『こんな上司が部下を追いつめる ~産業医のファイルから~』 (荒井千暁、文芸春秋)という本を読みました。日清紡で産業医を務める著者が過労死や過労自殺などの事例を検討し、そこに登場する上司と部下の姿を考察しています。僕自身ふだん感じている事が的確に表現されていて、なるほどなぁと、とても参考になりました。
こんな上司が部下を追いつめる
著者は「部下を過労へと追いつめる」上司を次のように表現しています。
- 部下を育てようという気持ちや愛情に欠ける。
- 保身的で自己分析ができず他人のせいにする。
- 独断的で部下の意見に耳を貸さない。
- 目線が下げられず部下の気持ちを想像できない。
- 困っている部下をサポートしない。質問に答えない。
- 叱り方が下手。怒鳴り散らす。
- 叱れない、叱らない。見て見ぬふりをする。
- 目的や構想を語ることができない。
- 部下の個性を考えず一律のノルマを課す。
こんな部下がつまずく
また「上司のサポートをうまく受けられない」最近の部下の特徴として、次のような指摘をしています。
- PCスキルは高いが、業務の全体像がわかっておらず、主要でない作業に無駄な時間を費やす。
- 「電子メールは、素早いレスポンスが期待できる万能のツールだ」と勘違いしていて、重要な連絡や、ややこしい相談を電子メールだけで済ませてしまう。
- 対話能力に乏しく、反論されたり、意見を否定されたりすることを恐れ、会議で意見を言えない。
- 結論を短く言えない。細かい経緯を話さないと結論にたどりつけない。
- 分からないことは独力で解決すべきだと思い込み、「教えてください」と言えない。
- 業務の流れの全体像を教えられておらず、不向きな仕事や、やりがいのない(と思っている)仕事をしたがらない。
健全な職場風土を保つには
健全な職場風土を保つには上司の働きが欠かせません。本著では、部下を過労死に追い込まないために、次のようなことが提言されています。
- 仕事の全体像や目的、優先順位を教える。
- 相談しやすい雰囲気を作る。部下の業務量を把握し、孤立無援にしない。
- 過重労働の危険性を察知する。「いつもと違う」様子の部下に気づき、早めに対処する。
上司と部下のコミュニケーション改善のために
過労死・過労自殺の背景として、ひとりひとりの業務量が増加して、現場に余裕が無くなったことが指摘されています。もうひとつ、さらに大きな要因として、「世代間のギャップ」などという言葉では片付けられないほどの、上司と部下の深刻なコミュニケーション不全があるようです。
次回から数回にわたって、コミュニケーション・スキルの改善や、人間関係のトラブル解決に役立つ『交流分析』の理論を紹介する予定です。ご期待ください。
この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。