病気の社員だけがケアの対象ではない

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1月12日~13日、早稲田大学で行われた第13回日本産業ストレス学会に参加してきました。産業医や保健師、臨床心理士、人事コンサルタント、メンタルヘルス関連企業など、いろんな人が参加していました。
 

◆疾病モデルからパフォーマンスモデルへ

昨今の産業保健のキーワードのひとつに「疾病モデルからパフォーマンスモデルへの転換」という概念があります。僕はもともと「産業保健とはリスク管理とパフォーマンス維持・向上のための活動だ」と考えているのですが、今回の学会でも、繰り返し強調されていました。

これまでの産業保健活動といえば、病気の予防や、病気になった社員への対応といった、疾病予防・疾病管理の考え方が中心でした。しかし、病気でなければ良いとする考え方は、会社や社員の期待に十分応えられなくなってきました。

現実に社内で問題となっているのは、病気やその他の原因で仕事ができなくなり、パフォーマンスが低下した状態が続くことです。パフォーマンスが落ちた人をどう支援するか、パフォーマンスを落とさないために何ができるのか、高いパフォーマンスを維持するにはどうすればよいのか、といった考え方に注目が集まっています。

このパフォーマンスモデルは、「強い企業づくり」、「働きがいのある風土づくり」、「やる気を引き出す制度づくり」などにも深く関連しています。欧米では、産業保健心理学という分野の研究もなされており、人事コンサルタントなどからの関心も高いそうです。

◆企業の中で(専属)産業医は何をするべきか

医師として、個人を相手にする仕事には慣れているためか、健康診断後の全社員面談や個別相談などには比較的なじみやすいものです。けれども「組織の健康へのアプローチ」となると、急にハードルが高くなるように思います。

産業医というリソースを、福利厚生的な健康管理だけではなく、もっと活用することはできないでしょうか。そのためには社内へ情報展開をしつつ、問題点やニーズを把握し、社内の活動や会社の施策へ結びつけていく、という能力が求められるといいます。

ところが、マネジャーや人事、経営層、労働組合などと、どう関係していけばよいのか、僕にはまだよくわかっていません。産業医主導型の活動よりも、社員主導型(参加型)の活動の方が効果的だと言われています。昨年は日本IBMを訪問して、金子多香子先生のお話を聞いてきましたが、そういった先輩たちの活動事例の中に、ヒントがあるのかもしれません。

◆それぞれの専門職が共通言語で話す

実は1年くらい前まで「臨床心理士なんて産業保健の現場には不要だ!」と、ライバル視していたことがあります。メンタルヘルスが、産業保健活動の大きな割合を占めてくると言われていた中で、産業医の仕事や立場を脅かされるような気がしていたのです。

その後、色々な事例を経験し、他の企業の現場を見聞きし、心理職の方からも教わる中で、少しずつ考え方が変わってきました。今回の学会でも「産業医、看護職、心理職、人事などが共通言語で会話することが必要だ」と言われていましたが、まったく同感です。

社員にとって不幸なことに、「体の病気は診るがメンタルのことはわからない」という産業医、「栄養指導しかしません」という保健師、「カウンセリングしかやりません」という臨床心理士、「うつ病なんて怠け病だ」という人事担当者など、少し前まではそんな人が珍しくありませんでした。

企業によって産業保健スタッフの人数や構成は異なりますが、お互いの分野を少しずつ学びあい、「個人の健康や組織の健康は、会社の利益や業績と一体である」という認識を持って共同することができればメリットが大きいと思います。そういう方向へ動いていくために、産業医として会社の中で何をするべきか、つねづね考える毎日です。

◆最後に

今回の学会では、岡山で一緒に勉強していた人と久しぶりにお会いしました。東京で知り合った人とも、こういう機会に顔をあわせることが多くなりました。同じ分野で仕事をしている人の姿を見ると、「よし、僕もがんばるぞー」と、元気がわいてきます。今後ともよろしくお願いします。

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