がん治療と仕事の両立支援チェックリスト・従業員向けの説明資料

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2006年にがん対策基本法が制定されて10年が経ちました。この法律に基づき、国を挙げてさまざまな研究や対策が取り組まれてきました。この記事では、働く人のがん治療と就労の両立のための、社内の取り組みを整備する際に役立つツールについてご紹介します。

がん治療と就労の両立支援についての新たな課題

がん治療の発達によって、抗がん剤や放射線治療など、通院治療を行える範囲が広がってきました。それに伴い「がん治療を受けながら、仕事を続ける」という、つまり、がん治療と就労の両立支援という、新たな課題が生まれてきています。

がん治療と就労の両立支援のためにどのような取り組みが有効か、さまざまな研究が行われており、例えば「がんと就労」サイトには、患者・企業・産業医・産業看護職など、それぞれに役立つ各種のガイドブックが研究成果として公開され、誰でも自由にダウンロードできます。

また、厚生労働省からも、2016年に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が出され、がんなどの病気を抱える方の治療と職業生活の両立のために、企業が取り組むべき事が示されています。

がん治療と仕事の両立支援の課題

これらの研究成果から、がん治療と仕事の両立支援には、次のような課題があることがわかってきました。

  • がん患者のニーズは個別性が高く、がんの種類、治療内容、病状によって、困っていることはさまざま。
  • 治療費や今後の収入など、経済的なことへの不安が多い。
  • 自分の病気のことを会社にどのように伝えれば良いか困っている人が多い。
  • 会社もまた、病気のことを従業員にどのように聞いていいか困っている。
  • 治療と就労を両立できるような社内制度が必要。

チェックリストを使ってスムーズに体制の整備を

ただ、こうした資料は内容が充実しているために、分量が多すぎたり、専門的すぎたりして、何から取り組めばよいか迷ってしまうことがあります。

そこで、がん治療と就労の両立支援のために、必要な対策を簡単に調べられる「がん治療と就労の両立支援チェックリスト」を作成しました。このチェックリストを使って、次のような手順で行えば、社内の体制整備がすすめやすくなります。

  1. チェックリストを使って現状を確認する
  2. 改善が必要な点について社内で議論する
  3. 従業員向けの説明資料を作り、全従業員に周知する

がん治療と就労の両立支援チェックリスト(Wordファイル)のダウンロード

チェックリストを使って現状を確認する

「がん治療と就労の両立支援チェックリスト」では、企業が取り組むべき対策が左の列に書かれています。この内容を見ながら、現在の社内の状況を中央の列に記入します。さらに、今後必要な対策や、取り組んだ方が良いことなどを右の列に記入していきます。


がん治療と就労の両立支援チェックリスト(Wordファイル)のダウンロード

改善が必要な点について社内で議論する

社内の対策で不十分なものや、改善が必要なものがはっきりしてきたら、それぞれどう取り組んでいくかを社内で話し合います。人事制度の担当者と、健康管理の担当者とで話し合うとよいでしょう。また、産業医や産業看護職が話し合いに参加すると、「このような病気の時には、こんなふうに困るので、こういう制度が使えると役立つ」などという具体的な情報を得られます。

社内の仕組みを検討する際には、既存の制度についても「実際にどこまで使って良いか」「実際の場面で役立つかどうか」を具体的に確認しておくとよいでしょう。

例えば、病気休業制度については、抗がん剤治療のように、数週間おきに数日ずつ、繰り返し治療を行う時に利用できるかどうかについて確認し、必要に応じて取得条件などのルールを改定しておきましょう。月曜から金曜まで、週5日×5週間、放射線治療のために通院を続けながら仕事をするために、どのような制度が必要か、また、その時の労働時間の管理や給与や賞与への影響などについても確認が必要です。

その他にも、マイカー通勤なら、どの事業所であれば使えるか、使えない事業所ではどのように対応するかを検討しておきましょう。在宅勤務制度であれば、週のうち何日まで使って良いか。短時間勤務制度であれば、何時間まで短くできるか、また、短くなったぶんの給与はどう処理されるか、何カ月くらい使えるか、などを確認しておくと、実際の場面でスムーズに対応できます。

個別のニーズに応じて柔軟な運用ができるように

しかし、がん治療には個人差が大きく、治療期間なども人によって異なることに注意が必要です。5〜8週間で一区切りつく場合もあれば、3〜4か月ほど続く場合もあります。中には、年単位の治療が必要な場合もあります。それぞれの制度の上限を超えてしまうような事があったときにどうするかについても、あらかじめ検討しておく必要があります。

さまざまな場合が想定されるため、厳格にルール化するのではなく、ある程度は個別のニーズに応じて、柔軟な対応ができるようにしておくと良いでしょう。

がん治療専用の仕組みではなく、いろいろな目的で使える制度を

また、こうした両立支援制度は、がん治療の専用の制度とするのではなく、他の病気やケガの治療や、妊娠、出産、育児や介護など、さまざまな状況の時に、社員の誰もが使えるような仕組みとすることが望ましいとされています。

従業員向けの説明資料を作り、全従業員に周知する

がん治療と就労の両立支援制度に関する情報は、「いざというとき」に必要となる情報です。しかも、その時は突然やってくることが多いものです。

そこで、こうした制度を効果的に運用するためには、あらかじめ、全従業員に周知しておくことで「制度がある」ということを知らせておきましょう。また、「いざというとき」に、従業員にわかりやすく説明できるよう、1冊にまとまったガイドブックのような説明資料があると良いでしょう。

従業員向けの説明資料は、「必要な情報が1カ所にまとまっている」「家に持って帰れる」「家族にも見せられる」「あとでじっくり見られる」ように作っておきましょう。

従業員向けの資料の目次

ガイドブックを作成するときには、従業員が不安に感じる次のような項目を目次にするとよいでしょう。

  • どれくらい会社を休めるのだろうか? その間の収入は?
  • 治療後に仕事に戻れるのだろうか?
  • どれくらい回復したら仕事に復帰できるのだろうか?
  • 抗がん剤などの通院と仕事を両立できるのだろうか?
  • 診断書を出したとき、プライバシーはきちんと守られる?
  • いろいろ不安だが、誰に相談すればよいのだろうか?

ある企業の「がんに関する就労支援ハンドブック」の例

実際にある企業で使われている「従業員向けの資料」がインターネットで公開されています。どのような資料の構成にするか、どんな内容を含めるか、どのように説明するかなど、実際に従業員向けの資料を作成するときの参考になります。


(参考:中外製薬株式会社(2015)「がんに関する就労支援ハンドブック」

参考資料