握し、適切な対応策を検討します。場合によっては、病院の受診を指示したり、紹介状を発行することもあります。

  3. 産業医の意見書の発行
    産業医は面談結果をもとに「産業医の意見書」を発行し、企業に(通常は人事担当者宛に)提出します。この意見書には、健康状態を考慮した職場での措置の必要性や具体的な提案が記載されます。例えば、Aさんの場合、「病院の受診が必要」、「残業時間の制限」、「特定業務の負担軽減」などが提案されることがあります。

  4. 会社の対応(就業上の措置)
    意見書を受け取った人事担当者は、Aさんの上司や、場合によってはAさん本人とも協議し、職場での対策(就業上の措置)を決定し、実施します。就業上の措置は、産業医の意見だけでなく、主治医の意見、上司の意見、本人の意見、職場の状況や、社内規程なども考慮したうえで決定されます。

  5. フォローアップ
    その後も、Aさんの体調が回復するまで継続的にフォローアップを行います。定期的に産業医面談を実施し、Aさんの健康状態や、職場の状況などを確認します。必要に応じて産業医の意見書を発行し、就業上の措置の変更や解除を行います。

産業医面談が必要な場面と法的根拠

産業医面談は、次のような場面で実施されます。社員の健康状態が悪化する前に、予防的に対応することが理想です。

  1. 健康診断の事後措置:健康診断で異常が見られた場合、職場での対応の要否やその内容について産業医の意見を確認するために、必要に応じて産業医面談を実施します。
  2. 長時間労働者への面談:一定の長時間労働を実施した社員に対して、産業医の面談を行い、必要な就業上の措置について意見を求めます。
  3. ストレスチェック後の対応:ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対して、産業医の面談を行い、必要な就業上の措置について意見を求めます。
  4. 職場復帰や休職中の支援:休職中や復帰後の従業員へのサポートのため、定期的に産業医面談を実施し、必要な意見を求めます。
  5. 治療と就労の両立支援:病気の治療を行いながら就業を続ける従業員へのサポートのため、定期的に産業医面談を実施し、必要な意見を求めます。

上記の1~3の対応は、労働安全衛生法第66条に、企業の義務として定められています。4や5の対応については、厚生労働省が発行した「治療と就労の両立支援ガイドライン」に記載されており、社員の病気やケガなどに対しても、同様の手順で対応することが求められています。


まとめ:産業医面談は従業員の健康管理の基本

産業医面談は、従業員の健康問題を早期に発見し、適切に対処するための「基本的な健康管理の仕組み」です。Aさんのようなケースでは、産業医面談を活用することで問題の深刻化を防ぎ、従業員と職場双方の負担を軽減できます。

まずは、皆さんが担当事業所における産業医面談の運用ルールを確認してみましょう。必要なタイミングで面談が実施できるか、意見書の発行が適切に行われているか、職場や人事担当者との情報共有の体制や、フォローアップの体制が十分かを見直してみてください。

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