医者が患者になったなら

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新年早々に風邪をひいてしまい、吐き気もひどく、たまらず近くの病院を受診しました。医者が病院を受診するというのは何となく気まずいもので、問診票には「会社員」と記入します。見慣れた病院の風景も、実際に具合を悪くして待合室のソファに座ってみると、いろいろなことが気になります。

病院にきたという安心感から、症状は少し楽になったようにも感じますが、今か今かと診察を待っているときの気持ちはたまりません。しびれをきらして「検査から帰ってきたが、私の前に別のひとが次々と呼ばれるのはどうしてか」と、つめよる人もいます。「検査結果が出たらすぐにお呼びしますから」と答えても、「最初からそう言ってくれ」とあまり釈然としない様子。体調が悪いときは誰だってイライラするものです。

やっと順番がくると、診察室にいたのは僕と同い年くらいの若い先生。のどの奥をチラリと照らしただけで、「カゼとウィルス性の胃腸炎です。お薬を出しますので。お大事に。」と、診察終了。ここまでわずか2分。聴診器をあてたり、おなかを押さえたりといった診察が、患者の満足感や安心感にどれほど影響するのか、重大な病気を見逃さないためにどれほど大切なことなのか、患者が押しよせる冬場の連休明けだったこともあってか、忘れてしまったようです。

吐き気が強かったので、点滴をしてもらうことになりました。だんだんと吐き気がおさまり、脱水症状が改善するにつれ、体はみるみる楽になっていきます。すると気になりはじめたのが、隣の診察室から聞こえてくる医師と看護婦の会話。この前の患者はどうだったの、ゴルフの話だの、新年会の話だの。いい退屈しのぎにはなりましたが、患者に聞こえるところで雑談するのもどうだかなあ。

よく「客の立場になって考えろ」などと言われますが、実際、顧客と同じ立場になることはめったにありません。多くのことを考えさせられた貴重な経験でした。

(この記事は、私が専属産業医として勤務している会社で、全社員に向けて毎週配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。)