先月、中途入社してきたAさんは、新しい職場で戸惑っています。以前の会社とは業務手順が大きく違い、今までの経験やノウハウを十分に活かせないでいるのです。担当者のBさんに教えてもらおうと思っても「そんなこと、常識でしょう?」と言いたげな怖い顔をされてしまい、何だか今さら聞けない雰囲気です。
多種多様な人材が共に働く現代の職場では、従来のような「職場の常識」が十分に通用しなくなっています。
Aさんのような 中途社員、あるいは異動者や新入社員などは、職場に存在する「暗黙のルール」「組織の文化」に対する共通認識を持っていません。そのため、業務手順や分担などについての理解が食い違い、思わぬミスが生じたり、意見の対立や感情的な対立が生じたりすることがあります。
このような問題を防ぎ、風通しの良い職場にするには、まずは上司や先輩が、困っている部下や後輩の話をしっかり聞き、問題解決の手助けをすることが必要です。そのためには「積極的傾聴法」「コーチング」のスキルが役立ちます。
傾聴的な態度
傾聴とは、相手の話にひたすら耳を傾けることです。話の内容に冠する善し悪しの評価を保留し、相手が何を考え、どんな気持ちになり、何を言いたいのかを理解しようとします。「なるほど」「ええ」「それで?」「それから?」などの相づちを使って、話を促していきます。相手が自分の「常識」と異なる発言をしたときは、「常識知らずだ」と決めつけることはせず、なぜ相手がそのように思うのか、まず理由をたずねてみましょう。
聞き手の理解を確認する
相手の話を聞いた後は、それを自分が正しく理解できたかどうか、内容を要約して確認します。その際、否定的な印象を与えない中立的な表現を使って言い換えるようにします。
例えば「やり方がわからなくても、話しかけると不機嫌そうだし、聞けなかったんですよ。それで、一応仕上げてみたんですが、時間もかかるし、やはりうまくいかなくて」という発言を、「仕事の手順が不明確なときに、すぐに確認できなかったことが、問題だと思っているんですね」などと言い換えるとよいでしょう。
真のニーズや解決策を引き出すための問いかけ
本人が困ったと感じている問題の裏には「真のニーズ」が隠れています。「Aさんは、これまでの経験やノウハウを活かしながら、早くこの職場に打ち解けて、業務で成果を出したいと考えているんだね」など、相手のニーズや問題解決のポイントを明確にします。そして、「そのためには、どういうことができるかな」「そのためには、何が問題だと思う?」と、解決策を引き出すための質問をします。
参考
『人と組織を強くする交渉力 コンフリクト・マネジメントの実践トレーニング』(著者:鈴木有香、出版:自由国民社)