
健康だよりや研修など、産業保健職が抱える「発信」「コンテンツ作成」の悩み
健康だより、ストレスチェックの結果案内、管理職向けの研修資料など、産業保健職には社内向けに情報を発信する機会が多くあります。
しかし、関係者からフィードバックをもらううちに内容がふくらんでしまい、当初伝えたかったメッセージが埋もれてしまうというジレンマを抱えがちです。完成間近で追加の要望が入り、せっかく整えたレイアウトを調整し直した経験がある方も多いのではないでしょうか。
社内文書は部門や責任者の承認が必要なため、それぞれのルールや価値観(正確性重視か、簡潔さ重視かなど)による修正の要求は避けられません。しかし、それら全ての意見を盛り込もうとすると、どうしても文章が冗長になり、焦点がぼやけてしまいます。
では、このような状況下で、従業員に伝わりやすい、わかりやすい資料を作るにはどうすればよいでしょうか。以下の4つの対処法をご紹介します。
私自身、ナッジ理論を学んで従業員の行動を促す案内文を作ろうとしたことがあります。自分ではいい出来だと思っていたのですが、最終段階で「背景の説明を加えてほしい」「年次目標にも触れてほしい」「全国衛生週間にも言及するように」「こういう注意書きも追加してほしい」「相談窓口の案内文も追加してほしい」と修正が重なり、最終的にはいつもと変わらない冗長な案内文に落ち着いてしまいました。
【対処法1】完成前ではなく「骨子」の段階で意見をもらう
資料を作り込む前に、箇条書き程度の「骨子(設計図)」を共有し、早い段階でフィードバックをもらいます。
- 健康だより:今月のテーマ・伝えたいこと・対象読者
例)「テーマ:睡眠と仕事のパフォーマンス/対象:全従業員/伝えたいこと:睡眠不足が集中力に与える影響と、今日からできる改善策3つ」 - ストレスチェック結果の案内文:目的・対象・行動してほしいこと.
例)「目的:高ストレス者に面談を受けてもらう/対象:高ストレス判定者/行動してほしいこと:案内メールのリンクから面談を予約する」 - 管理職向け研修資料:テーマとゴール、伝えたいこと・理解してほしいこと、章ごとの内容の概要、確認テストの概要.
例)「テーマ:部下のメンタル不調への早期対応/ゴール:不調のサインに気づき、産業保健スタッフに相談できるようになる」
この段階でフィードバックをもらっておくと、完成間近で大幅な修正が入ることを防ぐことができますし、さまざまな意見を作り手側で解釈して資料に反映する余地が大きくなります。また、「全体の流れとターゲットについて意見がほしい」など、確認してほしいポイントを明示すると、的外れな修正提案を防げます。
なお、こうした骨子の作成や乱雑なメモの整理には、生成AIを活用するのも大変便利です。たとえば、「以下のメモや資料から、管理職向け研修の骨子を箇条書きで作成して」と指示するだけで、人に共有しやすい形へ素早く整えてくれます。ゼロから構成を考える手間が省けるため、コンテンツ制作の負担を大幅に減らすことができます。
【対処法2】修正されやすい「挨拶文」をメインコンテンツから分離する
ナッジ理論のセミナーで学んで印象に残っているのが、作りたいコンテンツと挨拶文を最初から別々に作っておくという考え方です。
具体的にはこんなイメージです。
- 紙で送付する場合:ナッジ理論を活かして作ったチラシと、案内のお手紙を別々の用紙にして同封する
- メールで送る場合:メール本文には挨拶文を記載し、コンテンツは添付ファイルとして別に分ける(あるいはその逆)。あるいは挨拶文とコンテンツをそれぞれ別の添付ファイルとして2つ添付する
- 研修スライドを作る場合:挨拶スライドや事業所内の体制スライドなどは、あえて白紙にしておいて既存のスライドを挿入したり、後で差し替えられるようにしておく。
こうすることで、関係者からの要望で挨拶文や背景説明に修正が入っても、一番伝えたいメインコンテンツの内容やレイアウトを崩さずに守ることができます。
【対処法3】すべての意見を一問一答で返さず「全体的な反映」として伝える
細かな指摘に一つひとつ個別で対応するのではなく、「いただいたご意見を踏まえ、全体をこのような構成にしました」と伝えることで、相手の納得感を得やすくなります。ただし、さらに追加の具体的な修正を求められた場合などは、注釈として欄外に小さく追記する、あるいは素直に修正に応じるなど、議論に固執せずにさっさと対応してしまうのも、現実的な選択肢となります。
【対処法4】日々のコミュニケーションで「任せてもらえる」信頼関係を築く
日頃から関係者とこまめにコミュニケーションを取り、意見交換をしておくことも大切です。「次回の研修はこんな内容を考えています」と事前に共有しておくことで、相手の意見を確認することもできますし、いざ資料を準備する際の大きな修正を防げます。また、専門的な内容については、実績と信頼を積み重ねることで、専門家としてコンテンツ作成を一任される裁量が少しずつ広がっていきます。まずは対処法1や2の小さな工夫から始め、実績を作っていくのがおすすめです。
私自身の経験ですが、入社当初は管理職向けのメンタルヘルスケア研修の資料を作る際、社内の枠組みに沿って都度確認しながら進めていました。しかし、何年か実績を積むうちに「専門家である産業医に任せる」という雰囲気が生まれ、今では事前に骨格を共有するだけで、比較的、自由に作れるようになっています。
まとめ:資料の中身だけでなく「作成プロセス」も工夫しよう
組織で仕事をする以上、さまざまな立場の意見を反映する必要があるのは当然のことです。それでも、以下のポイントを意識するだけでも、作業は大幅に進めやすくなります。
- 骨子の段階で意見を聞いておく
- 挨拶文や背景説明は分離・独立させ、コンテンツ本体への影響を抑える
- 反映しきれない意見は、注釈や補足として小さく添える
- 時には意見をそのまま取り入れざるを得ないこともある
- 専門性を活かせる領域で実績を作り、裁量を少しずつ広げていく
伝わる資料を作るためには、資料の中身の工夫だけではなく、資料を作る手順やプロセスにも工夫が必要です。思い通りにいかないことはあっても、こうした工夫を続けることが、仕事のやりがいにもつながってきますし、少しずつ自分の仕事を楽にしてくれると思っています。




