
産業医の実務では、人事担当者から、ケース対応や職場の安全管理対策などについて、複雑な経緯の相談や問い合わせのメールを受け取ることがよくあります。いくつもの返信が連なった長文のメールは、質問の意図や状況を把握するだけでも一苦労です。そこで今回は、私が日々の業務で実践している「生成AIを活用した時短とクオリティアップの工夫」をご紹介します。
1. 複雑な長文メールは、AIに「要約と論点整理」を任せる
過去のやり取りが長く続く、内容がわかりにくい相談が届いた時は、まず社内で利用が許可されている生成AIにメールの全文を読み込ませます。そして「このメールの内容を要約し、現在の問題点と、私に質問されていることをリストアップして」と指示を出します。
このメールの内容を要約し、現在の問題点と、私に質問されていることをリストアップして
以下のメールのやり取りを読んで、①これまでの経緯の要約、②現場で起きている問題点(箇条書き)、③私(産業医)に聞かれている質問(番号付き)、④回答にあたって確認すべき法的・医学的論点を抽出してください。
これにより、過去のメールの文章の中に埋もれていた経過や質問事項が可視化され、短い時間で状況を正確に把握できるようになります。
2. 音声で大雑把に入力し、AIに推敲と抜け漏れチェックを頼む
質問事項が整理できたら、そのリストを見ながら自分の考えや専門的な意見を音声入力で吹き込みます。キーボード入力よりも圧倒的に早く、あとでAIに文章を整えてもらうため、話の順番が前後しても構いません。とにかく思いついたことをすべて声に出して入力し、「この内容をもとに返信文のドラフトを作成して」と、AIに返信文のドラフトを作成してもらいます。
考えがまとまっていないときは「○○というような方向で返信しようとしているんだけど、ちょっと説明がわかりにくいような気がするんだよねえ」「もう少しわかりやすく説明したいなあ」などとチャットで指示を出して、内容の整理を手伝ってもらうこともできます。
ある程度回答がまとまったら、AIに「この返信で、送信者の質問や疑問にすべて答えられているか? 他に回答しておいたほうが良い内容はある?」と問いかけ、回答の抜け漏れがないかをチェックしてもらいます。さらに、説明する内容が多いと文章が長くなってしまうので、最後に「内容をあまり変えずに、文章を短くして、要件が一目で分かる構成に整理しなおして」とか、「メールの冒頭に、これまでの経過と現状の問題点を簡単にまとめて」などと指示し、相手がひと目で理解できるコンパクトな文面に整え、出力結果を元に手作業で簡単に修正して完成させます。
この内容をもとに返信文のドラフトを作成して。
メールの冒頭に、これまでの経過と現状の問題点を簡単にまとめて、その後で私の回答を記載して。
文章を短くして、要件が一目で分かる構成に整理しなおして。
「ございます」という過剰に丁寧な表現は使わず、です・ます調で書いて。
この返信で、送信者の質問や疑問にすべて答えられているかをチェックして。
他に回答しておいたほうが良い内容はある?
3. 調べ物はAI検索を活用しつつ「一次情報」で必ず裏付けをとる
最近は、調べ物にも生成AIを用いた検索サービスを活用することが増えました。普通の日本語で相談するように検索でき、ピンポイントで必要な情報を出力してくれるため、短時間で情報を把握するのに非常に助かっています。
ただし、医学的・法律的な内容については、AIの回答をそのまま鵜呑みにすることはありません。AIが事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」の頻度は減っているものの、やはりリスクが伴うからです。そのため、AIの回答はあくまでヒントとして扱い、最終的には必ず厚生労働省のガイドラインや法令の本文、信頼できる医学的な解説ページなどの「一次情報」で根拠を確認することを徹底しています。
4. セキュリティ対策として、使用後は「チャット履歴」を削除する
さらに実務的な工夫として、一連のメール作成と送信が終わった後は、AI上のチャット履歴(スレッド)を削除するようにしています。セキュアな環境とはいえ、機微な情報が画面上に残り続けるのを防ぐためです。また、履歴をこまめに消すことで、次に全く別のケースを相談した際に、AIが前回の事情と混同してしまうのを防ぐという実用的なメリットもあります。
5. あえて即レスせず、「後で送信」機能を活用する
AIを使って素早くメールを作成できたとしても、すべてのメールに即座に返信することが最善の対応とは限りません。そのため、私はあえて少し間を置いてから返信するように心がけています。
一般的に「即レス」は良いこととされがちですが、常にすぐ返信していると「いつでもすぐ対応してくれる」という期待値が上がってしまいます。その結果、メール送信後、すぐに新たな質問メールが送られてきて、自分の業務量がどんどん増えていくことにつながります。また、メール対応に追われて本来の作業への集中が途切れてしまったり、推敲不足のまま送信してしまったりするリスクもあります。
こうしたデメリットを防ぐために重宝しているのが、メールソフトの「送信日時指定(後で送信)」機能です。30分後、1時間後、あるいは午後一番や翌日の始業時刻に送信されるよう設定しておくことで、自分の仕事のペースを守ることができます。さらに、送信前に「やはりこの内容を追加しよう」と思い立った時にも、落ち着いて対応できるので助かっています。
まとめ
メールの要約から文章の推敲、調べ物のアウトライン作成まで、生成AIを優秀なアシスタントとして活用することで、業務の時間を大幅に短縮できました。さらに音声入力を併用すれば、文章作成の労力もぐっと減らせます。
最後にしっかりと一次情報で事実確認を行うルールを守り、あえて「後で送信」することで自分の仕事のペースも保っています。この組み合わせによって、対応のスピードとクオリティを同時に向上させることができます。情報整理やメール作成に負担を感じている方は、ぜひ日々の業務に取り入れてみてください。



