[法令解説] 配置転換後(過去従事者・従事経験者)の特定化学物質の特殊健康診断

      [法令解説] 配置転換後(過去従事者・従事経験者)の特定化学物質の特殊健康診断 はコメントを受け付けていません

特定化学物質(特化物)の中には、配置転換などでその業務に従事しなくなった従業員に対して、在職中ずっと特殊健康診断を定期的に実施するものがあります。発がん性など長期的な健康影響が懸念される物質ですので、確実に健康診断を実施しましょう。ここでは根拠となる法令の条文と対象物質の一覧について解説します。

法令では「常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているもの」という表現をしています。『労働衛生のしおり』では「配転後」という表現をしていますので、本記事では「配置転換後(配転後)の特殊健康診断」という名称を用いて解説します。企業によっては「過去従事者の健康診断」や「従事経験者の健康診断」という呼び方をしていることもありますが、どの呼び方が正式なのかは不明です。

法令の解説

特定化学物質障害予防規則 第39条 第2項
第6章 健康診断
(健康診断の実施)
第39条
2 事業者は、令第二十二条第二項の業務(石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務を除く。)に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、別表第三の上欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。

特化則第39条第2項をわかりやすく説明すると「労働安全衛生法施行令第22条第2項の業務(下記)に、社内でこれまでに常時従事したことのある労働者で、現在も雇用している労働者に対し、別表第3に定めるように(定期に行う特殊健康診断とおなじ項目と頻度で)特殊健康診断を実施しなければならない」ということです。対象となるのは「自社で従事させていた労働者」だけです。入社前に他社でその業務を行なっていた場合は健康診断の対象となりません。

  • 対象者:社内で表1を取り扱う業務に常時従事していたことのある労働者(入社前に他社で実施していた場合は対象とならない)
  • 検査項目:特化物の定期の特殊健康診断と同じ
  • 実施頻度:特化物の定期の特殊健康診断と同じ
  • 期間:配置転換後から退職するまで(在職中はずっと)

配転後の特殊健康診断の対象となる業務

労働安全衛生法施行令第22条第2項の業務とは、労働安全衛生法施行令第22条第2項に示す、表1の物質を製造する業務・取り扱う業務のことです。

『労働衛生のしおり(平成30年度版)』(中央労働災害防止協会)の「IV 労働衛生関係法令・指針・通達等 1-(4) 特定化学物質障害予防規則(P178)」に掲載されている一覧表の下から4行目、「配転後」の行に○印の付いている物質(図1)が該当します。

表1:配転後の特殊健康診断の対象物質(労働安全衛生法施行令第22条第2項より)

一 ベンジジン及びその塩
一の二 ビス(クロロメチル)エーテル
二 ベータ-ナフチルアミン及びその塩
三 ジクロルベンジジン及びその塩
四 アルフア-ナフチルアミン及びその塩
五 オルト-トリジン及びその塩
六 ジアニシジン及びその塩
七 ベリリウム及びその化合物
八 ベンゾトリクロリド
九 インジウム化合物
九の二 エチルベンゼン
九の三 エチレンイミン
十 塩化ビニル
十一 オーラミン
十一の二 オルト-トルイジン
十二 クロム酸及びその塩
十三 クロロメチルメチルエーテル
十三の二 コバルト及び無機化合物
十四 コールタール
十四の二 酸化プロピレン
十四の三 三酸化二アンチモン
十五 三・三′-ジクロロ-四・四′-ジアミノジフエニルメタン
十五の二 一・二-ジクロロプロパン
十五の三 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
十五の四 ジメチル-ニ・ニ-ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP)
十五の五 一・一-ジメチルヒドラジン
十六 重クロム酸及びその塩
十六の二 ナフタレン
十七 ニツケル化合物(次号に掲げる物を除き、粉状の物に限る。)
十八 ニツケルカルボニル
十九 パラ-ジメチルアミノアゾベンゼン
十九の二 砒(ひ)素及びその化合物(アルシン及び砒(ひ)化ガリウムを除く。)
二十 ベータ-プロピオラクトン
二十一 ベンゼン
二十二 マゼンタ
二十二の二 リフラクトリーセラミックファイバー
二十三 第一号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は第八号に掲げる物をその重量の〇・五パーセントを超えて含有する製剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて含有するものに限る。)
二十四 第九号から第二十二号の二までに掲げる物を含有する製剤その他の物で、厚生労働省令で定めるもの

図1:配転後の特殊健康診断の対象物質(『労働衛生のしおり(平成30年度版)』P178より)

配転後の特殊健康診断の対象者

また、対象者は、これまでに社内で該当業務に常時従事していた人で、現在はその業務を行っていない人です。退職するまでの間、在職中はずっと、特殊健康診断を行う必要があります。

中途入社の社員など、他社で特化物を取り扱っていた人は対象にはなりません。自社で業務を行わせていた人が対象となります。

配転後の特殊健康診断の項目や実施頻度

特殊健康診断の項目や実施頻度は、特化則の別表第3の通りです。つまり、特化物の定期の特殊健康診断と同じ項目・同じ実施頻度です。